【感想】投資される経営 売買(うりかい)される経営

中神康議 / 日本経済新聞出版
(7件のレビュー)

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  • GINNOJI

    GINNOJI

    企業価値に主眼を置いている一冊。
    ROICを重視すべきとはあるが、ROICやROE、ROAそれぞれのみに着目しないということも本書で把握できる。
    書き方が非常に楠木先生風ではあるが、実際は日本長期投資の雄であるみさき投資が著者である。

    ◯長期投資家だけ狙い撃て
    長期投資家はROEではなくROICを見る
    ROEは財務レベレッジをかけることで、株主にだけは高い資本生産性を提供することが可能..しかしそれは小手先だと知っているので、増配や自社株買いを冷ややかに見ている
    よく耳にするROEはもちろん大事だが、株主しか向いておらず万能ではない。ROAはステークホルダー全員を見ていて大雑把すぎる。ROICは分母から本業と関係ない資産を切り出している事から、純粋な事業競争力を見るのに適している

    ◯ROEはセンターピンを外している
    伊藤レポートやコーポレートガバナンスコード、ISSのROE5%基準によって、ROEにスポットライトがあたっている
    しかし、企業が掲げるROE目標や改善策はセンターピンを外している
    日本企業のROEの低さは明白で「本業で利益をあげる力」が欠けていること。これがROE向上のセンターピンであり、多くの企業がROE改善にフォーカスしてしまっている
    長期投資家ももちろんROEには注意を払っているが、金融工学的な手法はすぐに見破る

    ◯実力のキャッシュフローを伸ばせ~実力のキャッシュフローを知るためのプロセス。絶対価値を算定せよ~
    資産バリュー:最も保守的なバリュー。この会社をゼロからつくるとしたらいくらかかるのか?という概念。「再調達価格」とも言われる。明確な期限決めはないが、過去の費用を足して価値を算定する
    収益バリュー:将来の成長を織り込まない、現状の稼ぐチカラ。ROEも収益バリューの1つ
    成長バリュー:最も多様な計算や調査が必要なバリューであり、しかも投資家が成長に必ずしも価値を見出してくれるとは限らない
    競合障壁:高い障壁をもっていて、競合が激しい戦いを仕掛けてきたとしても、安定したキャッシュフローが見込めることが重要。今高い業績を出していても、調査されて高い障壁でないと判断されれば見向きされなくなる
    この会社はどれくらいのキャッシュフローを安定的に上げられる会社なのか=実力のキャッシュフロー
    https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/01_nakagami_shiryou.pdf
    ↑これ見たほうがわかりやすい

    ◯持続的企業価値(みさきの公理)
    事業の資質:障壁と競争優位、ストーリーが重要。特に障壁を意識せよ
    ヒトの気質:知的貪欲さ、オープンに聞き入れる姿勢、少数でも株主に対する意識をもっているか(社会の公器意識なく経営している経営者はダメ)
    経営の洗練:これが最も日本企業に欠けている、洗練させよ。『m』を磨きぬいていくことができれば絶対価値は持続的に上昇し、投資家も長期投資が容易になる

    ◯競争障壁を築くための5つの切り口
    リソース 特定企業しか持っていない独特の資源。レアメタルなどの素材や特許など
    規模 規模がもたらすコスト優位
    スイッチングコスト 変えるのが大変
    習慣化 嗜好品など慣習化してしまうもの
    サーチコスト 探すのが大変なもの

    余談:長期投資家が嫌いなこと、好きなこと
    ・小手先の数字合わせや横並び思考、思考停止や観念論、ゆるみ・・・
    ・教科書論や物真似で競争に勝っていけるほど甘いものではない
    倦まずたゆまずゆるまず、「m」を改善することに燃えている経営者がいるのか、いないのか?
    長期投資、最大の敵は行動がブレること
    行動がブレるか、ブレないかの最後の砦は「この人に最後まで賭けられるか?」
    「この人が好き、この人の自己規律が好き、だからこの人の経営に賭けたい」という『感情』
    実はこれこそが「投資される経営 売買される経営」の最大の分岐点

