【感想】アルケミスト双書 イスラム芸術の幾何学 天上の図形を描く

ダウド・サットン, 武井摩利 / 創元社
(9件のレビュー)

総合評価:

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    1. イスラム美術と幾何学:

    イスラム美術・工芸は長い歴史の中で多様な様式を発展させてきたが、常に統一要素があった。それは「調和」である。
    イスラムデザインの視覚構造のキーとなるのは、「アラビア文字のカリグラフィー」と「抽象的な装飾紋様」である。後者には幾何学パターンと理想化された植物紋様(アラベスク)という2つの中核要素がある。
    本書は特にイスラムの幾何学パターンに焦点を当て、その構造と意味を明らかにする。
    引用: 「イスラム世界の美術工芸は、その長い歴史を通じて、さまざまな媒体で多彩な様式を発展させてきた。しかしそこには常に、一目でイスラム美術とわかる統一要素があった。統一性と多様性の関係を明示的に追求した美術様式が、一四性を持つと同時に多彩でもあるのは阻くにはあたらないだろう。その中心にあるのが調和”である。」(はじめに)

    2. 幾何学パターンの起源と構造:

    幾何学パターンはコンパスと直定規などの基本的な道具を使って構築される。
    点から始まり、線を回転させて円を作り、円を重ねることで六角形のタイリングや星形などの基本的なパターンが生まれる。これは天地創造の6日間の理想表現やソロモンの印章の伝説にも関連付けられている。
    シンプルなパターンも多様に応用でき、星と六角形から様々なバリエーションが生まれる。
    「サブグリッド」はパターンの骨格となる格子であり、円から副次的に作られる。
    引用: 「点をひとつ思い浮かべてほしい。空閤の中の、次元のない位四である。点を拡張すると線が定義される(下図左喘)。この線を最初の点のまわりで回転させると、円ができる。円は最初の、そして最もシンプルな平面幾何学図形で、「一」「単一性」「唯一性」の完紐なシンポルである。」(最初の出発点)

    3. 無限性と神性:

    幾何学パターンは理論的には無限に拡張可能である。しかし、実際のイスラムパターンは長方形にトリミングされることが多い。
    この「枠で切り取る」フレーミングは、無限なパターンを切り取ることで幾何学的な美しさを保ちつつ、枠を越えて無限に繰り返すことができることを示唆している。
    この無限という概念は、無限なる神に通じる。奇数は伝統的に「神の唯一性」を想起させる数であり、パターン内のピースの総数が奇数になることもこの思想に関連している。
    引用: 「無限という概念について、ひいては無限なる神について、見る人に考えさせるためにこれ以上級れた視覚的手法はない。認やこまかしなしで、不可思函な概念を視覚によって真に捉えることができる。」(サブグリッドの変形)

    4. アラベスクと植物紋様:

    アラベスクは植物界をそのまま描写するのではなく、そのリズムや生長の要素を抽象的に抽出し、楽園の庭を想起させることを目的としている。
    渦巻きはアラベスクの基本モチーフであり、原初的で包括的なシンボルであり、生命やそのサイクル、天地創造のプロセスを体現している。
    引用: 「アラペスク(ペルシャ語ではイスリ_ミーという)のデザインは、幾何学バの一部でしかない。渦巻は原初的かつ包迫的なシンポルで、生命およびそのサイクルと深く結びついている。天地創造の院の膨張と収縮の渦巻くプロセスを体現する渦巻は、イスラムのデザインにおいて多くのアラベスクモチーフの基本になっている。」(アラベスク)

    5. カリグラフィー:

    クルアーンの言葉を記録する必要から、美しいアラビア文字の書き方が探求された。
    初期のクーフィー体から多様な草書体が派生し、イブン・ムクラによる優れた文字バランス配分システムがその基盤となった。
    文字の形は幾何学的な出発点を持ち、円やその直径、ペンのヌクタの大きさとの比率によって定められる。
    引用: 「クルアーンは、文字通りには「詠まれるもの」を意味する。この聖典は最初は暗記されていたからである。しかしやがて、その言菜を文字で記録する必要が生じた。そのため、匹字士たちは何世代にもわたって、聖典の内容にふさわしいアラピア文字の四き方を覇み出すことに栢然を頌けた。」(カリグラフィー)

