【感想】アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界

堂目卓生 / 中公新書
(74件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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ブクログレビュー

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  • キじばと。。

    キじばと。。

    アダム・スミスの二つの主著である『道徳感情論』と『国富論』の内容を紹介し、彼の倫理学と経済学のつながりについて解説している本です。

    自由放任主義というイメージをいだかれることの多いスミスですが、『道徳感情論』において展開されている彼の倫理学では、人間と社会についてのリアリスティックであるとともに人間性についての深い信頼にもとづく議論がおこなわれています。とりわけ、人間には他者に対して同感をいだく存在であり、それにもとづいて公平な観察者をみずからのうちに設定することが、人びとの公正な判断を可能にしていることが解説されています。

    つづいて、こうしたスミスの倫理学上の考えかたの上に立って、『国富論』に展開される彼の経済思想の内容が検討されています。そのうえで、農業・製造業・外国貿易という順番で経済発展がなされることがもっとも自然だとするスミスの考えと、じっさいのヨーロッパの歴史においてこの順序が逆転されるという事態が生じたためにさまざまな問題が生じたという彼の時代診断が説明されます。さらに、漸進的な問題の解決を説くスミスの現実主義者としての側面と、喫緊の課題とみなされていたアメリカ植民地問題に対する彼の意見についても触れられています。
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    投稿日:2024.04.06

  • 鴨田

    鴨田

    高名な『国富論』を文庫で読んでみようかなと思ったら、思いの外分厚かったので、解説本の方を読んでみた。

    『道徳感情論』の方は、1759年、『国富論』は1776年(アメリカ独立宣言の年!)の発刊。

    著は毛色の違うテーマだが、「秩序と繁栄」を重んじる点で一貫している。

    コテコテの自由主義者と思っていたが、自由競争が善となるには、「フェアプレイ」の精神が必要条件で、その道徳の大事さを国富論の17年前に説いている点がミソだ。

    有名な「見えざる手」(invisible hand)は、分厚い著作の中でたった一度だけしか出てこないフレーズだそうだが、キャッチーなので、ここまで広まったのだろう。

    アメリカ独立戦争前に、イギリスは自発的に植民地を放棄するべきで、それが(一部の特権的立場の商人を除き)みんなのためになる、と説いた、圧倒的に先見的な世界観に頭が下がる。
    太平洋戦争中に、石橋湛山(ジャーナリスト、戦後短命首相)が同じようなことを言ったが、その150年以上前から、経済学者の草分けが論理的にそれが最善だと説いているのが感慨深い。人間の進歩の足は早いようで遅く、悲劇的な結末を経ずには学べないこともある、ということか。

    “グレート・ブリテンは自発的に植民地に対するすべての権限を放棄すべきであり、植民地が自分たち自身の為政者を選び、自分たち自身の法律を制定し、自分たちでが適切と考える通りに和戦を決めるのを放任すべきだと提案することは、これまで世界のどの国にとっても採用されたことのない、また今後も決して採用されることがない方策を提案することになるだろう。”
    (四篇七章三節)

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    投稿日:2023.08.26

  • gakudaiprof

    gakudaiprof

    武器としての哲学の推薦本である。道徳感情論と国富論を読まずに理解させる気にさせる。当時のイギリスのアメリカへの植民地政策が大きな影響を与えているという説明がある。さらに、当時のイギリスの重商政策がわかりやすく説明されている。国富論の説明が短い章でどんどん行われているのが特徴である。続きを読む

    投稿日:2023.07.06

  • asuka

    asuka

    アダムスミスが言いたかったことのイメージの大枠がつかめたので、「道徳感情論」を読む前に目を通しておいてよかったです。

    一方で、「道徳感情論」は、アダムスミスの繰り言で、どんな仕組みで道徳感情たるものが出来上がっているのかを説いている本でしたが、この堂目先生の解説は道徳感情はどうあるべきかを書いているように解説してあって、そこは残念ポイントでした。続きを読む

    投稿日:2023.06.18

  • のじょー

    のじょー

    道徳感情論の話はなかなか面白かった。道徳を持った上で経済活動をすると幸福になれる????かも

    その行動が他人に対してどんな影響を与えるのか、もう1人の自分(公平な観察者)で判断する。

    インタラクションが誤解を解く(これは対外的な問題であり、身の回りの人と関わることもそうだし、海外の人と関わることも同じようなもんだろう)続きを読む

    投稿日:2023.03.23

  • みつひろ

    みつひろ

     アダム・スミスというと『国富論』という書物の名前とともに歴史の時代に覚えさせられた。市場に見は「見えざる手」があり、それに任せればうまくいくという市場自由主義の提唱者のように覚えていた。本書はそれが少し間違っているかもしれないと思わせる内容である。
     『道徳感情論』については殆ど知らなかった。人には他人から同感され称賛されたいという思いがあり、それが不道徳なことを不正を退け、また周囲から認められる方法として富を獲得しようとするのだという。胸中にある公平な観察者、つまり道徳心のようなものを人は成長とともに獲得し、現実社会と比較する。賢人は独特的に生き、必要以上の富を求めないが、その他の人間はついより多くの富を求めてしまうというのだ。結果的にこの非賢人たちが経済を発展させていったのだという。
     スミスの考えの奥には人間は同感し、されたい生き元であるという極めて道徳的な考えがある。単なる市場信奉者ではないのだ。それは彼が生きたイギリスにとって不本意な時代の影響を受けているといえる。
     日本の現状は経済学的に行き詰まっているとよく言われる。このときに議論されるのは常に国際競争力であり、勝つか負けるかの考えである。スミスの考えていたことはもう少しスケールが大きかったようだ。この視点を持てば少し違った考えも浮かぶかもしれない。
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    投稿日:2022.08.27

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