犬のかたちをしているもの
高瀬隼子(著)
/集英社文庫
作品情報
「子ども、もらってくれませんか?」――彼氏の郁也に呼び出された薫は、その隣に座る見知らぬ女性からそう言われた。薫とセックスレスだった郁也は、大学時代の同級生に金を払ってセックスしていたという。唐突な提案に戸惑う薫だったが、故郷の家族を喜ばせるために子どもをもらおうかと思案して・・・・・・。昔飼っていた犬を愛していたように、薫は無条件に人を愛せるのか。第43回すばる文学賞受賞作。「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子のデビュー作!
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商品情報
- シリーズ
- 犬のかたちをしているもの
- 著者
- 高瀬隼子
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2022.08.19
- Reader Store発売日
- 2022.10.06
- ファイルサイズ
- 0.2MB
- ページ数
- 160ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (122件のレビュー)
-
『彼氏が他の女の人との間に子どもを作ってしまって、それをあげるって言われてるんですけど、どう思いますか?』
いやー、そんなこと訊かれても下手に答えられないですよね。なんというシチュエーションでしょう…か。これぞ、修・羅・場だと思います。この先、どれだけの血が流れるのでしょうか?
(´・ω・)ω・`)こわい
男と女の関係はもうそれぞれです。一見仲良くやっているように見えてもその本当のところはなかなか分かりません。全てのカップルが幸せな未来への階段を上がっていけるならこの世は愛に満ち溢れているでしょう。でも、実際には人の心は常にゆらゆらと揺れ動きもします。そんな揺れた先に違う相手との間に関係が進む、そんな展開も十分ありえます。自分がそこに関係するならゾッとしますが、それを他人事とする分には一つのドラマをそこに見るような感覚になってしまいます。そう、そこに数多の小説が生まれる余地があるのだと思います。
さて、ここに『二十七歳の時に郁也と付き合い始めて以来、仲良く過ごしている』と、彼と付き合い始めて三年が経った今を思う一人の女性が主人公となる作品があります。『同じ布団にくるまって手をつないで眠る時の、心の底からの安心』を思うその女性。この作品は、そんな女性がある日、彼氏に見ず知らずの女性を紹介される物語。そんな女性が彼氏の子どもが産まれたら『もらってくれませんか?』と淡々と語る物語。そしてそれは、そんな強烈なシチュエーションで展開する物語の中に、『愛する』という言葉の意味を読者のあなたが噛み締めることになる物語です。
『何してんの』と、『開けたままにしていたドアの外に』立つ郁也に訊かれて『陰毛切ってた。明日、検診に行くから』と答えたのは主人公の間橋薫(まばし かおる)。四年前に再発が分かり『三か月に一度のペースで』検診を受けている薫。『明日の夜って何か予定ある?』と訊かれ『ないよ。午後から有休取ってるし、検診、夕方には終わるから』と返した薫は『駒込駅前のドトールに十八時』と場所と時間を指定されました。『別れ話では、ないんだよなあ、たぶん』と思い待ち合わせ場所へと向かう薫は郁也との今までを思い返します。『二十七歳の時に』付き合いはじめて『もう三年になる』という二人は、『セックスをしなくなって』以降も『仲良く過ごして』きました。『特にこの一年ほどは、わたしのマンションで半同棲のように生活している』という二人。『結婚はいつでもできるけど、すぐにする必要はない気がしている』という薫は、『仕事帰りのドトールで話すようなことって、どんな話だろう』と考えます。そして、ドトールに着いた薫は郁也がいることに気づき席へと向かうと、郁也の『隣に女の人が座ってい』ます。