【感想】経済学に何ができるか 文明社会の制度的枠組み

猪木武徳 / 中公新書
(38件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • tatsuyaokamoto

    tatsuyaokamoto

    ユーロ危機や格差、投資など人々の相反する価値がぶつかる事象を、経済学の観点から解説する。
    著者によれば経済学を通じて事象を論理的に見ることは大いに役立つが、だからといって経済学の単独の論理がすべてを解決するのではないと説く。その上に人間の情念が左右する政治的な要素が加わることを言及する。
    物事を解決するには正論をかざすだけでなく、複眼的な視点を持つことが肝ということだろう。
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    投稿日:2020.03.16

  • だん

    だん

     経済学の基礎のキソが学べる一冊。本書は――書名とは裏腹に――経済学の「限界」を考察することで、逆に「可能性」を明らかにするというアプローチを採る。ただ、難しい理論の話は少なく、第1部は身近な話題(税金・インフレなど)から経済学を考える内容となっており、第2・3部は経済を行う主体である「人」について倫理・思想面から考察を行っている。
     著者の結論は「経済学が力を発揮できるのは、その論理を用いて説得が可能な価値選択以前の段階までであり、それ以降は政治的な選択に任すほかない」(p.238)という、一見すると身も蓋もないものである。ただ、経済の主体である「人」が、矛盾した二つの欲求を望む「二重思考」から自由でない以上、その行動を理論化することには限界があるのは当然であろう。むしろ重要なのは、ある経済政策について、どこまでが経済学の「論理」に拠るもので、どこからが「政治的な選択」に拠るものなのかを見極める眼を持つことである。
     本書は、何か斬新な主張を展開しているわけではないが、経済学に興味を持たせる様々な「キッカケ」を提供してくれる一冊であり、非常に勉強になった。
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    投稿日:2019.08.15

  • japapizza

    japapizza

    新書という読み物としてはよかった。

    「リスク」と「不確実性」が異なるものであると、今更初めて認識した。「言われれば、確かに」という感じだが。
    「リスク」は、人間の知識の不完全性に起因しているが、その事象が生起する客観的な確率分布がわかっている事象に適用する概念。「不確実性」は前例や経験の蓄積がないために客観的な確率分布を知りえない事象で、主観的に推定するしかない事象にまつわるもの。続きを読む

    投稿日:2018.10.08

  • shohjoh

    shohjoh

    次の箇所が印象に残った。

    ・「ここに奇妙な悪循環が存在する。女性社員は「人事
     がキャリア形成ににつながる仕事をさせてくれないから、離職する」と主張する。他方、人事は「女性はすぐ離職するから、キャリア形成につながる仕事に就かせられない」という。人事は、女性の予想通りにキャリアにつながる仕事を与えず、女性社員の予想(期待)の正しさを証明してしまう。一方女性は、人事部の反論を裏書きするように数年で離職して、その予想の正しさを実証する。「お互いにそう思うから、そうなる」という状況に陥ってしまっているのだ。この「自己実現期待」の悪循環の罠から。 
    ・米国市民社会における「株主主権」の意味を示す例を挙げておこう(J・マクミラン『市場を創る-バザールからネット取引まで』)
     エイズの特効薬である抗レトロウィルスは、米国の製薬会社によって開発され、特許が取得された。しかしこうした新薬の製造には多額の研究開発費が投下されているため、製品化された薬品の価格は通常極めて高額になる。この抗レトロウィルスの場合も、エイズに苦しむ多くのアフリカの貧しい患者の手が届かないほどの高額であったため、患者数が一番多いアフリカのエイズ患者をただちに救うことはできなかった。
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    投稿日:2017.03.21

  • korisu3964

    korisu3964

    著者は「経済学に何ができるか?」という問いに明確な答えは、出していない。重要なのは、経済政策における経済学の限界を知ることだ。現代のミクロ経済学の主流は、「合理的で独立した自由な個人」を想定することから出発する。しかし、これは人間類型のひとつを代表したモデルにすぎない。したがい、経済理論と政策の関係について、我々は常に用心深くあらねばならない。

    そして、本書の冒頭に著者は「むしろ理論の役割を限定することによって、その力を適切に発揮できるようにするためである。理論は、我々に何を示し、実際の経済政策の運営のどの段階までの知恵を授けてくれるのかを反省することである」と断言する。経済学の限界を知ることによって、我々は経済学の役割を知ることができるのだろう。

    本書は経済学者の猪木武憲さんが朝日新聞に1年間連載されたコラム「わかりやすい経済学」で取り上げたテーマを中心に、書き下ろされた新書。ただし、本書は、難解な部類に入る本と思う。

    著者は「自分の仕事が人の役に立っているのだろうかとふと考えたことが幾度かあった」。したがい、本書については、経済学者の著者が経済学の限界を、どう考えているのか、そしてどう限界を克服するのか、その訴えに耳を澄まし理解することが、正しい読み方と思う。

    1日1章のペースで読んだが、充実した読書体験だった。★4つ。
    また、同じ著者の「戦後経済世界史」は★5つのお勧め。

    なお、最近、インドネシアでは毎年の最低賃金をインフレ率と経済成長率の合計値で規定するという大統領令が発効し、労働組合は猛反発している。おそらく、定昇分とベアの理論から、政治家が安易に考えた足し算と思うが、これこそ、シュンペーターが「リカード的悪弊」と呼んだ「単純化され抽象化された理論をそのまま現実の政策に当てはめようとする安易な発想だ。
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    投稿日:2015.12.20

  • hosomichi

    hosomichi

    2014/4/23読了。Twitterでフォローしてる経済学&金融クラスタの方々に好評だったので読み始めました。タイトルを一見すると経済理論がどのように役立つか解説したものと思いきや、様々な社会問題を考えるにあたって、これまで経済学がどのような前提で議論してきたか、またその前提ゆえにアプローチにどのような限界があるのかを各章ごとで指し示しています。あくまでもモデル学問である経済学の理論を無闇に振り回すのではなく、その用法と効用そして副作用を十分に考える必要があると指し示してくれる良書でした。続きを読む

    投稿日:2014.05.17

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