【感想】有楽斎の戦

天野純希 / 講談社文庫
(5件のレビュー)

総合評価:

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  • だまし売りNo

    だまし売りNo

    織田有楽斎(織田長益)を中心に本能寺の変、関ヶ原の戦い、大坂の陣を描く歴史小説。NHK大河ドラマ『どうする家康』の復習になる。「有楽斎の城」では関ヶ原の戦い当時の徳川家康の官職・内大臣の唐名の内府に「だいふ」のフリガナを振っている。これは『どうする家康』と重なる。

    本能寺の変で有楽斎は逃げた。長益は信忠に自害を勧めて自らは脱出したとされ、「人でなし」と批判された。
    「織田の源五は人では無いよ、御腹召せ召せ召させておいて、我は安土へ逃ぐるは源五、六月二日に大水出て織田の原なる名を流す」
    しかし、有楽斎には有楽斎の言い分があった。「冗談ではない。謀反を起こされたのは、兄の落ち度だ。その巻き添えを食って死ぬなど御免だった」(28頁)。有楽斎にとって本能寺の変は、むしろ解放された気持ちになるものであった。

    「宗室の器」は博多の豪商の島井宗室が主人公。宗室は天下三肩衝の一つである茶器の楢柴肩衝を所有していたが、織田信長に召し上げられそうになった。そこで本能寺の変に遭遇する。「宗室の器」では宗室を民間感覚を持った人物と描く。「宗室は何物も生み出さない武士を心から憎み、同時に商人である己に誇りを抱いていた」(50頁)
    千利休は権力と戦った茶人として名高いが、宗室の方が民間感覚が徹底している。「権力者のために茶を点て、名物を鑑定し、茶器に序列を付けるという行いが、宗室にはどうしても認めがたかった」(54頁)

    この時代の豪商には権力者と持ちつもたれつの死の商人という側面を持つ者が多かったが、それを宗室は否定する。「戦で得た利など、泡のようなものだ。膨れるだけ膨れ上がり、すぐに弾けて消えてしまう。そしてその代償として、想像もつかないほどの人々が海の向こうで命を落とす」(64頁)

    商売の仕方も規制と特権を否定する自由主義思想を持っている。「商いの特権を持つ座を廃し、船が入る際の税である津料も免除すれば、さらに人と物が集まってくるだろう」(77頁以下)。官僚主導経済よりも健全である。

    織田信長が天下統一後に海外侵略しようと考えていたとする描かれ方は一つの定番である。それは戦国時代の終わりを待望する人々を絶望させるものであった。それを本能寺の変の動機とする描かれ方もある。羽柴秀吉は戦争を続ける信長の対抗勢力として期待された面がある。宮下英樹『センゴク一統記 1』の羽柴秀吉は検地を徹底し、米を代用貨幣とする石高制とすることで唐入りをしなくても国内だけで経済を成り立たせる仕組みを構想した。しかし、その秀吉が泥沼の唐入りを強行した。人々の絶望感は大きかっただろう。

    「秀秋の戯れ」は小早川秀秋が主人公。秀秋は優柔不断な人物というイメージが強いが、「秀秋の戯れ」では異なる。「大乱を高みから見下ろし、両軍の駆け引きを堪能する。そしてその上で、己の手によって勝敗を決すする。それだけが、秀秋の望みだった」(128頁)。この秀秋は『どうする家康』と重なる。

    関ヶ原の合戦が始まると徳川家や黒田家の目付が西軍への攻撃を要求した。これに対して秀秋は以下のように反論した。「敵は我らの裏切りに対し、それ相応の備えをいたしておる。ここで動いたところで、戦局に与える影響はそれほど大きくない。よって、今しばらく戦機を見極め、ここぞという時に兵を動かす」(145頁以下)。大谷刑部から警戒されていることが分かっているから安易に動かなかった。戦争を分かっている立場からの様子見であった。

    表題作「有楽斎の戦」は織田有楽斎を中心に大坂の陣を描く。関ヶ原の合戦を描いた「有楽斎の城」では有楽斎自身に良いところはなく、長男の長孝に助けられた。次男の頼長は半グレ・ヤンキー的な不良息子である。しかし、「有楽斎の戦」では父親よりも政治的に巧みであった。結局、有楽斎は武将としては良いところがなかった。しかし、自分の嫌な分野で頑張らなければならないものではない。好きなことを追求することは素晴らしい。

