いい子のあくび
高瀬隼子(著)
/集英社文芸単行本
作品情報
芥川賞受賞第一作。
公私共にわたしは「いい子」。人よりもすこし先に気づくタイプ。わざとやってるんじゃなくて、いいことも、にこにこしちゃうのも、しちゃうから、しちゃうだけ。でも、歩きスマホをしてぶつかってくる人を除けてあげ続けるのは、なぜいつもわたしだけ?「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作(「いい子のあくび」)。
郷里の友人が結婚することになったので式に出て欲しいという。祝福したい気持ちは本当だけど、わたしは結婚式が嫌いだ。バージンロードを父親の腕に手を添えて歩き、その先に待つ新郎に引き渡される新婦の姿を見て「物」みたいだと思ったから。「じんしんばいばい」と感じたから。友人には欠席の真意を伝えられずにいて・・・・・・結婚の形式、幸せとは何かを問う(「末永い幸せ」)ほか、
社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る全3話。
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商品情報
- シリーズ
- いい子のあくび
- 著者
- 高瀬隼子
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文芸単行本
- 書籍発売日
- 2023.07.05
- Reader Store発売日
- 2023.07.05
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 176ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (207件のレビュー)
-
高瀬隼子さんの作品を初めて読了した。初めての感覚を味わいつつ、どきどきしながら読み進めた。本作品は3編からなっている。3編のタイトルは「いい子のあくび」「お供え」「末永い幸せ」。それぞれの物語の中で、…登場人物の心内語が溢れていて、実際の行動との違いにどきどきした。人の心は見えないし、自分の本心ですら意外と分からないのかもしれないと、読みながら感じるようになっていた。
「いい子のあくび」は、主人公の左元直子に中学生のヨシオカがぶつかるシーンから始まる。ヨシオカはスマホを見ながら自転車を運転していた。直子はそれを知りつつ避けずに歩いて進み、敢えてぶつかっていく。自転車を運転していたヨシオカは倒れ、車と接触。一連の展開に何が起こっているのかという不安を抱きながら読み進めた。車を運転していたのは西方。なぜか、警察を呼ばない方へ話が進む。不穏な空気を感じつつ、直子はヨシオカがスマホを見ていたと話す。そして、自転車に乗っていたヨシオカが車を運転していた西方に謝ることになる。モヤモヤとしながら読み進めていくと、この後の展開で、それぞれの思惑が明らかになっていく。隠そうとするものがあると、自分の思惑が優先し、判断が曲がっていくのかな。そのような中、直子が買い物に行ったスーパーのレジで西方に再会する。直子はお客様アンケートを手にする。事故後のこの直子の行動に、今後の物語の伏線を感じた。
直子には付き合っている大地がいた。大地は、丸山中学校の教師。ヨシオカは丸山中学校の生徒。直子は日常の怒りと不快をずっと実際に手帳に記載し、記憶しながら生きていた。そこに生き辛さを感じる。そのように心の中に溜め込んでいくとどうなっていくのだろう。もやもやした思いはどこで吐き出すのかな。大地からの結婚の言葉にも、嬉しいという気持ちを探す直子。その場面ですら、直子が実際に嬉しさを表す言葉を出しても、心の中では否定する言葉が出ている。
直子の大学時代、ボランティアサークルで一緒だった望海。望海とは悪口や汚い言葉を自然に使い合う仲。しかし、その望海とも言葉を合わせるところに、何か自然ではないものを感じる。
直子にとって、どの自分が本当かということではなく、その時々の相手との関係によって全てが本当の自分なのだろうか。また、居心地よい相手とは、その思いが重ならないこともあるだろうな。それでも、その関係を続けていくことを選んでいるのは、自分なのだろうな。大地の前、望海の前、別の人の前、人によって対応が違う自分、どれが自分であるのかと戸惑う直子。それはそうなるだろうし、考え過ぎることはないのじゃないかなと思うが、自分のことをいい子のふりをしていると思い込む直子。だからこそ、直子を肯定する人に対して、見る目がないと思ってしまう。それでも他人から見えているその人の姿も、その人の姿と言えるだろうし、心の中までは周りの誰も分からない。それがたとえズレていても、見える姿がその人と周りの人とのかかわりをつくるのだろう。
直子は大地のスマホを見てしまい、そこに別の女の人とのやりとりがあることを目にする。同日、直子が大地と一緒に駅のホームにいた時に、新たな事件が起こる。スマホを見ていた人と直子の接触。そのことで大地にまで被害が及ぶ。このシーンでは怖さととともに、やるせなさも感じる。大地には、直子の心は見えていない。いい子を求めて、心の中にいろいろな面があることから抜け出せない直子は、この先どんな生き方を選んでいくのだろう。
「お供え」は、わたしが主人公。登場人物はAからUまでの適当なアルファベット。そこに新鮮さと戸惑いを感じながら読み進めた。わたしの所属は、同僚が30人もいない部署で営業部。Uのデスクにある中指を伸ばした長さほどの鍵谷正造フィギュア。創業100周年を記念して作られていた。わたしの同僚は、お土産やお菓子などを鍵谷正造フィギュアにお供えしていた。ちょっとした願いごとが叶うという。怪しくて不思議な感覚をもちつつ読み進めた。ラストのシーンでは、新入社員の教育係、入社して3年目、そのフィギュアを嫌っているAが、お供えをして願い事を呟く。そこでの願い事に驚く。人は変えられないのに、そのことを願うA、そこにやるせなさと矛盾を感じながら読了した。
「末永い幸せ」は、奏が主人公。35歳になった幼なじみの仙子とりっちゃんと年2回集まっている。居酒屋での3人の宴のシーンから始まる。年2回という定例の関係の不思議さを感じつつ、それでつながることは、何かあるのだろうなと想像する。そのシーンで、りっちゃんの突然の報告、結婚するという内容だった。そして、結婚のきっかけが婚活パーティーでの出会いだと奏と仙子が知る。その場で、2人に結婚式への案内をするりっちゃん。しかし、奏はその場で出られないことを伝える。そのシーンでは、思わず声が出そうになるほど衝撃を受ける。それには、奏なりの理由があり、そのことが明らかになっていく。そのような中で、りっちゃんの幸せを願いたいという奏の気持ちが、りっちゃんに伝わるかな。そして、その理由となる奏の考えを聞いた仙子だったが、納得しなかった。まあ、それも、それぞれの考え方があり、その違いだろうな。物語は進んで、りっちゃんの結婚式が行われるホテルのシーンが展開される。奏はそのホテルの9階に泊まり、窓から中庭のチャペルとりっちゃんを見ている。複雑な奏の心を想像する。そこから、さらに物語が展開する。こんなにも心内語が溢れている作品を味わうとは思わず、この作品も読了した。
人の心は見えないし分からない。だからこそ、人との関係のあり方について、考え過ぎないように、私の心のままに感じていけたらいいかな、楽しいと感じながら過ごせるように。
本作品を読了し、初めての読後感を味わった。高瀬さんの心内語の描写に、驚きながらも興味をもって読み進めていた。高瀬さんの次の作品も楽しみとなった。
続きを読む投稿日:2024.02.24
読みながら、この感じは読んだことある、と思ったら、やっぱり。
すごく共感して、私があの頃感じたことをこんなにうまく言葉にしてくれて!と思うけど、読み終えたあとの疲れや重さがしんどい。
最近、こういうタ…イプの小説をよく読むけど、読んだあと、どういう気持ちになればいいのだろうか。続きを読む投稿日:2024.06.17
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