    余談:日本に「短期・順張り」投資家が多いのはなぜ?
    経営側の問題が大きい
    1960年以降(継続してデータが収集できる)一部上場企業1013社で
    3年に一回以上の頻度で過去最高益を更新できたのは12%(128社)
    年率5%に相当する利益成長を実現できたのはさらに少ない7%弱(69社)
    この10年間で株主資本コストを上回ってきた上場企業は25%しかない
    4分の3の企業が、「株主価値破壊企業」
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    投稿日:2021.11.12

  • bookkeeper2012

    bookkeeper2012

    平易な語り口だし、そんなに突拍子もないことを言っているわけではないので読みやすい。ただROICのくだりはちょっとわかりにくい。

    投稿日:2019.09.09

  • 公認会計士 日根野健

    公認会計士 日根野健

    長期投資家の立場から、上場企業の経営者に向けて、書かれた本です。
    長期投資家にとって、長期投資したくなる経営とはどのようなものか? 逆に長期投資したくならない(短期的に売り買いされてしまう)経営とはどのようなものか? が説明されています。
    おもしろかったです。
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    投稿日:2018.05.27

  • aky302002

    aky302002

    【みきまるさん株式投資本オールタイムベスト2017年度版第27位】

    エンゲージメント投資で知られる「働く株主」中神康議氏の本。
    経営の側から投資家の生態を明らかにするという今までにない視点の本。

    第1章 なぜ投資家は分かりづらい行動をとるのか ☆超重要

    ・投資という事業は付加価値が薄い。

    ・よく聞く「ベーシスポイント」とは、1ベーシスポイントはたったの0.01%

    ・運用業界でこうした表記が一般的な理由は、投資等事業がそれだけ「本質的に」付加価値が薄いため、こうした細かい数字を使わないとその経済性を表現できないことが原因

    ・どんな投資家でも毎年10%のリターンを確実に出し続けるのは困難。
    その薄い粗利から人件費等販売管理費を捻出し、高い最終利益を持続的に出すこともまた難しいはず。上場株式への投資という事業は、こういう利の薄い経済性の中で営まれている。

    ・少人数で大きな金額を動かさないと、まるで儲からない。
    だからレバレッジをかける、かけなければ成り立たない。
    それが付加価値の薄い投資業の宿命。

    ・投資事業は、投資先企業への依存度が高い。

    ・投資業では買った後に価値を足せることはほとんどない。
    それでも長期投資しようというわけだから、その会社は長期間にわたって本当に強みを持ちつづけられる会社なのか、長くお金を預けても大丈夫な経営者なのかを投資する前に十分見極めることが大切。

    ・「何を買うか」と同じくらい大事な点は、「いくらで買うか」

    ・自分で足せるものはほとんどないので、その会社の本質的価値に比べて、割安な価格で買わないと元も子もない。

    ・世の中は「買ってから勝負が始まる」事業と、「買った瞬間に勝負が決まる」事業に
    二分されるが、上場株式の投資事業は後者の典型。

    ・競争相手が簡単に出てくることも、付加価値が薄いことの帰結のひとつ。

    ☆日本には「短期・順張り」投資家が多い。
    →順張り傾向が強いということは、一度マーケットに方向感ができると、
    その方向に強烈に流れていってしまう

    短期投資家ばかりになる理由①
    長期にお金を預けてくれる金主が少ない

    同②
    そもそも安心して長期投資できる企業が少ない
    長期にわたって業績をあげている企業がそもそも少ない
    全上場企業の3分の2は「株糠地破壊企業」

    企業の価値をきちんと評価している投資家であればあるほど、
    株価が価値を急に上回った場合には売って持分を減らし、
    逆に下回れば買い戻すという行動を取っていてもおかしくない。
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    投稿日:2018.04.30

