【感想】黄色い雨

フリオ・リャマサーレス, 木村榮一 / 河出文庫
(20件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
9
2
3
0
0

ブクログレビュー

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  • 淳水堂

    淳水堂

    『黄色い雨』以前単行本を読んだレビューはこちら。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/478972512X#comment
    こちらの文庫本は表題作のほか短編2作が入っているので読んでみました。
    あとがきは単行本のほうが良いなあ。訳者木村栄一の「素晴らしい作品に合うと白い炎が見える。この小説にも見えた(だから翻訳した)。」という言葉が良かったんですよ。

    P11からP21抜粋
    <彼らがソブレプエルトの峠に付く頃には、たぶん日が暮れ始めているだろう。黒い影が波のように山々を覆って行くと、血のように赤く濁って崩れかけた太陽がハリエニシダや廃屋と瓦礫の山に力なくしがみ付くだろう。

    それから後は、何もかもが目の回るような速度で過ぎ去っていくだろう。それから後のことは(そして、数時間後に、人に話して聞かせるためにあのときの出来事を思い立とうとしたときも)、どうして最初に疑っていたことが革新に変わったのかを正式に理解することができないだろう。というのも、男たちの一人が階段を登り始めた途端に、私がずっと以前から彼らを待ち受けていたことに思い当たるだろう。突然説明のつかない寒気に襲われて、上の階に私がいると確信するだろう。黒い羽が壁にぶつかって私がそこにいると教えるだろう。だから、誰一人恐怖のあまり叫び声を挙げないのだ。だから、誰も十字を切ったり、嫌悪を表すジェスチャーをしないのだ。ランタンの灯がそのドアの向こうのベッドの上に横たわっている私を照らし出すだろう。私はまだ服を着ており、苔に覆われ、鳥に食い荒らされた姿で彼らを正面からじっと見つめるだろう。

    そうだ。彼らは服を着たまま横たわっている私を見つけるだろう。私は彼らを正面から見つめるだろう、粉挽き小屋に放置された機会の間にぶら下がっていたサビーナのように。ただ、サビーナの遺体を見つけたあの日、私の側にいたのは、雌犬と川岸の木々にぶつかっている灰色の霧だけだった。>

    冒頭がいきなりこれですからね。
    「〜だろう。〜だろう。」で繋いでいき、語り手の語る自分の死体にたどり着く。何事??

    山にへばりつくように建っている寒村があった。語り手はそこに残る最後の老人だ。みんなが出て行っても、妻が自殺しても、意地なのかなすすべもないのか、ただ一人で残り続ける。村から人間がいなくなると村には忘却の黄色い雨が振り、家には亡霊たちが帰ってきた。老人は自分も黄色くなっていることに気がつく。自分は朝まで生きられないだろう。老人は人生を語る。

    200ページ弱なので2時間未満で読める。老人の最後の語りに耳を傾けよう。
    ああすごい小説。まさに「白い炎が見える小説」であり、訳者のその入れ込みようも感じる。


    『遮断機のない踏切』
    配線となった線路の踏切係が、電車が来ない線路の踏切小屋に通い続けて通らない電車にあわせて踏切を上げては下ろす仕事を続ける。車に乗った人たちは、決して来ない電車の通過を待つ踏切に通行を邪魔される。
    …不条理小説というか、最初は単調な仕事を20年続けてそのままの生活が癖になった感じだったが、どんどん偏狭的になっていく。

    『不滅の小説』
    詩人のトーニョは世間に認められていないし、成功したかつての自分の仲間たちにも黙殺されているが、自分こそは重要な詩人だと自認している。しかし自分の曾祖母の奇跡に出会ったトーニョは、祖母に関する小説を書くことにした。15年掛けて書き上げた小説だが、まだ健在な人々が登場するために出版の決意がつかなかった。さらに年月が過ぎて彼らは老衰で死んでいったが、最後の一人が残っている。このままではいつまで経っても自分の唯一の小説が出版できない。こうなったら最後の一人を殺すしかない。
    …えっえーーー(*´・д・)━!!!」なぜその発想。
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    投稿日:2023.10.17

  • Anony

    Anony

    感想
    死と触れ合う。恐怖もなくただ親しみだけが残る。朽ちていく自然の中に回帰する。その諦念は昔手放したもの。やっと戻ってきた。

    投稿日:2023.06.10

  • パウレタ|小説・エッセイの文体・余韻評価軸!

