【感想】パニック・裸の王様(新潮文庫)

開高健 / 新潮文庫
(70件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
13
30
17
3
1

ブクログレビュー

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  • コタロ

    コタロ

    このレビューはネタバレを含みます

    こういう文章を書いてみたいと思わせるような文学性の高さは見せつつも、決して読みにくいということはなく終始読者フレンドリーで面白かった。

    『パニック』は、著者が筆に託して描きたかったものは果たしてなんだったのかが、読み終わってからようやくわかる筋立ての作品だった。そのためか、組織内政治の描写をそんなに読み込む必要はなかったなと若干の徒労感がある。ただこの作品の勘所はそんな陳腐なテーマじゃない、なんてことは著者のレベルを考えればそもそも自明だった。

    『流亡記』は、序盤にほぼ固有名詞が出てこないため、古代中国の城邑っぽい架空の時代と場所が用意された物語として読むこともできる、というか残虐性が高くてそう読むよう誘導される。そのなかに突然出てくる「咸陽」で、読者は秦初の中国のどこかにいることに気付かされる。これは、元々帰属する国など持たなかった主人公と城壁の街が、突然秦の統治機構に組み込まれて帝国民になり、時間意識を与えられたことに合致する。読者が主人公と同じタイミングで同じ情報を与えられるという技巧が面白い。
    争いはなくなったが、かつてあった他者との連帯が厳格な法執行と管理のもとで失われていくという問題意識に新規性はないけれど、物語中のシステムに組み込まれて潰されていく人間の有様には真実味があった。

    それでも一番面白かったのは『裸の王様』かもしれない。

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    投稿日:2024.04.02

  • 海外おやじ

    海外おやじ

    このレビューはネタバレを含みます

    過去にも読みましたが、実に20-30年ぶりくらいの再読。

    いやあ、なかなかしびれました。

    本作、4編の短編から構成された作品群ですが、強烈に感じたのが、通底するシニシズムでありました。お金、権力、偽善への痛烈な批判のようなものを感じました。

    ・・・
    「パニック」では、若手公務員の視点で描かれます。

    自らの属する官僚組織に巣食う汚職や腐敗、権力を毛嫌いしまた見切りつつ、120年に一度起こる恐慌(ネズミの巨大繁殖とその後の農作物大被害)について声高に対策を上程します。新人の戯言として無視されるも、これを「想定の範囲内のもの」としてあえて看過。のちにネズミ恐慌が起こった時の「それ見たことか」感。

    この斜に構えた感が個人的には大分共感しました。まあ私は50歳手前で「それ見たことか」感出しながら仕事しているダメなおじさんですが笑。

    ・・・
    「裸の王様」もまた、シニシズムを湛えた、こども絵画教室主宰の「ぼく」の視点からの作品。

    やや理想主義ながら、こどもの絵をかく能力を「自由に」「制約なく」描かせることに腐心する主人公と、それを無意識に阻んでいる親や家庭環境、あるいは教育の現場。こどもに真正面から向き合わない親や教育現場を痛烈に批判します。

    表面的な美徳に潜む腐臭、善意の顔をした商業主義のようなものを全力で揶揄しようとするかのような作品です。

    ・・・
    「巨人と玩具」で感じたのはむしろ徒労感、でしょうか。

    レッドオーシャンにあえぐ菓子メーカーのキャラメル部門をめぐる話。競合三社があの手この手でシェアを増やそうと努力しつつという中で、「私」が見た宣伝部でのイメージキャラクタの選定や景品の選定などをめぐる話。社会派の作品でありながら、すさんだ競争社会を揶揄しているような作品でもありました。

    ある意味この昭和の営業現場の熱気は、今でいうベトナムやインドなどの熱気などに似ているかなあと感じました。徒労感という意味では、私が勤めていた証券会社での終わりのない営業ノルマを想起しました。

    ・・・
    「流亡記」は中国は秦の始皇帝が始めた万里の長城構築をモチーフにした、用役人夫の視点からの作品。

    人夫が用役に駆り出される前から物語は始まりますが、最終的にはこの人夫の達観がこれまた徒労感を呼び起こします。駆り出されたことは不幸といえば不幸。でもこれを駆り出す役人も、規定の人員を規定の日付まで送り届けなれば死刑。つまり管理する側される側は同じ土俵で死と向かい合う。人夫は将来の反乱も予想するも、長城の建設・辺境での戦い、王位に就くものの横暴等は続いていくものとの達観を得ます。