    方広寺鐘銘事件は言いがかりの冤罪として悪名高いが、「有楽斎の戦」では鐘銘を読んだとたんに腰を抜かすほど明白な呪詛の文言としている(208頁以下)。これはどうだろうか。明白でないからこそ、五山の僧侶を巻き込んで議論になった。
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    投稿日:2023.12.09

  • まいつき

    まいつき

    決戦シリーズの4作品と書き下ろしの2作品。
    そういう中身とは知らず、織田有楽斎の生涯を描いたものと思って購入したので、違和感。有楽斎の生涯を読める、と期待してしまった分、読み進めるのが難しくなってしまいました。切り替えでいないのは、自分よくない。

    有楽斎、島井宗室、小早川秀秋、松平忠直を主人公にした作品。通じるのは、権力への反骨心なのか。反骨ではあるな。それが向いているのは、権力とは限らない。
    己の意を通したい、貫きたい、という精神かな、通じていたのは。

    やはり、この時代の人物は「花の慶次」と「へうげもの」の影響が強い。
    あの有楽斎の物語。と期待した分、構成に違和感があったのでしょう。決戦シリーズで、単発として読んだ時は感じなかったと思うのだけど。面白かったという記憶がある。だからこそ、天野純希作品を買うようになったのだから。
    うぅむ。頭が固くなってきているのかなぁ。
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    投稿日:2021.05.20

  • fuku ※たまにレビューします

    fuku ※たまにレビューします

    織田信長の弟・有楽斎が見た本能寺の変、関ヶ原の戦い、大坂の陣。

    信長の弟でも、戦が苦手で茶の湯大好きでも良いじゃないか、人間だもの。って感じ。

    実際のところはどうかは分からない。もしかしたら信長同様、好戦的な人物だったかも知れない。
    ただこの作品で描かれるように、戦場ではヘタレで何度も窮地に陥っては身内に助けられるという面も、早く隠居して茶の湯を心置きなく楽しむために武功を挙げたいと足掻くものの空回りするという面も人間らしくて面白い。

    有楽斎から見れば血気に逸り命を惜しげもなく捨てる武将たちなど狂気の沙汰でしかないし、何故戦でしか物事を決することが出来ないのか、馬鹿馬鹿しいことこの上ないと見えるわけで、そこは現代人の私にも共感出来る。

    結局、本能寺の変も関ヶ原も大坂の陣も生き延びて、念願の茶の湯三昧の日々に浸れるのだが、そこにはこんな馬鹿馬鹿しい戦などで死んでたまるかという怒りが心の奥底にあったのかも知れない。

    他に島井宗室、小早川秀秋、松平忠直の視点もある。
    特に現代では良い評価のない小早川秀秋と松平忠直は新解釈で描かれていてなかなか面白い。
    それでも後世に伝えられているそれぞれの結末に合わせるためにブラックなテイストになっている。
    歴史は後世の人間が都合良く、あるいは面白おかしく脚色している部分があるだけに実際の彼らがどうだったのかを描くのは、これこそ作家さんの腕の見せ所であり楽しいところだろう。
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    投稿日:2020.05.25

  • ロカ

    ロカ

    このレビューはネタバレを含みます

    これは本能寺の変を生き延びた織田信長の弟の物語。

    誰々の弟だから、とか嫌でたまらない有楽斎の気持ち、分かるなぁ。

    しかも身内は面倒くさいのばかり、茶の湯に逃避する気持ちは痛いほどにわかる(^◇^;)

    現代にもいるよぬ、こーいう人……。

    別な視点から見ると歴史は変わる。
    今回もお見事です、天野先生(^^)

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    投稿日:2020.04.07

  • wisteria0609

    wisteria0609

    本能寺、関ヶ原、大坂の陣を有楽斎+αで描く。
    いつの世にも、産まれる時代を間違ってしまった人はいる。彼も間違い無くその1人だ。

    投稿日:2020.03.31

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