【感想】朝のあかり 石垣りんエッセイ集

石垣りん / 中公文庫
(10件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • hifumi1232001jp

    hifumi1232001jp

    教科書のシジミを読んで、世のお母さんはシジミやあさりの味噌汁を作る前、台所に立つ背中からは分からないが、鬼ババになるらしいと詩のイメージを引きずってきました。エッセイを読めば、お母さんではなかったし、一人暮らしでは食べきれない量のシジミを長く生かすことも難しく、えいやと明日の調理を決意するひとこま、また職業を定年まで全うしようとするなかで、家族の生計を支える女性がやっとはじめた一人暮らしのひとこまでもあり、イメージは塗り替えられました。続きを読む

    投稿日:2024.05.30

  • inu-no-mimi

    inu-no-mimi

    14才から銀行に勤め続けて定年を迎え、つつましくひとり年をとる女性の暮らしと心の動きを写し取るものとしては、近年流行の元気前向き一人暮らしおばあちゃんの本よりもむしろずっと共感できる。

    P36 2月21日【前略】このところ、隣の家の念仏が十二時を過ぎても低く続く。一時を回る頃には近くの保健所工事現場から、鉄筋を打ち込む音が規則正しく響き始める。私の所在を知って台所口に呼びに来たのは野良猫シロ、夜食をよこせというのであった。貧しくにぎやかな夜更け。寒い冷たい夜更け。

    2月24日【前略】未婚者が自分の資質をゆがめず、素直に年をとるにはどうしたらよいか、その困難さについて先輩女性と語り合う。

    P57 さしあたっての希望は、欲しがらない人間になりたい、ということ。誰が何をしてくれなくても。さみしかったら、どのくらいさみしいか耐えてみて、さみしくゆたかになろうと―。

    P76 祖父がなくなる前、年をとったひとりの女が生きてゆくことをどのように案じるか、たずねました。「お嫁にも行かないで、この先、私がやってゆけると思う?」「ゆけると思うよ」「私は、私で終わらせようと思っているのだけれど」「ああいいだろうよ、人間、そう幸せなものでもなかった」
    闇の世を立ち出でてみればあとは明月だった、という句を、祖父は口移しで私に伝え、やがて逝きました。

    P86 シジミをナベに入れるとき語りかけます。「あのね、私といっしょに、もう少し遠くまで行きましょう」

    P101 けれど洗濯機のない貧しさは、一面そんなことをしていられる時間のぜいたくさでもあって、家族が何人もいたら、とてもできない芸当に違いない。そんなことはさっさと片付け、一人暮らしならなおさら、もっと時間を有効に使わなければいけない、とけしかけるものの声がする。【中略】人が手を使うことより、頭を使うほうがずっと有効だ、というのはそのほうが高級でそれは高給につながるから得なのだ、という世間の風潮、その底からの呼び声である。

    P204 (男対女の綱引きになぞらえて)男が力任せに引く綱に、ざざっと引き倒されて、軽く腰を浮かせてしまう、残念無念な女性群像も次第に見えてきた。降参した時点で、選ばれた女性が相手方の陣営に招かれていく。【中略】私は捕虜の光栄にも浴さず、戦士のように倒れて抱き起されることもなく年をとった。男を語る資格がない。

    P229 働かないと、書くことも思い浮かばない、といった習性のようなものが、私の身についたのではないか、と案じられます。そして、物を考えているのは私の場合、頭だろうか?手だの足だので感じたり、考えたりしているのではないだろうか?

    P249 せつない、という言葉の重みは、心の中のどの部分に寄りかかろうとするのでしょうか。寄りかからせる優しい部分は、どこにどのようなかたちで存在するのでしょうか。うれしさとつらさ。有難さとすまなさ。恋しさと恨めしさ。いろいろな感情が、その時その時で違った混ざりかたをする、そのせつなさ。

    P252 かりに好意で5年置いてもらったところで、いずれはやめなければならない。それなら少しでも早く一人になる稽古をしておこう。【中略】定年時の手習いが私の場合「一人立ち」だとしたら、これはどういうことになるのだろう。会社とはなんだったろう。【中略】ちょうど建物と同じで外から古く見えても、中で暮らしている限り変化はない。並んでいる新しい家と古い家の窓から見える空は同じなのよ、というと、同年配の人は、ほんとにそうね、と答える。
    続きを読む

    投稿日:2024.05.04

  • tomopoly

    tomopoly

    昔も今も働く女性は変わらないと思っていたけれど、このところ急に世の中のシステムが変わった。しかし、心は変わらない。

    投稿日:2024.02.27

  • oyuca

    oyuca

    このレビューはネタバレを含みます

    やられた。
    また、師匠がひとり誕生してしまった。
    母ほどの年齢の人なのに、感性が、考え方が自分に似ていて、大きな企業の最下層にいる環境まで同じで。
    「誰が何をしてくれなくても、さみしかったらどのくらいさみしいか耐えてみて、さみしくゆたかになろう。」
    南の国でのんびり暮らそうとと誘われてそれもいいですねと答えながら、今から覚える拙い言葉で自分の心のひもじさは耐えられないと。私のふるさとは日本の言葉だと言い切る。
    ほんとにそうだよなとなんとも腹落ちのすることよ。

    ネットでお顔を拝見したら笑顔のチャーミングな方で、ますます好きになったのでした。

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    投稿日:2024.02.24

  • ずき

    ずき

    若くして銀行に就職し、銀行で働き続け家計を支える一方で詩を書き続けた詩人・石垣りんのエッセイ。
    当時の女性としては少数派であったであろう自身をアウトサイダーを称しつつ、自分の職場をはじめ「社会」を批判的な鋭い眼差しで見ており、フェミニズムの潮流を感じた続きを読む

    投稿日:2023.11.21

  • hosinotuki

    hosinotuki

    はたらく、ひとりで暮らす、詩を書く、齢を重ねるの四章に分けられたエッセイ集。
    彼女の詩を書くこと以外にない人生の真面目さに感動しました。働くことや結婚を選ばなかったことなど、あるいは重荷になるばかりの家族といった事も全て詩の中に昇華されています。そして何気ない言葉に女性ならではの叫びが聞こえます。石垣りん氏の詩はとても好きですがエッセイもしみじみ良かったです。続きを読む

    投稿日:2023.11.12

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