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阿部夏丸 / 講談社文庫 (1件のレビュー)
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windy-today
阿部夏丸は,ライギョの給食,ザリガニ裁判などの児童書を以前に読んだことがある。子供が図書室で借りてきたのだ。ところがなにげなく読んで意外とびっくり。骨太で子供向けとは思えない難しい内容をうまく扱って…いた。 日頃の行いが悪いために悪者にされてしまうザリガニ。大きくなるにつれて子供のままではいられないライギョ。なんかそういうテーマって子供向けっぽくない。。。厳しい現実から逃げないで話を作る作家としてとても印象に残った。この作品も「まぁ,外れることはないだろう」という感覚で購入した。 時代背景は今から数十年前の子供たちが野原で遊び,子供たちが普通に子供でいられたころだ。書かれていることは,ドラマティックな緊迫感や醍醐味があるわけではなく,どこにでもある一児童の昭和の子供時代に過ぎない。 それはちょうど私の子供時代とも重なる。私も当時のセイタカアワダチソウ騒動の真っ只中に秘密基地を作ったりして遊んでいた世代である。わたしはそのこともあって,とても親近感をもって読めた。そのぐらいの年代の方にはとても懐かしく読めるに違いない。 しかしこの小説のすごさは,地域社会は小さな善意や小さな悪意を区別せずに全部包含しており,そして人間は個々の出来事ではなく,その全体の中で育まれていくということを感じさせてくれるところにあるように思う。 すごい出来事がおきるわけでもなく,立派な人もでてこない。子供達の間に些細な争いやいじめもある。ずるさもある。特別な悪人や善人はいない。 小説の中では勧善懲悪のものが多いが,実際の世の中はそうではない。子供たちの世界でも,手柄を横取りされたり,無理強いされたり,理由なく疎外されたりすることはある。それらが個々に解決しなくても,全体として許されていく関係というのがある。仲がいいとか悪いというのも,固定した関係ではなく,実際には刻々と関係は変化していくものである。 この小説の中ではそういう細かいことがいくつも背景に丁寧に描かれている。 主人公は,自らの中にある「弱さ」「卑屈さ」を恥じながらも,同級生達とのやりとりを通じながら次第に成長していくその姿は必ずしもかっこいいものではないかもしれない。 でも私は,読んでいて,それでもいつしかその背中を応援していたし,そしてその背中に自分を重ね合わせてもいた。 まるで思い出の中に引きずり込まれるような作品である。続きを読む
投稿日:2010.11.16
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