【感想】幸福のつくりかた

橋爪大三郎 / ポット出版
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  • cafemetropolis

    cafemetropolis

    世界は学のある学者を待っている!

    学者は現実を知らない、という批判を良く聞く。本だけ読んでいても世の中はわからない。現場感覚が必要だ。一見もっともらしい。テレビなどにも、実務家転じての評論家、大学教授などが大賑わいだ。でも本当か。テレビの学者のほとんどは学者だから学があるいう世の誤解をいいことに俗論をふりまわしている。

    世間知らずで学者が責められるべきか。

    学者が批判されるべきは、その学問の皮相さによってだ。現場に精通していて、わかりやすい言葉で学生というオーディエンスに講義ができるからという理由で、学の無い新聞記者が国立大学の教授などに抜擢されるようになっている。新聞記者にうらみがあるのではない。学の無さにうらみがある。新聞記者の俗論で学生集めをするよりは、学のある外国人に門戸を開くのが先だ。

    学生の頃に、「ソビエト帝国の崩壊」というベストセラーで世間に注目される前の、小室直樹に、解析概論やミクロ経済学を教わった。場所は本郷、東大のキャンパスを(ほぼ無断で)借りて、さまざまな大学の学生が集まり高木貞治、ヒックス、サミュエルソンとふらふらになりながら勉強した。当時、日本でもっとも高学歴で、しかも学力の高いプータローだった小室直樹は、かすれた少々甲高い声で、極めて明晰に、ミクロ経済学とマクロ経済学のかんどころを教えた。以来小室はぼくの師匠だ。卒業して以降、直接に会う機会はないが、彼の著作を通じて、常にぼくの知的な部分は揺さぶられている。その頃、小室ゼミの代貸し的存在だったのが社会学者の橋爪大三郎だ。当時、東大の社会学の博士課程に在籍していた彼は、板前さんのような髪型で、毎日、Tシャツとジーパンにビーチサンダルという格好ながら、当時翻訳されていなかったレヴィ・ストロースの私家訳や、青ズリで出版される記号論関係の論文に代表される知的な鋭敏さの故に、他を圧する存在感を示していた。こわもてではなく、穏やかな人だったが、おだやかなヤクザが一番怖いという感じだった。懐にのんでいたのは、ドスじゃなくて社会科学という格闘技術だった。

    「一番大事なのは、これからの時代、普通の日本語で、すべての問題を考えることだと私は思っています。フランスあたりから借りてきた、こなれない言葉じゃなくて、大多数の普通の日本人が普通にわかる、普通の言葉でものを考えて、それを発表する。討論する。こういうことがとても大切だと私は思います。いままではそれをやってこなかった。つい、横文字を、片仮名にしてごまかす。それでも困ったら、漢字でごまかす。こういうごまかしをプロはやってきたんですね。そうじゃなくて、手持ちの材料を全部明らかにして、これだけのことを考えましたと、一般の聴衆やほかの思想家と討論する。こういう習慣をつくっていかないと、言葉が国民の共有財産になっていかないと思います。 そして、言葉どおりに行動する。これが一番大事なことです。」


    プロの将棋指しを目指す奨励会の会員の若者達のように、学問するということ以外のすべてを徹底的に排除していたビーチサンダルの橋爪大三郎は、その目指すものの大きさと、その努力のすさまじさで、アカデミズムの門外漢だったぼくにも大きな影響を与え、いまだにその著作を通じて、ぼくを叱咤してくれている。この本は、知の王将に近づいている橋爪が平易な言葉で、総合的な社会科学の技を、日本の教育、政治、民主主義、個人の幸福などに適用する、手筋や定石をぼくたちに教えてくれる、稀有な入門書だ。

    ぼくらに必要なのは、本当に学のある学者であり、本当に学のある学者の発言は、極めて現実的で、高度に実践的なのだ
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    投稿日:2011.02.21

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