【感想】金魚鉢の夏

樋口有介 / 新潮社
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
5
3
13
5
0

ブクログレビュー

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  • ayustat

    ayustat

    社会福祉の大胆な切り捨てで経済大国に返り咲いた近未来の日本。警察の経費削減で捜査を委託された元刑事の幸祐は、夏休み中の孫娘・愛芽と共に、老婆の死亡事件が起こった山奥の福祉施設を訪れる。単なる事故死で片づけるはずが、クセのある施設の人々と接するうちに幸祐の刑事根性が疼きだして…ノスタルジックな夏休みの情景に棄てられた人々の哀しみが滲む傑作ミステリ。続きを読む

    投稿日:2024.04.22

  • wake

    wake

    荒唐無稽とも言い切れない近未来の日本のド田舎が舞台設定のスモールタウンミステリ。勿論ミステリの筋も一級品なのだが、樋口氏の絶妙な会話の妙が堪能できる。幸祐と夜宵、幸祐と愛芽、由希也と蛍子、の関係性を本線に、幸祐が捜査していくうちに明らかになっていく驚くべき事実を伏線に、人生の意味や社会の矛盾を鋭く描きつつ、全体的には軽妙さを忘れない表現で、幸せな読後感を与えてもらった。幸祐の夜宵への淡い恋心が切なさも感じさせてくれる。続きを読む

    投稿日:2021.01.16

  • もるがな

    もるがな

    このレビューはネタバレを含みます

    生活保護が廃止された近未来。「希望の家」という低所得者の収容施設で起きた殺人事件を巡る物語。まずその、生活保護が廃止された社会という世界観が独特で、事件以上に目を引いてしまう。ここにあるのは格差社会のリアルさではなく、昨今の世論の息詰まるような閉塞感から感じる「そうなってもおかしくない」というリアリティのほうが強い。かなり悪夢的な世界観で、事件より設定のほうの異質さを感じる作品だった。反面、事件そのものは大したことはなく、ありふれたつまらない殺人事件ではあるのだが、それが逆に異様さを伴っているのが空恐ろしく、返って非常に不気味に映った。異常な社会の中での普通の殺人は文字通り黙殺され、探偵役の初老の刑事やその周囲も、適当に済ませ穏便に片付くことを望んでいる。そこに倫理観や正義感はなく、その命の軽さが異常な社会と相まって一層不気味に感じるのだ。殺人事件の扱いがそのまま作品の舞台設定の世相を反映しており、命の価値や値段などに優劣が付いているというのがミソで、あえて主人公側を単純な正義の人間にしていない辺りに、隠されたリアリティがあるのだろう。異常な社会で暮らせば、価値観は揺らぎ、それを貫こうにも、貧困から漂う諦観が作品全体を包んでいる。単純な施設の隠蔽というわけでもなく、ありがちな個人のエゴや保身による隠蔽ではなく、都合の悪いことを押し包む個人では対抗できないシステムの指示、つまるところは世間からの要請が隠蔽の背景にあるというのは非常に恐ろしい。読後感はやや人を選ぶものの、風刺的ではあるが教訓や警句めいたものは無いので、そのあたりの作者のバランスの匙加減を楽しめるか否かでこの作品の評価は変わるだろう。個人的には、貧困は同情や正義感、倫理観ではなく、無情なまでのリアリズムと、単なる善悪の二項対立では計れない闇の深さを感じるので、その部分を丁寧に描いたこの作品には好感を持てます。加えて作者特有の「身振り」の描写が非常に上手く、風景描写も相まって、非常に文章力は高く感じる。各登場人物の台詞回しなどもウィットに富んでおり、冗長ながらも流れるように読めた。ミステリとしては真犯人の断罪がないのは非常に判断に迷うものの、罪の適用範囲や社会そのものが狂っている状況では真相やその罰に価値があるかという根幹的なことまで考えてしまう。ひそかに行方不明の女児のミスリードなどは上手く、そこは引っかかってしまった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2019.05.27

  • かりょう

    かりょう

    不思議 不思議な感覚の本
    今の時代から ありえそうな仮定のミステリー
    善人 普通の人 犯罪者 社会不適合者
    区別をして社会を構築する
    面白かったんだけど
    感動とは違う 何かを感じた

    投稿日:2019.01.20

  • leva2lla

    leva2lla

    このレビューはネタバレを含みます

    樋口センセの作品を上梓順に読んでるわけでは無いし気にしても居なかったから今作に触れるのがたまたま2018年の終わりになったワケなんだけど。
    しかし今作で描かれる作品背景がフィクションなんだけど妙に生々しく感じてしまう世界情勢との符号か。
    創作だと絵空事だと捨てるのも簡単だけど、少しでも針が振れたら今作のような日本もあり得るのではないかなー…というあたりが巧みなのかそれとも自分の政治信条と近しいのか。

    自分が触れてきた樋口センセの作品にしては、推理役が真面目に推理しているなぁ…という。
    そりゃ「元刑事」なら当然でもありますか。
    刑事ってのは元が付こうが、作品の中では勘が働いて不整合や不条理が気にくわないものなんですよね。

    センセらしい「考えが多い」未熟な男子も登場するのですが、主に引っ張るのはその老いた元刑事ってのも自分には新鮮でしたなあ。
    さらに幾つかの事実が交錯しながら積み上がって、結局のところ誰ひとりとして「全体」の姿には辿り着けてないというのも面白い。
    真実を知っているのが読者だけという。
    舞台劇なんかにしたら面白いんじゃないですかね。

    それでも、小狡いことをしたヤツには罰が下っているし、主人公サイドはベストじゃ無くてもベターな幕引きを向かえているので、こういうのは自分には合ってますね。
    少しだけ苦かったり酸っぱかったりするのが樋口有介センセの作品って感じがして。


    …作品の感想とはズレるけど、所長の山本夜宵。
    幾花にいろセンセの絵柄でキャラ像つかんでたわー。「演色」の大高さんあたりの。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2018.12.09

  • lighthappy

    lighthappy

    予算削減を名目に社会福祉や刑事罰などで、大胆な改革が行われた日本の近未来が舞台。元刑事で捜査を依頼された一之瀬は、生活保護廃止に伴い設置された「希望の家」での死亡事故を調査する。すると次々と犯罪が明らかになっていき・・・
    社会改革、恋愛、領土問題、経済問題など、風呂敷を広げすぎの感も。なんとなくすっきりしないまま読了。
    続きを読む

    投稿日:2018.10.17

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