【感想】ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか――民主主義が死ぬ日

ベンジャミン・カーター・ヘット, 寺西のぶ子 / 亜紀書房
(11件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
2
3
5
0
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • ヒルコ

    ヒルコ

    このレビューはネタバレを含みます

     この一冊を読めば1918年から1945年までのドイツの内部での動き、(題名の通り)なぜドイツ国民はヒトラーを選んだのか80%位は理解出来るかなと踏んでいたが、分からなくなったというのが正直なところ。
    当初は、ヒトラーがナチスを作りユダヤ人が嫌いだから差別します。くらい分かり易い構図だと思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。
     あとがきの部分で「小さな成長で変化に気づかないけど、気がついたら頭の高さを超えていた」という引用があったがまさにその通りで、一人一人が隣人はいなくなったけど自分は大丈夫だという精神が乗数的に重なり、ナチ党、ヒトラーという大木を生み出したと捉えられるが、国民を責めることは決して出来ない(当事者がメタ認知は難しい)。
     この出来事を単なる「過去の出来事」と捉えるのは簡単だが、これらを前例とし、そして当事者ではない第三者として考えることで得られる知見、防ぐことができる未来があると思う。
     一見一本の線に見える出来事を複数の線から観察させてくれたこの本との出会いは新しい観測点を得る良い機会だったと感じている。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.07.28

  • keyakishibuya

    keyakishibuya

    ここまで極端な暴力主義が罷り通ることはないかもしれないけど,不完全な民主主義,拡大するグローバリズムの中では常にfascismの芽が生まれかねないことがよく分かる.
    馴染みのないドイツ人の名前がたくさん出てくることと相まって,ちょっと話があっちこっち行き過ぎて,分かりにくい部分はあるけど,良い作品に出会えた.続きを読む

    投稿日:2021.10.15

  • タゴマゴ

    タゴマゴ

    原題は『The Death of Democracy』. 1918年11月のドイツ革命から1934年8月の大統領ヒンデンブルク死去までのヴァイマル共和国からナチス政権初期までの通史本で、ヒトラーとナチスが権力を掌握するまでが書かれている。ヴァイマル共和国期のナチスの台頭を、ドイツを取り巻く経済状況とドイツの社会状況の両方からアプローチしているのが大きな特徴だ。

    当時のドイツを取り巻く経済状況について。第一次世界大戦終結後の英米中心の戦後体制は、賠償金と債務の支払い、金本位制への復帰といった緊縮財政と、安定した民主主義が一体となったリベラル資本主義だった。緊縮に反対する人々はリベラル民主主義にも反対するようになっていった。ナチ党の活動の根本は当時のリベラル資本主義が体現するグローバリゼーションへの対抗運動であったと本書では主張されている。

    当時のドイツの社会状況について。当時のドイツの社会構造は、エーリック・フロムが言うような、近代社会の到来によって共同体から離れた個人がバラバラに存在していたのではなく、何らかの共同体に所属していたのが特徴だ。ヴァイマル共和国では、政治陣営が宗派化しており、大きく分けて、社会民主党と共産党から成る社会主義陣営、中央党とバイエルン人民党のカトリック陣営、中流階級のプロテスタント陣営と3つの政治陣営に分かれていた。投票行動の変化は、基本的に各陣営のなかで起こり、陣営の境界を越える変化はなく、例えば、社会主義陣営の中で社会民主党と共産党が票を取り合うが、陣営の間を票が動くことはめったにない。ヴァイマル期間を通して、選挙の得票率は、社会主義陣営全体が30%から40%、カトリック陣営では15%前後、プロテスタント陣営は大体、30%後半から40%前後で推移していた。また、当時のドイツの総人口6250万人のうち、ベルリン在住は400万人に過ぎない。人口の1/3は2000人足らずの農村に住んでおり、農村ではプロテスタント信者が多かった。農作物の関税引き下げや世界恐慌による農作物価格の下落の影響で地方の農村は疲弊しており、ラントフォルク運動と呼ばれる爆弾テロまがいの社会運動が盛んだった。既存のプロテスタント政党に失望した地方のプロテスタント支持層はやがてナチス支持に傾いたという。つまり、プロテスタント層が潜在的なナチスの支持者であった。

