【感想】昭和史講義【軍人篇】

筒井清忠 / ちくま新書
(4件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
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ブクログレビュー

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  • mamo

    mamo

    戦前の「昭和史講義」シリーズで最後に読んだ。

    3巻の「リーダーを通して見る戦争への道」では、政治家が取り扱われているわけだが、なんだかなにをしたいのかわからない人が多い。なんでそうなるかというと、軍部をガバナンスできない、あるいは軍部を動かすために本心とは違うことを言ってみたりするからだ。

    という状態で、戦前日本を動かしているのは、やっぱ政治家というより、軍部ということなのかなと思って、こちらを読んでみた。

    たしかに軍人のほうが、なにを考えていたのか、なぜそういう判断、行動をしたのかはわかりやすい。(一部、とても政治的に動いている人もいて、政治家同様、本心がわからない人もいるが。。。)

    一般的なイメージとして、
    ・海軍は世界情勢をよく理解していて、日米戦争に反対していた
    ・世界情勢をしらない陸軍が、暴走して戦争に突き進んだ
    という感じがある。

    しかし、実際には、
    ・陸軍もトップクラスの人たちは欧米経験があって、世界情勢、これからの戦争は総力戦であることに問題意識をもっている
    ・陸軍の関心はもっぱら中国、ソ連、そして南方であって、アメリカとの戦争は海軍の仕事
    ・なので、海軍がやると言わない限り、アメリカとの戦争はできない
    ・で、実際、対米戦争に向かっていたのには、海軍側のリーダーシップ?があった
    ということのようだ。。。。

    エリート軍人たちもそれぞれのプロフィールを読めば、極めて優秀な人々(戦前の日本では軍隊の位置付けが高いので、社会の最優秀な人々の相当の割合、とくに経済的に学校にいくことができない優秀な人たちは士官学校にいく)が、集団になるとプアな結論を生み出すというグループシンクに陥っているということがわかる。

    そして、政治家が軍隊のからのプレッシャーのなかで、判断をするように、軍人たちも自組織の中の政治的なパワーポリティクス、そして「大衆」からの圧力、支援のなかで判断しているのだ。

    つまり、たどっていくと、大衆のポピュリズム的な動きが、日本の軍人、政治家を突き動かしており、そしてそのエリート集団内でのパワーポリティクスのなかで、だれもが望まない日米開戦になだれ込んでいったということのようだ。

    と、なかなかにヘビーな話しなのだが、なかには人間的にも、知性的にも素晴らしい人はいて、陸軍でいえば、今村均、海軍では、堀悌吉。こうした人々が、もししかるべきポジションにいれば、と考えたくなるが、彼らが傍流においやられるような構造、歴史の流れの必然があったわけなので、この「もしも」を考えてもしかたのないことなのかもしれない。
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    投稿日:2022.07.18

  • テムズの畔にて

    テムズの畔にて

    帝国陸海軍の主要な14人の将官を扱ったもの。紀伝体的に個別人物に着目しているわけだが、中身は玉石混淆。編年体では無いので全体像は掴みにくくなるが、それはシリーズ全体で縦糸横糸の関係にあると思う。但し、紀伝体らしく、その人の個性・経歴・思想などに切り込めている章が全てではなく、残念ながら星4とした。

    読後感としては、個別人物が好きかどうかは別として、梅津、鈴木貞一、武藤、牟田口、今村、永野、石川、堀が面白かった。山本が自分の中ではダントツに詰まらなかった。

    特に、海軍の指導者として名前はよく見るが全く知らなかった永野は更に知らなければと思った。リーダーシップなき組織の典型。堀悌吉の項では、とてつもなく有為な人材が末次・加藤のような怪物・俗物の策謀で排除されるわけだが、悪貨が良貨を駆逐する典型例で、いつの時代も気をつける必要がある。
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    投稿日:2022.04.03

  • hiro1548

    hiro1548

    重要な局面で鍵を握っていたとされる14人の軍人の最新研究ということらしい。一人ひとりの行動や背景を掘り下げたところで「木を見て森を見ず」ってことに陥りやすいかも。そこは読者のリテラシーに委ねられるのだろうけど。
    どうしても各々はちゃんと考えていたし、それなりに評価できるという方向に引きずられそうで気持ちが悪い。
    それでも牟田口司令官は全面的に非難されることになる。一番の問題は、そんな牟田口を司令官にした体制であり、しかもインパール作戦の責任も問わなかった軍のシステムなんだけどな。
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    投稿日:2018.10.14

  • tagutti

    tagutti

    このレビューはネタバレを含みます

    <目次>
    まえがき 昭和陸軍の派閥抗争
    第1章  東条英機~昭和の悲劇の体現者
    第2章  梅津美治郎~「後始末」に尽力した陸軍大将
    第3章  阿南惟幾~「徳義即戦力」を貫いた武将
    第4章  鈴木貞一~背広を着た軍人
    第5章  武藤章~「政治的軍人」の実像
    第6章  石原莞爾~悲劇の鬼才か、鬼才による悲劇か
    第7章  牟田口廉也~信念と狂信の間
    第8章  今村均~「ラバウルの名将」から見る日本陸軍の悲劇
    第9章  山本五十六~その避難構想と挫折
    第10章  米内光政~終末点のない戦争指導
    第11章  永野修身~海軍「主流派」の選択
    第12章  高木惣吉~昭和期海軍の語り部
    第13章  石川信吾~「日本海軍の最強硬論者」の実像
    第14章  堀悌吉~海軍軍縮派の悲劇

    <内容>
    私的には詳しくない、戦前期の軍部の方々の評伝。まえがきにあるように、軍部研究はいろいろとタブー視されていたようで、現段階でも研究は少ないらしい。なので、突飛な絶賛か下劣な批判に終始しているが、いずれもきちんとした史料批判のないままに、また聞きや噂の類が根拠になっている。この本は簡単ではあるが、きちんとした史料を基に論評している。
    読んだ感想だが、軍人は何をしていたのかな?という素直な気持ち。常識化している陸軍内部の「皇道派」「統制派」の対立はもちろん、自分の立場や思惑を根拠とする戦争肯定の考え方(背景に、大戦間の「軍縮」による軍人不要論があるにせよ)があって、巨視的な視点や対立していた国の様子などの分析がされていないことがよくわかった。やはり国際的な政治というのは、「理念」とか「信念」から始めちゃいけないのかな?

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    投稿日:2018.08.17

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