【感想】日本の航空産業 国産ジェット機開発の意味と進化するエアライン・空港・管制

渋武容 / 中公新書
(4件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • henahena1

    henahena1

     東大大学院で行われている講義「航空技術・政策・産業特論」という、「航空に関する産学官の幅広い分野の第一線の方から、当事者ならではの知見を直接聞かせてもらい、専門性に加えて航空を俯瞰して学ぶことができる、他では見られないユニークな講義」(p.iv)をもとにまとめた本。航空を通して、日本の「モノづくり」産業の世界を知ることができる。
     おれもなんとなく航空関係の本は読んだけど、読んだことのある数少ない本とは趣の違う本だった。いわゆる飛行機や管制、エアラインにまつわるあれこれ、というのは読んだことがあるが、飛行機を作る、ということに関して、各国との競争の中で行われている状況とか、航空機産業の歴史、航空行政みたいなものはあまり知らなかったので新鮮だった。
     以下、気になったところのメモ。「モノづくりでは、新しくつくられる製品は、最初は手づくりのようなもので、製造コストは市場価格より高くなり、『売っても赤字状態』ということがある。製品の製造数が増えてくると、効率が良くなり1機あたりの製造コストは徐々に下がる(学習曲線効果。1930年代に航空機メーカーの技術者が発見し、後にさまざまな分野に当てはまることがわかった)。」(p.49)ということで、その後に「投下資本回収のイメージ」(p.50)が乗っているか、こういう損益とか、おれが全然馴染みのないビジネスの分野の話だなと思ったけど、すごい納得した。だから「日本のYS-11が製造終了した182機の段階は、事業の累積損益カーブのいわば『底』のあたりに位置しており、今述べたようなことをふまえながら製造が継続されれば、YS-11が損益分岐点に到達できる可能性はあった、という議論がある。」(p.52)というのも、分かりやすかった。こういうことを踏まえて、こういう事業をする場合、どこを底と見込んでおくのか、ということをあらかじめ考えておく、ということが分かった(と言っても業界の人たちには当たり前のことなのかもしれないけど)。あとは「空港の運営と戦略」というところでは、成田はまだ課題が色々あるらしく、「成田〜アジア方面路線は、他のアジア主要空港と比べると路線、便数ともに少なく、成長が見込まれるアジアの航空需要の取り込みが重要だ。」(p.94)ということだそうだ。確かに仁川やチャンギに比べると空港自体が地味?だし、田舎感がすごいよなあと思ってしまう。あとは、ジャンボってもう見れないのだとばっかり思っていたが、「旅客では日本から引退したジャンボジェット(747)が、貨物機としては今も活躍しているのを見ることができる。」(p.100)らしい。YS-11は自衛隊でまだ見れるんだっけ?それから、無線とか電波は航空ととても関係のあることは知っていたけど、それはもともと船と関係あったんだ、つまり「灯台の光の向きを把握する方法も伝播に置き換えていった」(p.123)ということで、全然そういうことに気づかなかったので、新鮮だった。言われてみれば。そして、航空の世界では、日進月歩で技術は進んでいくけれども、全部がそうやって入れ替わっていくのではなく、「最新の航空機から旧型の航空機までが飛んでいるなかで、互いに衝突せずにすむように考える必要がある。つまり『新しい技術に対応した機体が飛んでいるが古い技術の機体も残されている』状況に対応できなければならない。新しい機体や機器・方式を導入すれば、明日から全面的に新しい方式を利用できるというわけではない」(p.140)、というのが盲点だった。だから入れ替わる、というよりは累積していく、というのは、現場で仕事をしている人には結構厄介な話だと思った。そして航空の世界は、他の世界と同じく安全第一だけど、安全性が「向上すればするほどこれ以上の進歩が困難になってくるのも現実だ。このため、通常時における安全性の確保・向上のための活動を重視し、安全性確保に有効な取り組みを奨励してさらなる安全性向上を図る、という取り組みも進められるようになっている。」(p.147)というのも盲点だった。安全性を証明するのが難しい。さらに別の盲点としては「従来、日本における民間航空分野の研究開発は、飛行実証ができないため、市場化にたどり着くのが困難な状況が続いてきたのが実情である。製品開発がないために認証に関する体制やノウハウが育たず、認証の体制などがないために製品開発ができない、というニワトリと卵のような関係が続いてきた。」(p.151)ということも、少なくともおれは全然知らなかった。そして、同じく認証、という分野では「標準化活動への参画の重要性」(p.154)というのがあり、つまり安全基準とか、どう証明していくかを議論するのに参加し、「実績を積んで貢献をして」いきながら「発言権を得る」(同)ことが日本の課題、というのは、納得した、が素人には思ってもない内容だった。他にも新機種を巡っては、「新機種の運航開始から2年程度が経過すればだいたいの不具合は出てくるのが経験則なので、なかにはしばらく様子を見極めるエアラインがある。メーカーとしては早く買ってほしいので、あらかじめ2年間飛行実績のある航空機と同じくらいの信頼性を持たせた機体『サービスレディ』(今すぐに実用に供することができるという意味)な機体に仕上げて、市場に出すようになった。」(p.189)ということらしく、完成機事業というのは本当にハードルが高いなあと思う。あとは「737は1960年代から製造されているので、コックピットの窓の上に、星を見るための窓(天測窓)が開いていた。そのため、少し前のモデルまで、もう使わない天測窓が設けられていた(窓をなくす設計変更についても認証の手続きが必要になる)。航空機を新しく生み出す際には、はるか将来のことを考えて設計・製造する必要があるわけだ。」(p.227)ということなので、全く自分の知らない世界で思ってもないような困難があるのか、ということを知る例となった。航空のことを少し知っていると思っているだけに、ちょっと視点が変わっただけで、未知の世界、というのを体験することになった。(22/12/16)
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    投稿日:2022.12.24

