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松下竜一 / 講談社文庫 (1件のレビュー)
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おはなぼう
大杉栄&伊藤野枝の四女、ルイズの半生記。 著者の松下竜一さんは、やはりいい。文章にてらいがなく、真摯な人柄が伝わってくる。 文献やインタビューをもとに、どうしたらこんなに丁寧で細かく、臨場感あふれるル…ポが書けるんだろう。取材ノートが見てみたい。 関東大震災後の混乱に乗じ、大杉と野枝が甥の橘宗一少年とともに憲兵隊によって殺された時、ルイズはまだ1歳3ヶ月だった。 戦中は「主義者の子」「非国民の子」、そして戦後は一変して「悲運なる革命家の子」として、つねに刺すような視線にさらされ、自分のアイデンティティはどこにあるのかともがきながら生きてきた姿が描かれている。 それでもルイズは四女だった分、まだ良かったのかもしれない。 長女で、良くも悪くも「サラブレッド」として育てられた魔子の変節は、さらに痛いものがある。 大杉や野枝の豪胆な人柄や魅力は有名で、私も若い頃はちょっと憧れた時期があった。 かっこいいではないか。 「美はただ乱調にある。階調は偽りである。真はただ乱調にある」とか。 「思想に自由あれ。しかしまた行為にも自由あれ。そしてさらにはまた動機にも自由あれ」とか。 けれど今はルイズや、野枝の母・ウメの生き方のほうに心魅かれる。 娘を殺された後、幼い遺児たちを引き取って育てたウメは、1字も読み書きができなかったという。 ルイズたちを「野枝のようにならないように」と育てながらも、折々で「あんたたちのおとうさんおかあさんは偉か人やったとよ」と大杉全集を眺める姿に胸が詰まる。 中でも、「人の一生には血の涙の出るようなことが、一度や二度はある。そんなとき、この辛抱は自分じゃないとしきらんと思わんと、辛抱はできんたい」という言葉の重いこと…。 それにしても気になるのが、大杉たちはどのようにして殺されたのか、である。 本書でも、いたるところで大杉・野枝の魅力を感じることができるのだが、彼らの魅力が引き立てば引き立つほど、虐殺の現場がどのようなものだったのかが気になってしまうのだ。 その日、彼らがどのようにして連行されたのかを想像してみる。 そもそも、二人には日常的に尾行がつき、その尾行を巻いて楽しんだり、娘の迎えに行かせたりするような関係だったのである。 当時の大物を見ていると、大杉たちのような左の人間も、頭山満のような右の人間も、人間的な器の大きさ、豪放磊落さは共通しているように見えるが、それが祟ったということか。 ボコボコに殴られて、遺体は古井戸に投げ込まれていたということは事実のようだ。 では、二人は同じ場で殺されたのか? どちらが先に? 相手の死にゆく様を見させられたのか? どのような言葉でなじられたのか? 何といっても時代の寵児だ。公然と恋に燃え、思想に燃えた二人だ。 殺しに節度などあるものではないが、そんな二人だからこそ虐殺の現場はきっと、それはそれは無残で、惨めで、恐ろしいものだったにちがいない。 いや。 やめよう。 これ以上変な想像をするのは。 胎教によくない。 やめよう。続きを読む
投稿日:2013.10.25
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