【感想】奇想版 精神医学事典

春日武彦 / 河出文庫
(2件のレビュー)

総合評価:

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  • tetujin

    tetujin

    ・私が積んでおくのは辞書の類である。辞書とはさういふものである。 春日武彦「奇想版 精神医学事典」(河出文庫)もそんな辞書だと思つてゐた。最近、本を整理しようと思つてこれをみつけた。確かに辞書の形態はしてゐる。しかし「序」はかう始まるのであつた。「本書は事典としての実用性に乏しい。不便なのである。なぜなら巻末の索引を用いるといった『ひと手間』を経なければ目当ての項目には行き着けない」(3頁)。しかも配列は「『連想』に拠っている。(中略)すべて連想の連続によって見出し語が並べられて」(同前)をり、そのため「冒頭から順番に読んでいくのが、本書の正しい読み方である。」(4頁)といふ。だから「無人島へ持って行くには最適の一冊であろうと自負している。」(同前)さうである。こんな辞書とは気がつかなかつた。私は普通の、文庫版の精神医学の事典であると思つてゐた。珍しいと思つて買つたのである。その時、書名の「奇想版」に気づいてゐれば中身を確かめたのかもしれないのだが、残念ながらそんなことは気にもしなかつた。さうして辞書の一冊として我が家に積まれてあつた。春日氏からすれば、何と不本意な所有のされ方であつたことか。しかし、奇想版の奇想版たる所以に気づいてしまつた今、実用性の有無は関係ない、私はとにかく読もうと思つたのである。もちろん最初から終はりまで通して読む。春日氏の「正しい読み方」の実践である。
    ・見出しは「神」に始まる。「隠された必然」「アトランティック・シティーー上空の空飛ぶ円盤」「ブリキの金魚」 「家族的無意識」等々と続く。見出しだけ並べてもこれが連想であるとは分からない。書いた本人はなぜかうした連想をしたのかは分かつてゐるのだが、読むのは本人ではない。読んで初めて連想が正しく行はれてゐる(らしい)と分かる。頭から順番に読めといふのは、その連想の妙を味はつてほしいがためでらう。ただ、問題なのはこの人の連想についていけるかどうかである。「ブリキの金魚」は島尾敏雄であつた。その「三つの記憶」の冒頭部分による。その金魚の赤が「アトランティッ ク・シティー上空に滞在する空飛ぶ円盤の赤色と同じものだった」(13頁)ことによる連想であつた。私は島尾のこの小品を知らない。引用があるから分かるとは言へる。しかしそれだけである。それ以上にはならない。この人はかなりの読書家である。島尾は他でも引用されてをり、「自分の抱えている不安に近いものを文章で上手く定着させている作家はいないだろうか」と考へ、「結果として、島尾敏雄の作品と出会うことになった。」(560頁)といふ。私にはさういふ経験がない。だから島尾をほとんど知らない。この後に北杜夫の項がある。同じ精神科医といふ親しみもあるのだらうが、しかしその評価には、「そうした危うさがないぶん、北の純文学はシリアスであっても安心して読める。 だがわたしにはそのような不安成分の少ない純文学は必要がない」(562頁)とある。「強烈な不安感が漂ってこない。」(同前)といふのである。この後に北の患つてゐた躁うつ病(双極性障害)が来る。ここに北の病の具体的な説明もある。北がその病をカミングアウトし、「むしろそれを自ら戯画化した。」ことを「大きな功績と認められ」(563頁)ると言つてゐる。これも読んでゐるからこそ書けることであらう。海外文学の引用も多い。ブルー ノ・シュルツなどといふマイ ナーな作家も出てくる。シャーリー・ジャクスンやH・G・ウェルズも出てくる。これは索引の効用である。かくして本書は「言葉のびっくり箱」(穂村 弘「解説」、611頁)であつた。おもしろいかも?
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    投稿日:2024.02.02

  • 深川夏眠

    深川夏眠

    クセのある精神科医(失礼!)春日武彦先生による、
    五十音順でもアルファベット順でもなく、
    心の赴くまま連想に連想を重ねて綴られた事典形式のエッセイ集。
    先生の趣味・嗜好がモロ出し(笑)で、
    しかも一読者である私の好みにマッチする話題が多くて
    楽しかった。

    p.7~8[神]
     神は思いがけないところへ、不意に姿を現す。

    タイヤの表面に刻まれた溝がアラビア文字による「アラー」に
    酷似していた、
    あるいはバスケットシューズのデザインプリントが
    またしても(略)といったメーカーの受難。
    不謹慎なようだが、
    どことなくボルヘスの作品世界を思わせるエピソード。

    などなど。
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    投稿日:2023.12.23

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