あとより恋の責めくれば 御家人大田南畝

竹田真砂子 / 集英社文庫
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  • 田中綾

    田中綾

    をやまんとすれども雨の足しげく又もふみこむ恋のぬかるみ
      大田南畝

     大田南畝【なんぽ】は、狂歌作者「蜀山人」として知られる江戸時代の幕臣。学才豊かで、幕府の登用試験「学問吟味」で首席合格した人物でもある。そんな彼が、吉原の女性を身請けし、自宅の敷地内に妻子とともに住まわせていた―その風評に、作家竹田真砂子は異議を申し立てた。
     確かに、三保崎という遊女を身請けしたことは史実だが、それには訳があった。彼女の亡父は南畝よりも身分の高い武士だったが、不運の重なりの果て、遊女となったのだ。病に冒された彼女を案じ、せめて最期は安らかにとの配慮で寺の一室を提供した、という新説が披露されている。
     三保崎は、「昔も今も、いい思いをしたことなど一度もない」ような地味さ。南畝の妻は、「他人にはいえない屈託をたくさん抱え」たような顔つきで、両者ともどこか陰がある。女性個々人に、それぞれの事情と感情があることが、丁寧に描かれている。また、当時家事労働にどれほど多くの時間が割かれていたか、とくに内風呂の掃除の記述にはリアリティーがある。
     テーマの一つは、終末医療。三保崎の限りある生をいかに静かに、かつ充実した時間にしてあげられるか。他人ではあっても、ゆかりのできた女性をおろそかにしない南畝の誠実さがうかがえる。
     もう一つのテーマは、純粋な恋。掲出歌の「をやむ」は「小止む」で、少しやんだと思った雨脚がまた激しくなり、「恋のぬかるみ」に踏み込んでしまうという歌意。踏み込んでも溺れはしないのが、真の恋。

    (2013年5月19日掲載)
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    投稿日:2013.05.19

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