諸葛亮 <下>
宮城谷昌光(著)
/日本経済新聞出版
作品情報
ずいぶん『三国志』について書いてきた。だが、そこに登場するひとりを選んで、大きな構想に移植するのは、これが最初であり、最後となろう。そのひとりとは、諸葛亮以外に考えられなかった――(日本経済新聞連載開始にあたっての「作者の言葉」より)
大河小説『三国志』全12巻完結からはや10年。この「作者の言葉」に、宮城谷作品ファンのみならず、日本中の歴史小説愛好家が期待をふくらませているに違いない。
「三国志」にはあまたの個性的な名将、名臣が登場するが、日本で最も名を知られるのが諸葛亮(孔明)であろう。冒頭の「作者の言葉」はこう続いている。
――かれの人気は、おそらく劉備や関羽などをしのいでおり、たぶんどれほど時代がかわっても、最高でありつづけるにちがいない。通俗小説である『三国志演義』が、諸葛亮を万能人間、いわば超人にまつりあげてしまったせいでもあるが、そういう虚の部分ををいでも、多くの人々の憧憬になりうる人物である――
「三顧の礼」「水魚の交わり」「出師表」「泣いて馬謖を斬る」「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」といった名言・名句はそのままに、諸葛亮の実像に迫ろうとするこの作品の冒頭はこのように始まる。
――春を迎えて八歳になった。かれは景観から音楽を感じるという感性を備えている――
乱世に生きながら清新さ、誠実さを失わない、今まで見たことのない諸葛亮がここにいる。"
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商品情報
- シリーズ
- 諸葛亮 <下>
- 著者
- 宮城谷昌光
- 出版社
- 日経BP
- 掲載誌・レーベル
- 日本経済新聞出版
- 書籍発売日
- 2023.10.20
- Reader Store発売日
- 2023.10.20
- ファイルサイズ
- 1.1MB
- ページ数
- 324ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (7件のレビュー)
-
姓は諸葛、名は亮、字(あざな)は孔明。
読んでいて思いが溢れてきました。
三国志関連に書籍は久方ぶりに読みました。また、
宮城谷昌光さんの作品は初読みです。ちなみに読んでから知りましたが、本作品は日…経新聞の夕刊に連載されていたそうですね。
立ち寄った本屋で新刊書籍として陳列されており、妙に心動かされましたが、本屋さんには申し訳なくも(笑)、その場で買わずに図書館で予約して借りました。
諸葛亮孔明と言えば、私の中では歴代で10本いや5本の指に入るほど大好きな歴史上の偉人です。
小学生の頃に横山光輝三国志の全六十巻を古本屋で少しずつ買いためていったのは少年時代の良き思い出です。ワクワクしながら夢我夢中で読んでました。一冊買ってもすぐ読み終わり次巻が待ち遠しくてたまらなかった(笑)。
横山光輝先生のおかげで三国志にはまりまして、吉川英治三国志を読了。ご多分に漏れず三国志の各種テレビゲームにもはまりましたね。中学生の頃には陳舜臣作品「諸葛孔明」を読み課題だった読者感想文を書いたことも覚えています。ちなみに最近では向井理さん主演の「パリピ孔明」にもはまってしまいました。無茶苦茶面白かったです。
話が横道にそれましたが本題です。
本作は、孔明の出生から死亡までが淡々と描かれている小説です。小説というより伝記に近いかもしれません。脚色が入ったいわゆる三国志演義ではなく、通史としての三国志正史が意識されているのかもしれません。
おそらくこれが宮城谷スタイルなんでしょう。
なのでドラマチックな展開や感動ストーリーなどは出て来ません。例えば、「三顧の礼」、「泣いて馬謖を斬る」なんてのは三国志でも大変有名なエピソードですが詳細記述なくサラッと流れていきます。
血沸き肉踊る感を期待していると拍子抜けするかもしれませんが、演義で表現された孔明よりも本書の孔明のほうが彼の実像に近いのではないかといった感慨を抱きました。いかにも通好みの作品と言えます。
ラストシーンはかの有名な「死せる孔明生ける仲達を走らす」なわけですが、やはり劇的な展開はなくただ淡々と表現されあっさりとこの小説はエンディングを迎えるのでした。
最後に明治・大正・昭和の時代を生き島崎藤村と並び称された詩人、土井晩翠の詩で私が大好きな作品を紹介して終わりにしたいと思います。
星落つ秋風五丈原
土井 晩翠 作
一、祁山(ぎざん)悲愁の風更けて 陣雲暗し五丈原 令露(れいろ)の文は繁くして 草枯れ馬は肥ゆれども 蜀軍の旗光無く 鼓角(こかく)の音も今しづか 丞相病あつかりき 丞相病あつかりき
二、清渭(せいい)の流れ水やせて むせぶ非情の秋の声 夜や関山の風泣いて 暗に迷ふかかりがねは 令風霜の威もすごく 守る諸堂の垣の外 丞相病あつかりき 丞相病あつかりき