    パウレタ|小説・エッセイの文体・余韻評価軸!

    ①文体★★★★★
    ②読後余韻★★★★★

     こちらは廃墟、廃村が主な舞台となっている小説で、一人の男の死を村の消滅にかさねて描かれています。
     語り手はその男による死者の視点。これが不思議な設定で、彼の回想や死に行く過程が語られています。その孤独のなかで生と死の境界が淡くなり、昼と夜の境が無くなっていくのが読んでいて感じます。季節の移り変わりとともに朽ち果てていく家や村、はなれていく人、死に行く人。ポプラの枯葉とともに降りしきる黄色い雨。深い沈黙の中に消えていく記憶。
     この何とも退廃的な状況を詩人である著者の透明感溢れる文章で綴られているのがとても印象的でした。そこには死が漂っているのにもかかわらず、なぜか美しさを感じます。
    続きを読む

    投稿日:2022.10.29

  • knkt09222

    knkt09222

    このレビューはネタバレを含みます

    ・文体の美しさ。
    ・簡素な舞台と、奥深さ。
    ・不吉さ。
    ・幽霊。
    ・雌犬の存在。
    ・悲しくも優しいまなざし。
    ・異文化。
    出会えてよかった本。



    以上は、2012年、ヴィレッジブックス単行本初読時の、きれぎれの感想。
    以下は、10年経って2022年5月、河出文庫で再読しての感想。
    文庫版では短編をふたつ(「遮断機のない踏切」「不滅の小説」)収録。

    まずは、初読後10年、本書を思い出すたびに脳裏に描かれていた、カバーイラストの美しさについて。
    ニコラ・ド・スタール(露: Сталь, Никола де、仏: Nicolas de Staël、1914年1月5日 - 1955年3月16日)という画家の作品らしい。
    ロシアで生まれたがロシア革命を逃れ欧州方々に移り最終的には自殺したんだとか……。
    ただ黄色い絵ということではなく、ちゃんとした文脈がありそうだ。
    古屋美登里が豊崎由美との対談で類推していわく、訳者である木村榮一が某新潮社や某白水社に持ち込んだにもかかわらず門前払いされたあと、ソニー・マガジンズの海外文学に積極的な編集者に辿り着いた結果、出版にこぎ着けたのだろう、と。
    その(想像の中の)編集者に感謝。
    このカバーイラストを選んだもその編集者なんじゃないか(と勝手に想像を重ねてしまう)。

    また今回は連想を拡げながら読み返せたのもよかった。
    ・2014年に読んだ、フアン・ルルフォ「ペドロ・パラモ」1955。墓の下からの語り……コマラという町そのものの……と、いつ死んだか判然としない語り手の一人称と、は重なり合っている。生者と死者の境界は曖昧なのだということ。
    ・幽霊の語りという点で、2017年デヴィッド・ロウリー「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」も。
    ・ビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」などの風景。
    ・やや無理矢理だが、押井守「天使のたまご」の、窓のこちらと向こうという構図も。
    ・前回読んだときは読後ネットで探すことをしなかったが、今回いろいろ検索してみて、なんと作者自身が(本当に実在した)アイニェーリェの跡を訪れた動画を見つけて……胸塞がる思い。それこそアナ・トレントが成人して「ミツバチのささやき」の舞台を訪れたときの映像に近い。

    ポプラの枯れ葉がまるで雨のように。
    落ち葉をサクサク踏んだり、戯れに蹴り飛ばしながら歩いたりする季節があるが(いや、銀杏並木だった)、あれは死の上を歩いていたのだった。

    死を目前にしたとき……たとえば癌で入院して余命数年というときに……必ず読み返したいと決めた、筆頭作品。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2022.05.23

  • Pierrotyan

    Pierrotyan

    フリオ・リャマサーレス著、木村榮一訳『黄色い雨 』読了。死にゆく村に生きる最後の1人。彼は自分が村の最後の命のように生き、死を待つ。詩的な回想で村の過去が語られる。
    作品はもちろん、スペインの書店で店主に進められて本作と出会った経緯が語られる訳者の木村榮一さんによる解説が最高。続きを読む

    投稿日:2022.03.24

  • ymraintree

    ymraintree

    アマゾンでリコメンドされて、なにげなく読み始めたら、これが静かな美しさに溢れていて、心打たれた。素晴らしい筆力、素晴らしい日本語訳。

    投稿日:2022.02.09

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