  • よっしー

    よっしー

    航空業界に関する大学院での授業を再編成し、ゼロベースで飛行機、航空産業について理解を深められる航空業界の入門書。
    航空業界のインプット用に購入。業界の概要に関してはわかりやすい内容だった。ただし、点数を低めにさせて頂いたのは、国産ジェットありきの論調であったため、またMRJ立ち上げ遅れについて触れていなかったため。他の産業と比較してどうして国産の航空産業が発展しないといけないかについて、(言い方は大変悪いが)精神論から議論が抜け出せていないと感じた。加えて、国産ジェットありきだからだと思うが、MRJの立ち上げ遅れについてのコメントが全くなされていない。各企業がスポンサーに入っているから悪い話がしにくいのかもしれないが、小生含め多くの方々が気になるポイントの場図なので、少しでもページを割いて内省すべ気だったと考える。続きを読む

    投稿日:2020.10.12

  • 中央公論新社

    中央公論新社

    航空機の開発から、エアラインの経営、空港の運営や管制の仕組みまで、航空の現状と展望が一目でわかる。東大人気講義の書籍化

    投稿日:2020.09.08

  • Y.K

    Y.K

    航空に関わる産業と言われると、航空機を製造するボーイングやエアバスなど機体本体を製造する産業を連想しがちですが、本書の書名は”日本の航空機産業”ではなく、”日本の航空産業”となっています。機体本体を製造するメーカーはもちろんですが、旅客機を運用するエアライン、運航を支える管制や整備、空港運営といった幅広い産業についての全体像がつかめる内容となっています。
    これだけ幅広い産業について新書1冊に収めているので、それぞれの分野に関してはそれぞれ総論的な扱いですが、それでも興味深い情報がたくさん含まれています。中でも興味深く感じたのは、航空機製造に関わる”型式証明”の部分です。
    航空機の中でも旅客機製造に関しては、新たに開発した機体の安全性を確保するために、製造国だけではなく引き渡し先の国での安全性の証明がもとめられ、最も大きな市場であるアメリカでの証明取得は必須となります。ところがこの型式証明には、極寒・酷暑下での試験や、実際に定められた気象条件における飛行データなど、現地(アメリカ)でなければ取得できないデータなども含まれます。非常にレアな状況を想定した試験などは、試験設備がアメリカにしかないケースもあり、結果として試験機をアメリカに持ち込んで、様々な試験を実施することになります。また、基準に適合するには”どのような試験方法で実施するか”、”どの程度の数値基準が必要か”などについても製造メーカー自身が証明する必要があり、これにはアメリカの航空当局や標準化団体の方針などの最新情報を常に把握する必要が出てきます。
    三菱が取り組んでいるスペースジェットの開発が大幅に遅れていることは新聞でも報道されていますが、その裏側には日本の技術が未熟なのではなく、このように旅客機開発に携わっていなければ経験できない各種のハードルが存在することがよく理解できます。
    本書が執筆されたのはコロナウィルス感染拡大直前です。世界の旅客機需要が年数%の勢いで拡大を続け、今後も拡大し続けるという状況下と、現在の状況とは隔世の感があり、その辺の需要に対する見解はちょっとズレを感じますが、その点を除けば本書の書名どおり”航空産業”の全体像がつかめる手ごろな1冊という印象でした。
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    投稿日:2020.07.24

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