    不満としては、当時の金本位制=グローバリズムを現代のグローバリズムをイコールにしてしまうのは少し安易だろう。金本位制度と管理通貨制度はやはり違うのだから。あと訳自体はこなれているが、校正が甘いところがあり日本語で意味が解りづらい部分が少しあった。それらの欠点を考慮しても、ヴァイマル共和国からナチス前夜の通史で一番読みやすい本だ。これは新たなスタンダード本になる予感がする。
    続きを読む

    投稿日:2021.10.01

  • NFCC図書館

    NFCC図書館

    1 八月と一一月
    2 「信じてはいけない、彼が本当のことを言っていると」
    3 血のメーデーと忍び寄る影
    4 飢餓宰相と世界恐慌
    5 国家非常事態と陰謀
    6 ボヘミアの上等兵と貴族騎手
    7 強制的同質化と授権法
    8 「あの男を追い落とさねばならない」
    続きを読む

    投稿日:2021.06.28

  • なごみまくり

    なごみまくり

    ナチ党の活動は、第一次大戦後に英米が押し進める国際協調、経済的にはグローバリゼーションに対する抵抗だった。
    戦後賠償だけがドイツを追い詰めたわけではない。ロシア革命などによる東方からの難民、共産主義への保守層の拒否感、社会の激しい分断、正規軍と準軍事組織の割拠、世界恐慌、「ヒトラーはコントロールできる」とするエリートたちの傲慢と誤算・・・アメリカを代表する研究者が描くヒトラーがドイツを掌握するまで。

    今までナチの恐ろしさを題材にしたフィクションやノンフィクションはいくつか読んだけれど、人間ってこんな恐ろしいことでも平然とできてしまうんだなとしか思わなかった。でもその背景を知って、なぜこういう悲劇が起こってしまったのか、ナショナリズムが盛り上がっている現代で同じことを繰り返さないようにするためにはどうしたらよいのか、非常に考えさせられた。一番怖いと思ったのは、大統領にすべてを依存しすぎていること。誰か一人の判断に委ねるには事が大きすぎるし、ヒンデンブルグは残念ながらその器ではなかったように思う。一部の知識人の声がかき消されてしまう怖さがリアルで、周りに流されず自ら考えて判断することを忘れてはいけないと痛感した。
    続きを読む

    投稿日:2021.06.25

  • tomohix

    tomohix

    当時の政治家や市民の行動を詳細に追っているので、だんだん自分もその場にいるような感じになってくる。結末をしっていることなのだが、「そっちに行ってはいけない」「戻らないと危ない」とじりじりするものを感じながら読んだ。

    ドイツ国民がヒトラーとナチ党を選んだ理由は単純ではないことを学んだ。敗戦の賠償やグローバリゼーションだけではなく、多くのことが関係している。

    自分たちの受け皿となり守ってくれる政党がない、という面もあった。資本主義と社会主義、資本家と労働者など、多くの対立軸もあった。いろいろなところにナチ党が付け入るすきがあった。

    当時ヒトラーが国民に訴える社会の苦しい状況は、驚くほど現在と似ていることに嫌な汗が流れる。いま同様のことが起こったとして、はたして止められるのかという不安がある。
    一旦権力を握ってしまえば、立法や司法は暴力でなんとでもなってしまう。その前に芽を摘まないといけない。

    対立をなるべく緩和して不満を減らすこと、受け皿を多様にしておくこと、多くの人が「自分は見捨てられている」と思わないような安全網を用意しておくこと、まだまだ準備すべきことは多いように思う。

    人が自分のことしか考えなくなったとき、ヒトラーとナチ党の残滓が再び現れるかもしれない。そうならないよう、本書の結びを常に忘れないようにしたい。
    続きを読む

    投稿日:2021.04.30

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。