三、帳中眠かすかにて 短檠(たんけい)光薄ければこゝにも見ゆる秋の色 銀甲堅くよろへども 見よや侍衛の面かげに 無限の愁溢るゝを 丞相病あつかりき 丞相病あつかりき
四、風塵遠し三尺の 剣は光曇らねど 秋に傷めば松柏の 色もおのづとうつろふを 漢騎十万今更に 見るや故郷の夢いかに 丞相病あつかりき 丞相病あつかりき
五、夢寝に忘れぬ君王の いまはの御こと畏みて 心を焦し身をつくす 暴露のつとめ幾とせか 今落葉の雨の音 大樹ひとたび倒れなば 漢室の運はたいかに 丞相病あつかりき
六、四海の波瀾収まりて 民は苦み天は泣き いつかは見なん太平の 心のどけき春の夢 群雄立ちてことごとく 中原鹿を争ふも たれか王者の師を学ぶ 丞相病あつかりき
七、末は黄河の水濁る 三代の源遠くして 伊周の跡は今いづこ 道は衰へ文弊たおれ 管仲去りて九百年 楽毅滅びて四百年 誰か王者の治を思ふ 丞相病あつかりき続きを読む投稿日:2024.03.20
中国後漢〜三国時代。世は乱れ、群雄が割拠し覇を競っていた。
これは、群雄の1人、劉備に仕えて蜀漢建国に尽力し、三国鼎立実現の立役者となった諸葛亮の生涯を描いた伝記ロマン作品である。
なお下巻で…は、劉備の益州攻略の折り、本拠地の荊州を預かった 30 歳から、劉備の死後、北伐の途上にあって五丈原で病死する 54 歳までの諸葛亮が描かれる。
◇
劉璋の要請を受け益州入りした劉備は、教団五斗米道を率いる張魯を討つため漢中に向けて軍を進めている。ただし進軍速度はひどくゆっくりだ。なぜなら真の目的は漢中を制圧することではなく、劉璋から益州を奪うことにあるからだ。
ただ劉備は同族の劉璋を騙し討ちにすることには消極的で、なかなか反転して成都に攻め寄せる決断ができないでいた。
軍師として劉備に従う龐統は気が気でない。本来なら劉璋が劉備を招いて開いた宴席で、益州は劉備のものになっていたはずだった。なのに今、劉璋のいる成都は遠ざかり張魯の陣取る漢中に近づく一方だ。
意を決した龐統は劉備に策を献じた。策は上中下の3つある。
反転して成都を急襲するのが上策。現地点の近くの城を落として将を討ち兵を糾合してから成都に向かうのが中策。いったん州境まで退却して荊州から援軍を呼び、改めて成都に攻め上るのが下策。
中庸を好む劉備は中策を選んだのだったが……。(第1章「攻防」)全15章。
* * * * *
わかっていたとは言え、下巻の展開はやはり寂しかった。序盤は劉備が健在で、黄忠や馬超が臣下に加わり、多士済々の陣容に胸踊るのだけれど、櫛の歯が欠けるように重臣たちが死んでいく中盤以後は読むのがつらいほどでした。
諸葛亮と並ぶ軍師・龐統の死に始まり、関羽、張飛、黄忠という上級の将軍が不慮の死を遂げます。そして、呉に侵攻した劉備自身も返り討ちに遭い失意のまま息を引き取ると、もう蜀は斜陽の国。
さらに馬超が病死し、宿将の趙雲が亡くなったところで、蜀軍の屋台骨を支えた五虎将が姿を消しました。後に残るのは勇将ながら性格に問題のある魏延のみ。蜀の落日をかろうじて食い止めているのが諸葛亮ひとりという状況です。ああつらい。
それでも、本作を読んでよかったと思うのは、馬謖に対する認識が変わったことでした。
馬謖が南蛮征伐の折りに進言する「城を攻めるのではなく、心を攻めることが肝要だ」ということばは至言だし、諸葛亮に提示する種々の戦略も道理に合ったもので、演義で描かれるような小利口なだけの人間ではないことがわかります。
馬謖の街亭における失敗は大軍を率いた経験がなかったことが原因で、これは諸葛亮の起用ミスと言えるでしょう。
ただ、馬謖や姜維に段階的に経験を積ませながら教え導いていく時間が諸葛亮にはなかったということも、本作を読んでよくわかりました。
自身の命数を計りつつ、劉備を支え蜀に尽くした諸葛亮の実像。それは、帷幄のうちに謀を巡らし千里の外に勝敗を決するような権謀術数タイプの軍師ではなく、目標に向かって確実に駒を進めていくような堅実な政治家です。ゆえに時間が足りない。
思えば、龐統の戦死が痛かった。成都攻略で劉備が中策を選んだことが悔やまれます。
淡々と始まり、淡々と進み、淡々と終わった感はありますが、それでも好奇心を満足させてくれる良作でした。
エピローグに当たる部分で、500年後の蜀でのできごとが描かれます。
時代は唐。時の皇帝玄宗が、安禄山の変で長安を逐われ蜀に逃げ込みます。玄宗に付き従って成都に入った詩人の杜甫が、劉備と諸葛亮の事績を識って感動し、詩の冒頭にこう詠んだとあります。
「諸葛の大名 宇宙に垂る」と。
何か得した気分で本を閉じることができました。続きを読む投稿日:2024.04.02
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