『同い年くらいに見える』、『仕事帰りなのか、ネイビーのパンツスーツを着ていた』という女は『ミナシロといいます。今日は、間橋さんとお話ししたくて、田中くんに呼んでもらいました』と語り始めました。その横で『病院、どうだった』と訊く郁也に『別に、なにも変わってないって…』と答える薫。しかし、郁也はその言葉を最後に黙ってしまいますが、注文をする段になってようやく『ミナシロさんが、妊娠していて』と『追いつめられたような顔』で語ります。それに、『そうなんだ』と答えた薫に、『それが、おれの子らしくて』と続ける郁也。『びっくり』と口にした薫は『郁也、あの女の人と、セックスしたの』と思います。そこに説明を始めたミナシロは『田中くんと間橋さんに、別れてほしいんじゃないんです… ビジネスの関係だったんです。お金をもらって、そういうことをする。なので、今回のは、ミスでした』と語ります。『間違えて、子どもができてしまって。それで、間橋さんには、ただ、わたしが子どもを産むことと、田中くんがその父親になることを、許してほしいんです』と続けます。そんなミナシロに『子どもを認知して、養育費を出してほしいってこと、ですか?』と訊く薫。そんな薫に『少し、違います。認知というか…』と説明するも薫が理解していないことを察し『ミナシロさんと入籍して、戸籍上ちゃんと、生まれてくる子の父親になって、その後で離婚する。それで、子どもはおれが引き取る』と代わりに説明する郁也。そして、『わたし、子どもが嫌いなんです』、『間橋さんが育ててくれませんか、田中くんと一緒に。つまり、子ども、もらってくれませんか?』と『唇の右端』を震えさせながら訴えるミナシロ。まさかの申し出に戸惑いを隠せない薫。そんな薫、郁也、そしてミナシロのそれからが描かれていきます。
“「子ども、もらってくれませんか?」ー 彼氏の郁也に呼び出された薫は、その隣に座る見知らぬ女性からそう言われた。薫とセックスレスだった郁也は、大学時代の同級生に金を払ってセックスしていた…”という衝撃的な前提が内容紹介に語られるこの作品。2022年に第167回芥川賞を受賞された高瀬準子さんのデビュー作です。漆黒の背景を前に白い犬らしきものの頭から後ろのみが写っているインパクト大な表紙も印象に残りますが、そもそも「犬のかたちをしているもの」という書名がまずもって意味不明です。そんな作品は文庫本160ページとあっという間に読み終える分量ですが、読み終えた印象としては、この短さの中にここまで色々なものを詰め込むのかと驚くほどに密度感を感じる物語でした。
では、まずはそんな物語の表現から見てみたいと思います。私がまず、えっ!と思ったのは文章の独特なリズム感です。
・『おへそに溜まった汗を人差し指でかき出す。ぴっ、てん、てん、と飛んで、トイレットペーパーに染み込んでいった。たまらなくあつい』。
・『郁也のむきだしの胸が大きな息で膨らんだ。わたしは心臓の音をききもらさないように耳をぴったりくっつけた。速いリズム』。
二箇所取り出してみましたが状況を淡々と説明した後に、ポツッと感情の表現が短く付け加えられています。特に二つ目の『速いリズム』で体言止めされる表現は独特な余韻を残します。好き嫌いが分かれそうですが、私はこういった独特なリズム感を感じる文章はたまらなく好きです。次に、芥川賞作家さんらしい比喩表現を見てみましょう。
・『体を巡る血液が表面から冷やされていく感覚。発汗をすぐに止めるよう、体中に号令がかかる』。
・『郁也はわたしのことが好きだ。その愛情が少し、信仰のようになっているくらい』。
ひとつ目の方は『エアコンのきいたリビングに』入った時の感覚を描写したものですが、暑い場所から涼しい場所に移動しただけのことをこんな大袈裟に表現するところがたまりません。一方、ふたつ目の方は愛情を『信仰』に比喩していくものです。『セックスをしなくなっ』た二人の関係。薫から見た郁也の姿を表したものですが、これも『信仰』という二文字が強いインパクトを残します。
