【感想】社会を変えるには

小熊英二 / 講談社現代新書
(128件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
36
50
30
1
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ブクログレビュー

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  • 湖南文庫

    湖南文庫

    小熊英二(1962年~)氏は、東大農学部卒、岩波書店勤務、東大大学院総合文化研究科博士課程修了、慶大総合政策学部専任講師・助教授を経て、同教授。専攻は歴史社会学、相関社会科学。『社会を変えるには』は新書大賞(2013年)を受賞。その他、サントリー学芸賞、毎日出版文化賞、小林秀雄賞等を受賞。
    本書は、20世紀に入り、社会を変えたい、と思いながら、実際には変えられると思えない、或いは、そもそもどうしたら「社会を変える」ことになるのかわからない人が増える中で、「社会を変える」とはどういうことなのかを、歴史的、社会構造的、思想的に説いたものである。
    具体的には、日本社会の現状(第1章)、社会の変化につれて、社会運動がどう変わってきたか(第2章)、戦後日本の社会運動の歴史(第3章)、古代ギリシャの民主主義(第4章)、近代自由民主主義とその限界(第5章)、現代思想における民主主義(第6章)、社会運動に関する様々な理論と、「社会を変えるには」どうすればいいのか(第7章)、という構成となっており、新書にしては珍しい500頁の大部である。
    著者は、「この本は社会運動と対話民主制を薦めている」と要約し、それを「正解」として盲目的に従うことはしないで欲しい(その理由は、本書の中で繰り返し出てくる)と書いているのだが、備忘のために、私なりの理解をシンプルにまとめると以下である。(歴史や思想については省く)
    ◆工業化社会からポスト工業化社会への移行(欧米では1960~70年代、日本では1990年代後半)に伴って、「労働者」や「農民」のような階級、或いは「若者」や「女性」といったカテゴリーが社会運動の主体とならなくなった。
    ◆古代ギリシャの直接民主主義では、全員が議論に参加し、盛り上がることによって、「みんな」や「われわれ」が決めたという納得感を得ていた。
    ◆近現代の、代議制による自由民主主義においては、個人が自由になったことと裏腹に、上記のようなカテゴリーの枠が希薄化し、自分たちは「ないがしろにされている」、「居場所がない」、「代表されていない」と考える人が増えてきた。
    ◆こうした状況を打開するためには、個人が自ら対話をする機会(社会運動など)に参加し、新しい「われわれ」を作り出す努力をするしかない。そのために、政府や専門家がするべきことは、個人が(対話)力をつける機会を作って手助けをすることである。そして、それこそが「社会を変える」ことなのである。
    ◆民主主義の原点は、参加者みんなが生き生きとして、思わず参加したくなる「まつりごと」である。そこにおいて、人は、自分個人を超えたものを代表していると思い、それとつながっていると感じることができる。
    2012年に本書が出版されてから10年以上が経つが、今日では、著者の望んだ方向とはむしろ逆に、考えることも、異なる意見を持つ人と対話をすることもない人々が増え、それを扇動するポピュリスト政治家が、世界を席巻している。(日本とて例外ではない)
    チャーチルは、第二次世界大戦終結直後に、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」と語り、事実、自由民主主義は、ファシズムにも社会主義にも打ち勝ってきたはずなのに。。。
    著者の次の言葉を改めて心に刻みたいと思う。「社会を変えるには、あなたが変わること。あなたが変わるには、あなたが動くこと。言い古された言葉のようですが、いまではそのことの意味が、新しく活かしなおされる時代になってきつつあるのです。」
    (2024年2月了)
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    投稿日:2024.02.05

  • 倉持実

    倉持実

     本書の目的は、運動を敬遠している、あるいは忌避感を抱いている人たちに、運動の魅力を伝え、運動をしてみようかなと思わせることである。最初に反原発運動こそがあらゆる運動が開花する肝である(となりえる)ことを主張し、その後なぜ過去の日本の左翼運動が破綻したのかをわかりやすく解説し、議会制民主主義に囚われることなく、運動によってこそ社会が変えられることを力説している。後半ではいろいろな社会変革理論をとりあげているが、著者が言うように、本書は運動の正解を示すようなものではなく、むしろ議論の叩き台となるようなものである。あくまでも本書は運動を行おうという人のための導きの糸に過ぎない。したがって、本書の評価軸は、社会思想などの著者の理解の正確さよりも、果たしてこれを読んだ人が本当に運動をプラスに捉えてくれるのだろうか、ということに求められるべきであろう。それは私たちのその後の行動が示すのだから、ここで本書の評価をすることは適当でない。しかし、ここでは学術的な観点から見ることにし、その場合、社会思想の解説で一部不正確な箇所(例えばマルクスの物象化論)があったため、星を一つ減らしておく。続きを読む

    投稿日:2023.06.11

  • Anony

    Anony

    感想
    無知のベールを被る。しかし人々が属性化されていない世界で有効なのか不明。間接民主制と多様性は真に両立するのか。全員の声を聞くのは困難。

    投稿日:2023.04.17

  • よし

    よし

    色々モリモリ詰まった本。もはや旧来の政治の方法ではうまくいかない=国民が属性化されてない だれも政治に主導権?主体性を持ってると感じていない、自分は代表されていないと感じる…
    だからこそ、多くの人が対話とか社会的活動に参加する、取りこぼされた若者を取り込む(積極的労働市場政策)ことが大事。(宇野先生が言ってた熟議民主主義にもつながる)続きを読む

    投稿日:2022.06.05

  • pnir

    pnir

    なんかしてえなって気持ちが募って購入

    大著!
    西洋政治史からじっくり学ぶ実践的な政治思想
    現代の病理的なものを紐解いて、では何をやろうか?何が良いものなのか?っていうのを考える本だと感じた

    これが新書で読めるのはありがたいことだと思う。僥倖続きを読む

    投稿日:2021.08.16

  • サム

    サム

    工業化、ポスト工業化と原発との関連はわかりやすかった。と言っても原発の知識がないので他の本でも確認したい。
    政治思想や社会学、経済に関する考察が幅広く知識の補給、整理ができたのは良かった。
    デモまでいかなくても、問題意識を行動に繋げてみようと思った。続きを読む

    投稿日:2020.10.22

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