R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)
安部公房(著)
/新潮文庫
作品情報
会社を首にされ、生きたまま自分の「死体」を売ってロボットにされてしまった機械技師が、人間を酷使する機械を発明して人間に復讐する「R62号の発明」、冬眠器の故障で80万年後に目を覚ました男の行動を通して現代を諷刺した先駆的SF作品「鉛の卵」、ほか「変形の記録」「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」など、昭和30年前後の、思想的、方法的冒険にみちた作品12編を収録する。(解説・渡辺広士)
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商品情報
- シリーズ
- R62号の発明・鉛の卵(新潮文庫)
- 著者
- 安部公房
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 1974.08.27
- Reader Store発売日
- 2024.03.07
- ファイルサイズ
- 0.9MB
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この作品のレビュー
平均 4.0 (78件のレビュー)
-
「死んだ娘が歌った・・・・・」について
一文あらすじ
家が貧乏なために出稼ぎで上京した少女が、「自由意志」によって殺される話。
メモ
職場の上司から「自由にしてよい」と命じられ、出稼ぎ先…を首になった少女は、欲しくもない自由を手に絶望して自殺する。
近代以降の人間は、自由を万人が持つべき絶対不可侵の権利のごとく認識してきた。しかし、自由とは権利なのだろうか。自由とは、意図的な力が加わらない状態のことではなかったのだろうか。
自由を権利として定義づけ、あたかも義務かのように個人に課すこと、これは暴力にほかならない。これこそ、かつて自由を求めて闘った人々の共通の敵であったはずだ。金と力ある者が自由を牛耳る世界において、その逆の者がそれを謳歌できるはずもなく・・・少女は死んだ。
これは現代においても起こりえる、あるいは今まさに起きている悲劇の縮図であり、非常に諷刺の効いた作品であると思う。
「鏡と呼子」について
一文あらすじ
四六時中望遠鏡で村民を監視し、鏡と呼子をつかってあやしい動きをとる住民を告発する老姉弟の家に下宿した教師の話。
メモ
部外者である主人公が、ある奇妙な村に入り、その村の異常さを内面化して出られなくなってしまう物語。『砂の女』の筋とたいへんよく似ている。違いがあるとすれば、もちろん流れが同じなだけで細部はまったく異なるわけだが、諷刺している位相が異なるように思う。これももちろん明確なことではないが、あえて特徴を切り出すのであれば、『砂の女』が抽象的な問題を諷刺しているのに対し、『鏡と呼子』はより現実的な問題を諷刺しているのではないだろうかと思う。
『砂の女』の場合、読んだときにわたしがふと想ったのは、砂の村の住民の生活様式と雪国の住民のそれとが酷似しているということだった。「雪かきをしなければ住めない場所になぜ住むのか」と問うことは、(極端にいえば)「食べなければ生きられないのになぜ生きるのか」と問うようなもので、人間は毎日せっせと異常を積みあげているのかもしれない、なんてことを思った。
『鏡と呼子』の場合、現代の監視社会の発展に対する諷刺がはっきりと読みとれる。たとえば、望遠鏡はありとあらゆる場所に設置された監視カメラ、鏡と呼子は世界中にはりめぐらされた情報伝達システムの寓意と考えることができるし、そのなかで「問題がないことが問題」と語る村民たちは、監視社会のなかで得体の知れない不安を感じる現代人の寓意と考えることもできる。
この作品のなかでもっとも印象的だったのは、主人公の教師のスピーチと村にある道のコントラストだった。教師は次のようにいう。
「世の中には、いいこと、悪いことの、二つがあるように言われています。しかし、なにがいいことで、なにが悪いことか、はじめからはっきりとした区別があるわけではありません。(みんな、あわてるだろうな)道は
はじめから道だったのではなく、人が沢山そこを通るようになってから、はじめて道になるのです。だからどの道も、かならずうねうねと曲がっているのです。それは道をきめることのむつかしさを物語っています。(名
文句だが、どこかで読んだ気もするな)だから、諸君も歩きたいと思った方なら、道がなくても歩いていく勇気をもって下さい。やがて、そこが、本当の道になるのかもしれないのですから・・・・・」
本人のいうように、たしかにありきたりな感じもしなくはないが、悪くもないスピーチだ。しかし、この常識的な発言を嘲笑するかのように、村にはただひたすらにまっすぐな道が通っている。抗うことのできない、なにか大きな力が働く世界。安倍公房はこの作品で、監視社会に潜む問題点だけをあぶり出すだけでなく、社会的圧力と闘う人ひとりの無力さと、個人を支配せんと近づく無言の構造体の異常さをあらわにしたと思う。
引用
Kは大きな音をたてて、自分の喉を飲込んだ。巨大な三角形が、大きな口を開けてすぐ後ろにせまってきているように思われた。―304頁より続きを読む投稿日:2017.12.22
安部公房の短編集は読むのにすごくエネルギーがいる。長編小説であれば最初から最後までトップスピードというわけにはいかないので「遊び」がある。遊びとは、安部公房の世界から我々の住む、あるいは理解し得る世界…へ戻って来れる瞬間のことである。しかし短編小説では向こうの世界に入ったっきり、物語が終わるまで帰ってくることができない。読者が通訳だとして、通訳の話す時間を与えるために適宜話すのを止めてくれるスピーカーが長編小説、自分の言いたいことを最初から最後まで一気に自分の言語で話してしまうスピーカーが短編小説といったところである。後者の場合、通訳である読者である我々はとにかくスピーカーが話すことを全神経を集中して頭にしみ込ませていかなければならない。しかも日本語に直している時間はないので記号として脳内に蓄積していくのだ。そして最後の最後に通訳を開始するときには記号であるところの文脈の欠落から断片的にしか思い出せない、日本語に直した後ストーリーが再構成できない、、、と呆然としてしまうのだ。額に汗だけかきながら。
ピカソや岡本太郎の芸術作品は前衛的と言われる。国語辞典を引くと前衛的とは「時代に先駆けているさま」とある。しかし、「芸術」に対する社会通念を持ち合わせていない自分にとって、前衛的とは「わけが分からない」と同義だ。何が「わけが分からない」のか、ピカソや岡本太郎の絵を例に改めて考えてみると、生み出されたものから自分にとって有意な情報としてのメッセージを得ることができない、あるいはなぜそうでなければならなかったのかという背景なり作者の心情なりが理解できないということになると思う。しかし、前衛的なものがわけが分からないからといってまったくつまらないかというとそうでもない。前衛的な作品には前衛的ならしめる一歩進んだ何かがある。同じモチーフを使って絵画にしたとき、一般の作品であればおおよそ「芸術」と認識される範囲の中で作者の心情なりメッセージが付け加えられるところを、前衛的作品には「芸術」と認識される範囲を逸脱するという点においての「くずし」が入ってくる。この「くずし」の先にある作者の心情やメッセージが読み取れなくても、「モチーフをこんな風にくずすのか」という一点においても十分に感銘を受けることができる。同じく前衛的と評される安部公房の作品を楽しむ1つのヒントのようなものを本書で掴んだような気がする。
安部公房の小説で言えばモチーフとは小説の場の設定であり、最初の設定を出発点としてそこから世界がどんどん歪んで来る。あるいは歪んだ世界が最初から存在していて、その中にいる登場人物たちが歪んだ思考、発言、行動をする。この歪みが「くずし」の領域に達してしまっている。この場の設定と歪みの関係にバランスとセンスを感じたのが「鉛の卵」と「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」だ。続きを読む投稿日:2023.12.11
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