あいまいな日本の私
大江健三郎(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.5 (28件のレビュー)
-
大江健三郎のいくつかの講演を集めた新書。
刊行は1995年、大江がひとまず、作家としての生活に区切りをつけようとしていた時期にあたる。60歳となるこの年、『燃え上がる緑の木』を最後に、小説を書く筆を折…り、スピノザ研究にその後の生涯をあてたいと考えていたのだ(実際のところ、翌年、1996年の武満徹の死を契機に、再度、小説に向っていくのだが)。
表題ともなっている本書冒頭の講演は、1994年のノーベル文学賞受賞記念講演のものである。
これと合わせ、1992年から1994年の間に行われた、9回の講演原稿が収録されている。
大まかには、文学論と、家族についてのものの2つに分けられる。
大江の長男、光は知的障害を持って生まれている。幼いころは言葉を発しなかったが、鳥の声をよく聞き分け、音感が優れていた。13歳のころから作曲をするようになり、CDも何枚かリリースされている。大江の作品とも深い関わりを持つ。
家族についての講演は、光との関わりを中心にしている。講演の1つは光の音楽の演奏会の際に行われたものである。
苦悩の時代もあったのだろうが、さまざまなことを乗り越えた円熟の感じられる基調である。時にはユーモアも漂う。
互いに理解しあえないこと、乗り越えられない壁を抱えつつ、それでもそこには思いやりがあり、愛情がある。
障害を持つ光は、普通の子供のようには話さなかった。鳥の声への興味から、音楽へと関心が向き、曲を作るようになる。それはある種、彼の「言葉」だったのかもしれない。その音楽を聴き、大江や妻は、息子の内面に思いを馳せる。
光は涙を流したことがないという。夢も見たことがないようだ。それはどういうことなのか。作家は思索する。
光はいくつか曲を作るうち、「暗い魂が泣き叫ぶ」ような曲も作る。
美しいもの、きれいなものだけを見ていられればそれは幸せではあるが、一方、魂の深いところに降り、暗い澱を見つけること、そしてそれを表現すること、それによって自分が癒されることも、あるいは幸せではあるまいか。その不幸と幸せとの重なり合いが芸術の深まりをもたらすのではないか。
息子を見つめる父のまなざしからは慈愛が滲み出る。
文学論では、日本文学と世界のつながりを見据える。
「あいまいな日本の私」は、大江の前にノーベル文学賞を受賞した川端康成の受賞記念講演「美しい日本の私」を受けている。
川端は日本の美しさをあいまいなものとして提示している。この場合のあいまいは英語ではvagueで、不明瞭で漠然としたものを指す。大江が言う「あいまいな日本の私」のあいまいはambiguousで両義性を指す。
日本の近代化は、西欧に倣う形で進んできた。しかし一方で、アジアに位置し、伝統文化を守り続けてもいる。戦後民主主義はアジアの侵略者としての過去を抱えながら不戦を誓っている。
そうした日本にあって、文学ができることとは何か。世界に対して閉じるのではなく、開かれたものにするにはどのような道があるのか。
井伏鱒二、安部公房、夏目漱石といった作家を論じつつ、大江は、日本文学はもっと外に語り掛けねばならぬと主張する。
一方で、大江の大学時代の師、渡辺一夫にも触れながら、「上品な(decent)」、「ユマニスト(humaniste)(フランス語で「人文主義者」)」としての貢献を目指したいとする。
大江が引くW.H.オーデンによる小説家の定義は、どこか祈りの言葉のようでもある。
正しい者たちのなかで正しく、
不浄の中で不浄に、
もしできるものなら、
ひ弱い彼みずからの身を以て、
人類すべての被害を、
鈍痛で受けとめねばならぬ。
その思いは、障害を抱えた息子・光との日々と無縁ではないだろう。続きを読む投稿日:2023.10.30
講演内容をまとめたものであり読みやすかったが、前提知識ゼロで挑んだので難しい部分もあった。
日本に生きる私としてもっと日本を知るべきかと思う。投稿日:2024.01.06
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。