次は、書名に続く『犬』を描写した箇所を追ってみたいと思います。『ロクジロウ』という犬を飼っていたことがあるという薫は、『ばあちゃんの家の裏で』犬を見つけ、『子どもだった自分の両手の中に納まるサイズのぬくもりに興奮し』た先にそんな犬を飼うことになりました。
『わたしとロクジロウは、飼い主と犬というより、きょうだい同士のように育った…わたしとロクジロウと、二人きょうだい』。
そんな風に仲良く暮らしてきた『ロクジロウ』との関係性の先、『ロクジロウが死ん』だことをきっかけに、薫は一つの思いに到達する瞬間を得ます。
『愛するって、こういうことなんだ、って分かった』。
それこそが『誰にも感じたことのない深い祈るような感情』でした。
『この子が助かるならなんでもするのに、っていう祈り。この子が幸せでありますように、この子を幸せにできますように、幸せにしなくちゃ、なにがなんでも、っていう覚悟みたいな決意みたいな』。
物語は薫がそんな『ロクジロウ』の死に感じた『愛するって、こういうことなんだ』という感覚、『愛する』とは何かという感覚を読者に問いかけながら”「子ども、もらってくれませんか?」”という現実にはありえない展開の物語、薫が答えを出せない中に展開していく物語が描かれていきます。
そもそもあなたは、自分が同棲までしている彼と『ビジネスの関係』にあると突然現れた女に、自分の胎内に宿している子を出産後に『もらってくれませんか?』などと言われたとしたらどうするでしょうか?しかも『許される要素のひとつもない話で、責められてなじられて罵倒される覚悟もありそうな様子なのに、でも最終的には許してくれるんでしょ、と思っていそう』というミナシロ。これはもう、現実にはありえない話です。しかし、高瀬さんはそんな前提の物語にあくまで大真面目に薫を向き合わせていきます。そんな中に、さまざまな言葉で高瀬さんは読者に問いかけます。
・『子どもがほしいのと、子どもがいる人生がほしいのは、同じことって思う?』
・『子どもという存在、産むのか産まないのか、産めるのか産めないのか、産めるなら自分はどうしたいのか』。
そんな物語に上記した『犬』というものの存在が重なりを見せてもいきます。さらにそんな薫はこんな悩みも見せます。
『仕事をしてお金を稼いで生活している。自立している。それはわたしが目指したところだったはずだ。だけど、このままでいいのかなって、考えてしまう』。
この表現の下に、『愛する』ということを描いていく物語は、さらに複雑な感情を読者に抱かせます。そして、たった160ページという分量の物語の中にさまざまに感情が揺すぶられていく物語は、えっ!という衝撃の中に幕を下ろします。悶々とした思いが残るその結末、しかし、そこには『愛する』ということへの一つの答えを読者に確かに気づかせてくれる物語がありました。
『郁也を愛しているんだと思うんだけど、自信がない。ちゃんと、ロクジロウを愛するのと同じように、思えているのか』。
同棲している彼から告げられた衝撃の告白の先に主人公・薫が悩みを深くしていく様が描かれるこの作品。そこには、幼き頃に飼育していた愛犬『ロクジロウ』を思う気持ちに今を重ねる薫の感情の変化が描かれていました。芥川賞作家さんらしい表現の工夫を楽しめるこの作品。あっという間に読み終える物語に想像以上の奥深さを感じるこの作品。
“女性の息苦しさみたいなもの。その息苦しさを理解して書いていたというよりは、むかつくなという気持ちで書い”た、とこの作品執筆時のことを語る高瀬さん。終始息苦しさを感じさせる物語の中に、「犬のかたちをしているもの」という書名が意味を持って浮かび上がる印象深い作品でした。続きを読む投稿日:2023.06.21
胸くそ悪い…というのが正直な感想。いい年した大人達が、生まれてくる子供を蔑ろにして人生をウロウロウロウロ。分かる部分も少しあったから余計に目を背けたくなる不快さ。
投稿日:2024.05.13
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