【感想】海鳥と地球と人間

綿貫豊 / 築地書館
(1件のレビュー)

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  • jube

    jube

    非常に興味深かった。海鳥がこの60年間で3分の1に減少したのはなぜか。海の物質循環に大きな役割を果たしている海鳥。ハイテク化、大規模化する人間活動の海鳥への影響。加速する海洋での人間活動が海鳥に与えるストレス。
    1.海鳥の歴史
    人間の分布拡大と海鳥の絶滅。日本の海鳥の固有性と現状。
    海鳥の減少と絶滅の様々な原因。海鳥が人間活動に起因するストレスに対して脆弱な理由。気候変化が魚資源量や分布を変え海鳥に影響する。
    人間活動に起因するストレス、漁業、海洋汚染、海運、海底資源開発、繁殖地である孤島への定住と捕食者の持ち込み。
    本書では混獲についても詳しく述べられている。混獲についてはあまり知らなかったので、データを見て、非常に衝撃をうけた。ケープペンギンの例。
    2.漁業活動の影響。
    混獲の実態と解決策、刺網漁延縄漁による混獲と死亡数、インパクト、混獲率低減手法の開発。隠蔽されていたこともあり、今でも世界で刺網による密猟が絶えないので正確な数字はだせないだろうが、例えばカナダのBC沿岸の刺網漁で1980年には175〜250羽のアメリカマダラウミスズメが混獲、ハイイロミズナギドリは1993〜1997年までのサケマス表層流し刺網では年に10万羽、1950〜1970年代のアカイカ表層流し刺網漁で毎年30万〜40万羽、カンムリウミスズメ、ウミガラス類、エトピリカなども混獲。表層延縄では中部北太平洋全体で年間1万羽程度のクロアシアホウドリ、ハワイ沿岸で年間数百羽のコアホウドリとクロアシアホウドリが混獲されていると推定。アラスカの底延縄では1995〜2001年での年間海鳥混獲数は1万〜2.6万羽と推定。こうした研究を基にした、全世界における延縄漁の海鳥類混獲数は、アホウドリ科、ミズナギドリ科で年間最低でも16万羽、多分32万羽を超えるだろうと推定。
    投棄魚が変える海鳥の生活。漁業廃棄物としての投棄魚の量、依存率、海表面ついばみ/拾い食い個体群に有利に働く。他の海鳥種へのインパクト。漁業廃棄物投棄禁止の影響。投棄魚利用の種間、性別、個体間の差。
    糧秣魚類資源をめぐる海鳥と漁業の競争。南極半島とペルーの事例。糧秣魚類資源量と海鳥の繁殖成績の関係1/3ルール。禁漁による競争緩和。競争者としての鯨とマグロ。
    3.海洋汚染の影響
    重油流出事故。タンカーの重油流出事故の多いことに驚く。流出した油が海鳥個体に与える影響、流出事故が海鳥個体群に与えるインパクト、油汚染に暴露された海鳥個体の救護、リハビリ、放鳥、野外復帰に繋がるか?島根沖のナホトカ号の例。
    化学汚染物質の影響。DDEにより卵殻厚が薄くなる。POPsがもたらす胚発生異常。化学汚染物質の間接的な3つの影響、生理的なストレスを高、繁殖関連ホルモンレベルを低下させ、免疫能力を低下させることで、間接的に、菌やウイルスへの感受性を高め、繁殖率を下げ、成長死亡率を高くしている可能性。1つめ、酸化ストレス、2つめ、コルチコステロン濃度のベースラインや短期ストレスに対する上昇程度への影響、3つめ、免疫力の低下やDNAの損傷の程度。他のストレスとの相乗効果。化学汚染物質の個体群へのインパクト。鉛中毒の例。
    海洋プラスチックの影響。海鳥の特性とプラスティック接種。消化阻害や食欲減退。プラスチックを介した化学汚染物質の取り込み。
    4.繁殖地および海岸におけるかく乱
    繁殖地での狩猟。オオウミガラス絶滅の歴史。アホウドリ撲殺事業、かつて13の島に600万羽が繁殖していたが卵殻により20世紀初頭にはほとんどの島で絶滅。ミズナギドリ科の狩猟管理による持続的利用。
    人間がもちこんだ捕食者。キツネとネコのインパクト。人間の入植でもちこまれたネズミによる影響。ネコ・ネズミ類の駆除の手法と他の生物への影響。外来性哺乳類駆除の効果。捕食者としてのカモメの駆除。天売島のノネコ問題。
    照明がもたらす光汚染。海鳥を引き寄せる人工光。光誘引による落鳥。光のコントロール。港の光照明がもたらす生態系の変化。
    洋上風力発電の潜在的影響と事前回避。風車への海鳥の衝突。風車への衝突リスクと発電施設からの回避リスク。感受性マップによってあらかじめリスクの高い場所を知る。GPSトラッキングでわかる衝突リスクの高い場所。ウミネコのGPSトラッキングの研究例。
    5.海鳥保全の具体的取り組み
    導入と再導入。積極的保全の必要性。デコイ、音声による社会的誘引。雛輸送による手法。戦略的保全。天売島のウミガラスの保全例。
    海鳥保全のためのリスクマップ。混獲リスクの高い海域の発見。海洋環境の変化に対応した高リスク海域の推定。性・年齢による利用海域の差が個体群へのインパクトに影響する。さまざまなストレスに対するリスクマップ。
    6.海鳥を利用した海洋生態系の監視
    海鳥を指標とした海洋保護区。海鳥が可能にする重要海域の選定。重要海域の選定のため海鳥の分布を調べる。
    海洋汚染の指標としての海鳥。化学汚染の年代変化を海鳥の体組織から知る。海鳥の胃中のプラスチックは汚染の加速を示す。海鳥の尾脂腺分泌物が示す地球規模の汚染拡大。汚染物質の代謝の違いによるバイアス。サンプルによるプラスチック摂取のバイヤス。バイオロギングを利用した海洋汚染の地図化。
    環境変化のシグナルとしての海鳥。海洋監視に海鳥を使う理由。健康指標の定義と活用。

    素人にも分かりやすい文章でまとめてあり、とても読みやすく最後まで集中力が切れない。
    海鳥問題を考えるための最初の1冊にとても良いと思う。
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    投稿日:2022.04.24

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