【感想】悪役レスラーは笑う

森達也 / 岩波新書
(13件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
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ブクログレビュー

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  • たまどん

    たまどん

    森達也という人が「ナショナリズムについての問題提起」を錦の御旗に、すでに物故者のグレート東郷の出生に執拗に迫る姿勢自体に、何か違和感が生じた。
    -つまり、本人が表に出そうとしなかった出自の“秘密”を暴(あば)くことを許していいのか?という疑問だ。

    ここで簡単に東郷の背景に触れておく。東郷は当初アメリカ生まれの日系二世のプロレスラーと思われていたが、実は母親が中国系だったのでは?という説が著者の目に留まる。日米中の3つの国が絡み合う出生が、戦中と戦後を生きた東郷にその出自を“あえて”隠させざるを得ない複雑な事情が潜んでいたのではないか?そして、それを探ることが「在日」を取り巻く差別やカミングアウトの問題に迫れるのではないか?というのが著者の思惑といったところだろう。

    実際、戦後日本社会で英雄視された力道山が、その一生において、朝鮮半島出身の在日一世であることを頑なに隠そうとしていたのは周知の事実。力道山の一生を掘り下げることで在日韓国朝鮮人問題からあぶり出されるナショナリズムの複雑な姿に焦点を当てられたのと同様に、グレート東郷からもそれらの問題を見いだそうと著者が考えたのは、一見、理屈が立つように見えるかもしれない。

    しかし、力道山の出自問題に最も注目が集まった時代と今とでは、個人の尊厳や「秘密にする自由」についての考え方はまったく異なる。
    そもそも前提として、森達也はグレート東郷やその遺族から、出自を公にすることについて一切承諾を受けていないのである。
    これは公職にあった橋下徹氏について、その親族が同和地区出身者だと週刊誌で暴いた事案と同様に、何か極めていやな気分にさせられる。それと特にたちが悪いと思えるのは、書く当人が「正義のため」だと思い込み、まったく悪いという意識がなく、それを指摘すると大概は「どこが悪いの?」と自己弁護に走るところにある。

    言わずもがなだが、暴くの「暴」の字は、暴力の「暴」と同じだ。こういう自称「ナショナリズムについての問題提起」ジャーナリストがいまだに正義感を振りかざしてのさばっていることに驚く。
    グレート東郷は鬼籍に入っているので、本人に出自を公にしていいかを確認することはもちろんできないし、本書の記述によると、著者の努力にもかかわらず遺族に接触することができなかったという。だったらこんな本はグレート東郷にとって「大きなお世話」だし、承諾を得られなければ出版を取りやめる“勇気”こそ、ジャーナリストが当然持つべきものなのではないか?
    私がさらに腹に据えかねるのは、著者が東郷の出自を暴こうとすることについて、プロレス全体が有する「ギミック」感をにおわせていることだ。つまり覆面レスラーの例のように、レスラーの素性を知りたがるのはプロレスファンとして必然であるかのような言いぶり
    …へどが出そうになった。
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    投稿日:2020.12.27

  • hito-koto

    hito-koto

    ドキュメンタリー作家森達也氏の「悪役レスラーは笑う」、岩波新書、2005.11発行です。1911年生まれ、1973年没のグレート東郷を描きながら日本のプロレス界を一望した秀作だと思います。アメリカでは卑劣なジャップ、日本では売国奴、守銭奴などと呼ばれたグレート東郷ですが、力道山は東郷の悪口を一回も言わなかったそうです。力道山はノースコリア、東郷はサウスコリア、共にコリア出身の二人が日本のプロレスの礎をつくり、そのファイトに日本国民は熱狂し、自信と誇りを取り戻した。誰も気づかなかった哀しい国威発揚と。続きを読む

    投稿日:2017.02.19

  • NozomuNamba

    NozomuNamba

    『悪役レスラーは笑う(森達也)』。
    戦後日米で活躍し、圧倒的に嫌われたヒールレスラー、グレート東郷の生涯を描いた一冊だ。
    リングの内外で非常に評判の悪かった東郷だが、国民的英雄でもあった力道山からは大変敬われていたという。
    それは何故か――。というのがこの本の大きな縦軸となっている。ぼく自身は、これまでプロレスにはあまり興味を持ってこなかったので、グレート東郷といっても名前を聞いたことがあるような気がするくらいだ。もしかしたらそれはグレートカブキだったかもしれないし、グレート草津だったかもしれない。義太夫ではないのは確かだが。

    戦後、テレビのプロレス中継は野球と相撲と並ぶ一大人気コンテンツだった。14インチの街頭テレビに2万人が集まったこともあるという。本書ではそんな戦後プロレス史の変遷にも触れている。グレート東郷についての謎は、知る人があまりに少なく、東郷の内面には迫ることなく終わってしまったのは少し残念だ。東郷については出自さえも定かではないらしい。
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    投稿日:2016.04.25

  • pfuiboy

    pfuiboy

    岩波新書がプロレスを扱うというのは意外だったが、『悪役レスラーは笑う』は何か面白そうだぞという期待はあった。刊行と同時に購入していたにもかかわらず、読まずにいた。しかし最近の打ち続く雨のために電車通勤を余儀なくされ、それを機に読み始めた。いやあ、まいった。これは会心のドキュメンタリーではないか!  グレート東郷の出自をめぐって、やれ中国系だいや韓国だと、情報は錯綜する。日本のプロレス界の実は立役者でありながら、その男の生年も出自もなぞに満ちているなんて、なんと言うか、おおらかな時代だったんだと思う。今ではありえないことではないか。それはまさに、筆者の言うとおり、あいまいな領域を残すプロレスに似て、一種のロマンともなりうるわけだ。 筆者の森達也のていねいで執拗な取材も好感が持てる。 読んでいる途中で気づいたのだが、森達也は自主制作映画『A』『A2』をつくった人ではないか! 偶然いがいの何ものでもないが、僕はこの映画を数日前に見たばっかりだったのだ。これらのドキュメンタリー映画についてはいろいろ語りたいことは多いのだが、たしかに森達也という人の人間を見つめる眼には何か共通するこだわりを感じる。それは何だろう。「自分なりに理解したい・自分なりに把握したい・自分なりに納得したい」こう思うことは良くあるが、あきらめようとするときの自己納得にも似たようなその感覚・・・とでも言おうか。ともかく、この本はまぎれもなくおもしろい。テレビ放送黎明期のプロレスの位置づけについてもイメージが湧いた。森達也は注目だ。続きを読む

    投稿日:2013.05.27

  • raptorrex

    raptorrex

    グレート東郷という存在は、日本プロレス史に欠くことのできない存在。力道山が東郷と組まなければ、外人選手の招聘は力道山の限られたコネクションに頼らざるを得ず、日本プロレスという組織が存続できたかどうか怪しいと思う。続きを読む

    投稿日:2012.09.21

  • tagutti

    tagutti

    このレビューはネタバレを含みます

    ≪目次≫
    プロローグ
    第1章  虚と実の伝説
    第2章  伝説に隠された<謎>
    第3章  笑う悪役レスラー
    あとがき

    ≪内容≫
    日本のプロレスの創生期に活動していた「日系レスラー」グレート東郷の
    ノンフィクション。何かしっくりこない結論(出自は結局わからない)だが、
    プロレス界の様子や戦後すぐの時期の社会の様子などが垣間見えて意外と面白かった。

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    投稿日:2012.06.09

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