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小松正 / フォレスト出版 (1件のレビュー)
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tatsuki
このレビューはネタバレを含みます
―――あらすじ――― ヒトの心理や行動は進化的適応の産物であり、それには偏りやバイアスが存在する。 それを善悪で評価するのではなく、進化的に意味のあるものとして捉えることの重要性を、人間行動進化学の基礎的な内容に加え、宗教やLGBT、医療や教育、経済といった現代社会の問題解決や課題に焦点を当て、簡潔にまとめられた良書 ―――レビューの流れ――― -進化とその仕組み -進化の観点からヒトを研究する「人間行動進化学」 -進化の意味を誤解した「自然主義の誤謬」 -進化の産物であるバイアスを活かす「行動経済学」 -まとめ ――――――――――――― ―――進化とは――― 進化=祖先から受け継いだ形質が変化すること ※良い状態へ変化する「進歩」とは異なる点に注意 ※なお本書の題名にある進化は生物学的な「進化」と一般的に使われる「進化(進歩)」の二つの意味が込められている ―――生物が進化する仕組み――― 「自然選択の理論」=集団中の1個体に生じた突然変異が集団全体に広まるメカニズム 例)エスパニョーラ島の鞍型の甲羅を持つゾウガメ ①甲羅の形状は個体によって異なっている(個体変異) ②甲羅の形状の違いは遺伝子の影響を受けるため、鞍型の甲羅の親からは鞍型の子が生まれる傾向がある(遺伝性) ③低木やサボテンなどを主な餌とする島では、鞍型の甲羅(前方が上方に反り返っている)の個体は容易に餌を食べることができ、他の形状の甲羅を持つ個体よりも生存率が高くなり、多くの子孫を残す(適応度の個体差) 「適応度」=次世代に残す子供の数の期待値 適応度=生存率×繁殖率 →生物は「適応度」を高めるのに有利な形質が残っていく ―――人間行動進化学――― 人間行動進化学=心も進化によって形成されたという前提に基づいて、ヒトの心理を研究。 エドワード・ウィルソン 『社会生物学』:動物の行動は群選択の理論よりも、遺伝子に働く自然選択の理論によって適切に説明される。 =ヒトも生物の一種であり、他の生物と同様に進化の産物である 例)配偶者選択:交配相手の選択において、相手をランダムに選んでいるのではなく、特定の性質を持った相手を選ぶ傾向がある(=配偶子のサイズが雌雄間によって異なることが、配偶者を選ぶことにおいて雌雄間の利害関係の違いを生む) ・人間行動生態学 ・進化心理学 二つの学派が存在 ―――自然主義の誤謬――― 「自然である」と「自然だからそうすべきである」という価値観の間には必然性はない 例)「男が浮気をするのは、ヒトの繁殖戦略とから考えて自然である」 →「では、男は浮気をしてもよいとうことか!」という不毛な論争を招くことに =自然主義の誤謬 「社会進化論」イギリスの哲学者 スペンサー:社会は1つの有機体であり、生物と同じように社会も自然選択によって進化(進歩)する …スペンサーは進化を「進歩」と捉えてしまった →「優生学」イギリスの人類学者 フランシス・ゴールトン:遺伝構造を改良して人類の進歩を促進しようという考え =遺伝的に優れた人間同士の繁殖を促進することで、 優れた人間だけが生き残り、社会が進歩する →ナチスの人種政策の温床に 「劣った個体は淘汰されるのが自然である。自然であるということはそれが正しいということである。」=自然主義の誤謬の例 ―――現代生物学≠遺伝決定論――― …ヒトのあらゆる性質には遺伝と環境の双方が影響する。 特定の性質が高い適応を示すのは、特定の環境においてそうであるというだけ =ヒトには進化的適応の産物として、特定の傾向やバイアスが存在する。 それらはある環境において進化的に意味のあるモノだから残ったのであって、 それは絶対的に善や悪で判断できるものではない →現代社会とミスマッチを起こしている、進化の産物に焦点を当てていくことが必要 ―――行動経済学――― 従来の経済学…完全に合理的な人間が存在するという前提 →ヒトは特定の傾向やバイアスを持っているではないか →「行動経済学」…ヒトの進化的適応によって得た特定の傾向やバイアスを踏まえ、 進化の観点から仮説検証をすることで社会問題や課題解決に応用していく 「リチャード・セイラ―の3つの行動バイアス」 「近視眼性」:目先の利益を優先してしまう傾向 (例:双曲割引) 「限定合理性」:ヒトの意思決定は知識と認知能力の限界のため、完全に合理的であることはできないという概念 (例:メンタルアカウンティング) 「社会的選好」:ヒトは意思決定において、自分の利益のみを動機とするのではなく、他者の利益や行動も考慮する (例:最後通牒ゲーム…不平等回避) 「脳機能からわかるヒトの意思決定の例」 規則を守らないヒトがいると腹立つが、そいつがボコられると快感である 不公平な提案をされたときに活性化する部位 ・前頭皮質の両側 ・前帯状皮質 ・背外側前頭前皮質の両側 不平等回避によって活性化する部位 ・線条体(=報酬系) ―――行動バイアスはなぜあるのか――― …特定の環境において、適応的であったから(進化に有利であったから) 例)ヒトがほとんどの時間を過ごした狩猟採集生活において (ヒトの進化は基本狩猟採集生活に適応している) 「近視眼性」:食料は保存することができないため、すぐに食べるほうが適応的 =将来手に入るかわからないものよりも、 すぐに手に入るものに高い価値を感じるほうが有利 「限定合理性」:貨幣のない時代に余った衣類を食料に回すということができなかった。 そのような生活において、「家計簿」を衣類部門、食べ物部門のように独立した項目として考えたほうが有利だった 「社会的選好」:集団内の個々人は互いに顔見知りだったため、「互いに協力しようとする心理」と「協力しないやつを非難する心理」を併せ持つ個体が、最も大きな利益を得た ―――同性愛遺伝子はなぜ消失しないのか――― 適応度=次世代に子孫を残せる数の期待値 ↑を考えると、繁殖の力をほとんど失う同性愛は適応度が低く、生き残れないのではないか →しかし、同性愛者は一定数存在し続けている =同性愛遺伝子も進化的適応の産物である=進化的に有利に働く理由がある ・仮説⑴ゲイの伯父仮説 =自分で子を作らなくとも、血縁者の子育てをよく手助けすることで、 結果的に血縁者の子孫の形で遺伝子が集団何残りやすいという考え方。(働きバチなどもそう) ・仮説⑵血縁者にゲイがいる女性、他の女性より男が好き説 =性的パートナーとして男性を好む遺伝子が存在し、 その遺伝子を持つ人が女性であれば男性との性行動を活発に行い、多くの子供を持つ結果になる。 男性にその遺伝子があった場合の繁殖率の低下を補えるほど。 ―――まとめ――― 本書では、その他医療や教育、人工知能など現代社会におけるトレンドに幅広く言及している。 共通することは、 1.ヒトの心理や行動には進化的適応の結果としての偏りやバイアスがある 2.それらが良いか悪いかは環境によって相対的に変わる 3.進化的適応の産物であるバイアスは、意味のあるモノだから残っているため、 それらをなくすのは困難なため、バイアスを活かすあるいは機能させないような 行動デザインを考えることが求められる
投稿日:2019.08.25
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