  • mrslight

    mrslight

    このレビューはネタバレを含みます

    ○投資事業は付加価値が薄い(ベーシス・ポイントといった指標に代表されるように)ため、投資先企業への依存度が高い。
    ○投資家は種々雑多であるが、順張り短期志向が多い。
    ○長期にお金を預けてくれる金主が少ないこと、長期投資できる企業が少ないことが短期投資家の多さの原因。
    ○長期投資家は時価総額ではなく「絶対価値」を算定する。その際、過去の費用(研究開発費や広告宣伝費)も足し戻して算定する。
    ○収益バリューの算定は、損益計算上の利益ではなく、キャッシュフローベースで行う。その際将来の成長を織り込まない。
    ○「成長」と「膨張」は異なる。「膨張」は、超過利潤を出せていない(=資本コストを上回る成果を出せていない)状態で会社が大きくなることで、価値破壊を続けている状態。
    ○超過利潤を出せている会社に限って、成長バリューを心眼で算出する。
    ○投資される経営の例として、
    ・アインファーマシーズ(待ち時間の短縮という製造業の経営手法をサービス業に取り込んだことにより顧客満足度の向上や在庫回転率向上、薬剤師の生産性とモチベーションの改善等につながった例)
    ・大塚商会(販売事業における地域ごとに分業制から銀行業の業務・組織運営(中央集権的な体制)への転換により労働生産性の倍増につながった例)
    ・オムロン(100近い事業ユニットをROICで管理し、選択と集中を進めることでROIC13%を達成した例)
    ・ディスコ(WILL会計と呼ばれる管理会計制度の適用により従業員一人一人のレベルまで収入と支出を可視化することで業務効率化につながった例)
    ・エーザイ(BSのあるべき姿からM&A投資枠や研究開発費、株主還元をコントロールするバランスシートマネジメントの例)
    ・丸井グループ(最適資本構成の考えに基づく負債調達増加や自己資本縮小の例)
    ○日本のROEが低いのは、デュポン分解してみると、事業マージン(ROS=当期利益/売上)が欧米企業の半分しかないため。
    ○長期投資課はROEではなくROICを重視する。これは、事業に使われている資産のみを抽出して、それに対してどれだけの利益を生み出しているかを算出できるため。ROEは株主から拠出されたお金を株主に対してどれだけ還元したかを示す指標であり、財務レバレッジをかけることで人為的に高めることも可能。
    ○M&Aについてはウィッシュ・リストを常に持っておく必要。部屋の中の像と呼ばれる、問題の先送り(事業の撤退・売却判断)はしないよう、コーポレートガバナンスのソフトウェアが重要。
    ○CCCの改善、最適資本構成の考え方が必要。
    ○日本における社債マーケットの薄さも、企業の財務戦略の自由度の低さにつながっている。

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    投稿日:2016.09.24

  • marumik

    marumik

    ビジネス書は仕事に必要なのでしかたなく読む。今回も会社の人に勧められて読むことになったが、一言でいうと大変良かった。
    なぜなら、投資や株式という言葉自体に懐疑的なイメージを持ってしまう私の、投資という言葉への誤解を解き、理解を進めることになったからである。

    また、著者の日本企業に対する熱い思いや、プロフェッショナルの心意気が伝わってくることに驚いた。著者は、日本の企業は優れた事業と優秀で勤勉な組織を持っている、それなのに経営そのものへの無関心が低収益を生んでいる、そのことが悔しい!と切歯扼腕している熱心な投資家なのだ。

    この著者の思いに触れるまで少々遠回りした。著者が冒頭で勧めた一例に従って、1章のあとは、最も興味が持てそうな4章から読み進めた。( 1章→4章→2章・3章→楠木先生の長めの解説→5章以降)

    4章で優れたcaseの数々を読む。すると、その中に頻出する「m」(時々「b」「p」も)という符号の意味が知りたくなってくるので、2章・3章を読む。
    2章での企業価値の概念的に整理され、3章で「この会社は、本当に長期投資を行うに値する会社かどうか、という一点を見極ようとするため」(76ページ)に、件の「m」(マネジメント)「b」(ビジネス)「p」(人)を切り口にしたシンプルでユニークな企業評価の方程式が出てくる。

    ここまで読むと、テンポのよい語り口の間から、著者の熱い思いが溢れていることがはっきりわかるはず。まだ読み込んでいるとは言い難いため、味わいつつ再読・精読したいと思っている。
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    投稿日:2016.07.05

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