【感想】経済と人間の旅

宇沢弘文 / 日本経済新聞出版
(7件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • rafmon

    rafmon

    前半の内容は佐々木実による『資本主義と闘った男』とほぼ同じ。復習にもなるし、理解を深める役に立つが、基本的には宇沢弘文の生い立ちから学者としての半生、理論形成に影響しただろう人間関係について。違うのは自叙伝である事。本著も佐々木実ね取材内容もどちらも読む価値あり。

    宇沢弘文の主張を理解するために重要なキーワードは、社会的共通資本。社会的共通資本とは国ないし特定の地域に住むすべての人々が豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置。それは教育を始めとする社会制度、自然環境、道路などの社会基盤の三つによって構成される。一貫して宇沢は経済による社会調和を重視する。

    象徴するようなエピソードを引用したい。著者は1983年文化功労者となり宮廷に招待された。
    ー文部省で行われた憲章式の後、宮中で天皇陛下がお茶を下さるという。陛下の前で今まで何をしてきたかを順番にお話しする。私はすっかり上がってしまい、ケインズがどうの、それがどうしたとか、自分でもわけが分からなくなってしまった。すると昭和天皇は身を乗り出され、「君。君は経済、経済と言うけれども、要するに人間の心が大事だと言いたいんだね」とおっしゃった。私はそのお言葉に電撃的なショックを受け、目が覚めた思いがしたー

    実の娘が医大を出た。自らも経済学者を志す前には、医者になる事を夢見た事もあり、しかし断念。後年、やはり医師になろうと娘に話した際、娘から「60歳半ばを過ぎてから医師になってもほんのわずかな年月しか医師として働くことができない。医師一人を育てるのにどれだけ社会的費用がかかっているか」と言われ、自らの不明を恥ながらも、娘の論に喜びも感じたという。ヒポクラテスの誓い。医師の職業倫理として最も基本的な患者に尽くすべき精神性を宇沢は経済学に見出したのではないか。

    後半は経済理論について。学ぶ事は、それぞれの体験を通した情動や動機に左右されながらも、いつまでも尽きない。
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    投稿日:2023.01.02

  • yoshidamasakazu

    yoshidamasakazu

    宇沢弘文 「経済と人間の旅」

    自伝と著者の経済学的テーマを論じた本。ケインズ、ヴェブレンを中心に 経済学のエッセンスをわかりやすく説明している

    著者の経済学的テーマを具現化したものは、社会的共通資本という考え方。特に制度を通じた医療と教育の効率的な分配に重点を置いている


    著者は ヴェブレンの制度主義の立場にたち、リベラリズム(人間の尊厳を保ち市民的自由を守る)の観点から、社会的共通資本(特に医療と教育)を分配することを主張


    少しエリート主義や 哲人政治的な思想を感じる。新しい制度をつくるほど、社会的共通資本が増え、政府や官僚の権限や責任も大きくなるが、そんなことして 大丈夫か?と思う


    社会的共通資本とは
    *人間の生活や生存に重要な資源、モノ、サービス、制度を共通の財産として社会的に管理する仕組み
    *社会的共通資本の多くは希少資源であり、私有や私的管理は認められない

    ヴェブレンの制度主義
    *制度的諸条件により 経済活動の在り方が規定され、経済発展の形態と特質が決められるメカニズムを分析
    *人々の経済活動(消費活動)は、効用最大化行動によるのではなく、社会的、制度的、歴史的要因に左右する

    社会的共通資本としての医療は、医療を経済に合わせるのでなく、経済を医療に合わせる
    *経済学の枠組のなかで最適なら国民医療費を計算することは不可能
    *経済学のテーマは、最適な医療サービス効率的に分配されるには、どのような医療制度をつくるか

    ケインズ「一般理論」
    *資本主義は不安定であり、政府が何かしなければ、大量失業か危険なインフレを生む
    *金融制度の不安定さが資本主義を不安定にしている
    *一般理論の戦後の考察対象は 公共投資、対外経済、軍事援助などを通じた経済成長
    *資本主義経済の制度的条件を定式化し、経済循環のメカニズムを解明し、雇用量、国民所得がいかに決定されるか明らかにした
    *一般理論は資本主義の制度的条件のなかに大恐慌を生み出すメカニズムが内在することを明らかにした

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    投稿日:2021.02.02

  • マサユキ

    マサユキ

    ☆☆☆2019年12月☆☆☆


    『自動車の社会的費用』などの著作で知られる宇沢弘文の、経済学に対する考えの凝縮された一冊。「社会的共通資本」=「人類や、地球にとっての共有財産」と考えてよいだろうか。美しい自然や、教育、医療など。このような社会的共通資本を大切に、人間が人間らしく生きることを目指すのが宇沢経済学だと思う。ヴェブレン、ケインズの思想について述べる部分が長いが、僕にはよく理解できなかった。続きを読む

    投稿日:2019.12.07

  • 777Gooodman

    777Gooodman

    シカゴ大教授時代の教え子に、後にノーベル経済賞を受賞する、スティグリッツ等が居るという。またシカゴ大時代に、同僚として垣間見た、ノーベル経済学賞受賞のフリードマン教授の身勝手な振る舞い、一中時代の同級に文化勲章受賞の速水融が居たとか等、興味深い話題多数。一高では、医学部を目指しつつ、何故か東大数学科に進み、著名な弥永教授に師事するも、経済を学び直す、そこからスタンフォード大、UCB、ケンブリッジ、シカゴ大等、で学んだり講義をしたり等々、日本人最初のノーベル経済学賞候補者と言われたことにも納得。 40数年前の学生時代に手にとった、`自動車の社会的費用`の著者が語る、私の履歴書であります。続きを読む

    投稿日:2019.03.31

  • tobenaitonbi

    tobenaitonbi

    日経に連載されていたのをまとめた本。
    将来の経済とこれに関わる全般のことを考察し続けた方だなと思う。

    投稿日:2016.09.19

  • advicekiyomidosu

    advicekiyomidosu

    このレビューはネタバレを含みます

    日本を代表する経済学者。数字だけが重要視されるような経済という世界に、実は人間性、人の幸せを合わせ考える事こそが、一番重要な経済の未来図。幼少期から振り返る自伝む含み、水俣病患者に寄り添い、天皇陛下やローマ法王からも意見を求められる存在。新進気鋭の時代には、今の経済界にも大きな影響を与え続けた数々の経済学者との交流。難しい理論を排しても読んで興味深い内容多数。ぜひ。

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    投稿日:2015.03.29

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