    単調さの中に物語は終えますが、シニシズムが光る一作。

    ・・・
    その他、全編にわたりとても密度の濃い書きぶりも気になりました。流麗な比喩や美辞とでもいおう表現が多数使用されています。

    とてもライトな書きぶりとは言えないのですが、密度の濃い文章は味わい深い読み口であったと思います。

    ・・・
    ということで開高氏の初期作品の再読でした。

    本棚整理のための再読ですが、これは取っておくかどうか迷うところです。斜に構えた感じがとても私のツボでありました。他の作品も読みたくなりました。

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    投稿日:2024.03.30

  • yoichiokayama

    yoichiokayama

    大繁殖したネズミの大群が、突如街に大恐慌を引き起こす「パニック」。
    大人たちの虚栄に満ちた中で、封じ込められている幼い魂のの救出を描く芥川賞受賞作「裸の王様」。
    「巨人と玩具」と「流亡記」も収録。
    高健の作品を読むのは初めてです。
    丁度私が生まれたころの作品です。
    明治時代の文学を読むと、古すぎで逆に実感が湧かないのですが、戦後の文学は私の記憶の中にある情景が思いおこされ、逆に古さを感じます。
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    投稿日:2024.01.14

  • tosyokan175

    tosyokan175

    開高健、大発見。こんなに面白かったとは…。現在、神奈川近代文学館で行われている企画展「『おまけ』と『ふろく』展 子どもの夢の小宇宙」でグリコのおまけに人生を賭けた男、宮本順三が紹介されていて、そこで開高健の「巨人と玩具」がお菓子のマーケティングを舞台にした小説として触れられていました。これは!と思い探したのが、この新潮文庫でした。もちろん、文豪としてお酒のCMに出たり、週刊誌で若者の人生相談を受け止めたり、アラスカへの釣り旅の写真集とかで大活躍している時代を知っていて、しかも彼は洋酒メーカーのコピーライターであったことも知っていましたが、でも彼の小説、ちゃんと読んだかな?というぐらいの作家でした。「巨人と玩具」の消費社会への眼差し、あるいは「パニック」の官僚制度への距離感、芥川賞受賞作である「裸の王様」の教育の閉塞感…そのどれもがメチャ今っぽいテーマだと思いました。コロナ禍によって小松左京の「復活の日」やカフカの「ペスト」の先見性が注目を集めましたが「パニック」もまさに先駆けるパンデミック文学です。いや、予言性というより人間の本質は変わらないってことなのかもしれません。その普遍性がテーマになっているように思えるのが「流亡記」。でも実は今回の読書、大発見じゃなく再発見なのでした。「裸の王様」、高校時代に読んでいたこと薄っすら思い出しました。あの時、気づけず、今、刺さるってことは、社会や時代に翻弄されないと、感じることの出来ない感情がテーマだからなのかな?この作家がデビュー作で立ち向かったこの巨大なるものはのちに「オーパ!」や「ベトナム戦記」に繋がり「風に訊け」に至るということである日突然メディアの文学スターになった訳じゃなくて、ずっと一貫していたのかもしれません。続きを読む

    投稿日:2023.09.11

  • りゅうちゃん

    りゅうちゃん

    ササがいっせいに花を開いて実を結んだ。120年ぶりのことであるの翌年 ネズミが大繁殖して山の樹は丸裸になり、街にもねずみたちが餌を求めて襲いはじめる。1人の役人が危機を予測したが、右往左往する人間。パニックに陥る人間供。ネズミの大群はどこへ向かうのか。ネズミの起こすパニックと並行的に人間社会の閉鎖性や身勝手さ を描く「パニック」.幼い小学生の心を絵を通して開かせようとする「裸の王様」キャラメルを販売するためあらゆる手段を用いて争う企業に勤める人間の心理や内面を描いた「巨人と玩具」秦の始皇帝の万里の長城の意味を問う「流亡記」。なかでは、「パニック」がエネルギーを感じて良かった。2023年6月24日読了。続きを読む

    投稿日:2023.06.24

  • cc

    cc

    ■パニック
    課長の仕草に対する嫌悪感が生々しい
    笹が120年に1度実をつけるという事実が気になりすぎてそっちに気持ちがいってしまった、読んでる途中で調べたりして‥
    仕事のこと、なかなかつらい
    臭いものに蓋をしてく偉い人、しかし解明できないネズミの入水行動、結局一生懸命やったってやらなくったってという虚しさというか人間の小ささ
    結局偉い人たちはこういうこと経験で慣れてるんだなと、おさまるところにはおさまってくのさってのもなんだか虚しかった

    ■巨人と玩具

    ■裸の王様

    ■流亡記
    途中までで未読

    3編読んで、皮肉が多く、意地が悪い文章を書かれる方だなと思った、ひねくれていて自己顕示欲強めな印象
    読み続けてたら性格悪くなりそ(笑)

    かなり古い作品だけど時代を感じさせず、最近の作品のように読めてしまったのがすごい
    続きを読む

    投稿日:2023.05.29

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