    6. 幾何学パターンの種類と特徴:

    6回対称と12回対称のパターンは、星と六角形から派生し、結び目や組紐、護符的な力を暗示する。
    4回対称と3回対称のパターンは、それぞれ正方形や正六角形の格子に基づいて構築される。
    8回対称のパターンは、特にマグリブ地域で発展し、ハタム(印章)と呼ばれる星形が中心となる。ゼッリージュなどのカットタイルモザイクにも多用される。
    10回対称のパターンは、正五角形や正十角形を基盤とし、複雑で巧妙なデザインを生み出す。黄金分割とも関連が深い。
    弧を含むパターンは、直線と曲線を組み合わせたデザインであり、柔らかい印象を与え、アラベスクとも融合する。
    自己相似性を持つパターン(フラクタル)は、イスラムデザインの一部に古くから見られ、永遠性を体現している。
    7. 幾何学パターンの意味と象徴性:

    幾何学パターンは単なる装飾ではなく、神性、無限、宇宙の秩序、調和などの概念を象徴している。
    パターンの構造やピースの数、比率などに、深い宗教的・哲学的な意味が込められている。
    例えば、奇数は神の唯一性、14は預言者ムハンマド、特定の数のピースは神の99の美名などに関連付けられることがある。
    8. ムカルナス:

    ムカルナスは、四角い建物の上に丸いドームを載せるための構造的な工夫であり、同時に装飾でもある。
    ムカルナスの形状は、天からの光の降下や地上での結実を象徴している。
    地域によってデザインは多様であり、マグリブでは8回対称、東部では中心軸に集まるデザインが見られる。
    9. 結び:さらなる可能性:

    イスラムの幾何学パターンは、自然の美しさを再構築し、人間を熟考へと誘う「見える音楽」である。
    パターンの反復とリズムは調和を喚起し、神への祈りや思弁につながる。
    職人たちは幾何学パターンが「もとから存在する可能性」であり、神が適切な者に与えるものだと考えていた。
    幾何学パターンにはまだ探求されていない大きな可能性が秘められている。
    引用: 「イスラムの幾何学パターンにはまだまだ大きな可能性が秘められており、だれでも探求できるのだということを理解していただけたらと思う。」(むすび)

    その他:

    本書は豊富な図版を用いて、様々な幾何学パターンの構造や生成方法を視覚的に解説している。
    パターンの作り方についても、コンパスと直定規を使った基本的な手法から、グリッドや型紙を使った方法まで紹介されている。
    各パターンには、その起源や伝説、関連する概念についての解説が添えられている。
    付録として、1種類または2種類のピースからなるパターンや、無限パズルセット、スクエア・クーフィ一体、帯編みの縁飾りなどが紹介されている。
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    投稿日:2025.05.06

  • 日下

    日下

    イスラムの調和のとれたデザインについて、どのように描かれているかについて詳しく説明されていた。

    大小異なる図柄が現れている模様はまるで呼吸しているように見えて、見ているだけで神聖な気持ちになった。

    投稿日:2022.11.30

  • tetbook

    tetbook

    イラスト多めだからもっと易しいのかと思いきや、見たことのないカタカナ語が色々出てきてちんぷんかんぷんだった。とはいえ、図形はすっきりと美しくて大変眼福でございましたな。面白かった。

    投稿日:2021.09.20

  • marumaruma

    marumaruma

    “そのあまりの複雑さにめまいするイスラムの幾何学模様だが、著者はいくつかの幾何学的原則を知っていれば、だれもがやすやすと描けることを明らかにする” ─出版元

    エッシャーもアルハンブラでとりつかれたというアラベスクやいろいろな幾何学模様の仕組みや描き方を解説した、ちょっとマニアックな本。
    シンメトリーで反復的な模様は音楽を感じさせるし、音楽も宇宙も数学で表すことが出来る。そしてそれを感じるのは人間の心。
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    投稿日:2015.02.17

  • ぽんきち

    ぽんきち

    <無限に広がる、神の図形>

    イスラム美術は幾何学的である。
    一目でイスラム装飾とわかる特徴的なものだが、一方でそれはまた非常に多種の文様の組み合わせによる、無限といってもよいほどの多様性を持つ。
    貫性を持つと同時に多彩。中心には「調和」があるという。
    装飾を追求していくと深い宗教性にも到達しそうな、深淵な世界が広がる。

    イスラムデザインには大きく、2つの側面がある。
    1つはアラビア文字のカリグラフィー、1つは抽象的な模様。
    後者はさらに、幾何学パターンと唐草や花などの生命を持つ有機的なものの2つに分けられる。
    本書ではこのうち、主に、幾何学パターンについて分析・解説している。幾何学的にかなり深く追求している本である。

    パターンの基本となるのは円と直線の組み合わせである。円を一つ描き、その円周を中心とする同じ大きさの円を描く。その交点を中心として円を描くと、最初の円の回りに6個の円が描ける。こうして出来た点をつなぐと六角形が出来、さらにその中点をつなぐと正三角形を2つ上下に重ねた六芒星が出来る。

    細かくサブグリッドを取り、どの頂点を採用するかを変え、回転を加えるなどして、基本の形を応用していくと、星形や正十二角形、正方形、円弧を元にした、非常に多様なパターンが形成されていく。そうしたパターンが広がるさまは、世界が埋め尽くされる錯覚に囚われるほどだ。

    ときとして、正五角形が使用されることがある。この場合はそのままでは平面を埋めることはできない。職人たちは5回対称や10回対称を用いて、この問題を解決した(らしい。この辺になるとかなり高度だ・・・)。
    正十角形の辺同士をくっつけて間に蝶ネクタイ型の六角形を挟むことにより、パターンが成立している例もある。
    九角形や十一角形など、奇数の頂点を持つ図形では、角度の近似値を用いてちょっとしたねじりが入っている場合もある。見た目ではほとんどわからない、わずかな歪みである。
    ドームなどの立体の場合は、オレンジの房のようにわけていくのが基本的な方法である。

    巻末には基本のパターンやサブグリッド、帯編み等の一覧がある。シンプルなものを組み合わせ、非常に複雑なものを作っていることがわかって、眺めながらもう一度唸る。

    見たときに美しいな、とは思うが、これを自分で作り出せる気はまったくしない。むすびの「イスラムのデザインは、一種の『目に見える音楽』だ」というひと言にはなるほどと思うが、「誰でも探究できる」には、但し書きとして、並々ならぬ才能と熱意を要する、と付け加えたい。それには、あるいは、信仰が大きな一助となるのかもしれない。


    *イスラムは、高度な代数が発達したことでも知られる。洗練された幾何学装飾と無縁ではないように思う。イスラム数学を概説するような初心者向けの本があれば読みたいなぁと思っているのだが、検索すると引っかかってくるのは相当骨が折れそうなものばかり・・・(^^;)。ご縁があればいつか出会うこともあるかな・・・?
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    投稿日:2013.07.26

  • tampopo165

    tampopo165

    イスラムの寺院などにみられる美しいタイル模様が、コンパスと定規で誰にでも描けるという本。
    描き方に関するノウハウを紹介するとともに、モザイクに込められている思いも語られている。偶像崇拝を禁じているイスラム教では空間を埋め尽くすモザイクに神への思いを込めている。連続性のある柄が永遠を表現。複雑な柄を描くために使われる円は、目に見える世界を支える目に見えない世界を表現している。
    絵を描く上でも参考になったし、イスラムの美術に対する理解も深まる素晴らしい内容。
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    投稿日:2013.03.17

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