水上バス浅草行き
岡本真帆(著)
/ナナロク社
作品情報
【収録短歌より】ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし3、2、1、ぱちんで全部忘れるよって今のは説明だから泣くなよ平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ犬の名はむくといいますむくおいで 無垢は鯨の目をして笑う教室じゃ地味で静かな山本の水切り石がまだ止まらない愛だった もしも私が神ならばいますぐここを春に変えたい星座にも干支にもならず土曜日のわたしの膝におさまった猫間違えて犬の名で呼ぶ間違えて呼ばれたきみがわんと答える【著者より】浅草行きの水上バス。どこかに急いで向かうための乗り物じゃない。むしろ、乗らなくてもいい、そんな乗り物。なくても、生きていけるもの。でもそういう存在が、心に潤いや光を与えて、わくわくさせてくれるのを知っている。そんな歌集をつくっています。著者:岡本真帆【著者プロフィール】岡本真帆(おかもと・まほ)一九八九年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。未来短歌会「陸から海へ」出身。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (40件のレビュー)
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「無駄こそがすべてと思う消えていく雲に名前をつける夕暮れ」
あとがきに書かれているように、『一見無駄のように思える、なくても生きていけるもの』の存在が、自らの人生をより味わい深いものにしていること…を知っている、岡本真帆さんの第一歌集は、そんな遊び心のある中にも切実な真摯さを覗かせるといった、人間の持つ複雑であるが故の愛らしさを、いっぱいに感じることの出来た作品です。
何回か読んでみて、いくつかテーマ性を感じられた中でも、まずは、そんな無駄のように思えるものとも繋がった感のある、思わずクスッと笑ってしまった面白い歌が印象的で、こういう雰囲気の歌は、これまであまり目にしたことが無かったので、尚更、新鮮でした。
「Yeah! めっちゃポリデントって送ろうと入れ歯の絵文字探してた ない」
所謂、あの歌のダジャレなんだけど、最初は笑えていたのに、最後の『ない』まで来たときの心境が、あんなにテンション高かっただけに、却って、そのショックには、より計り知れないものがあるように思われて切なくなってしまったという、このような対照的なもの同士が共存している歌の多さは、彼女の一つの特徴に思われました。
「自動ドア開かないようにひらがなのくの字ですする煮干しラーメン」
単純にその場面を想像したときの面白さと、その体勢辛そうだな、でも皆の為に気を遣ってくれるいい人だなと感じさせられたのは、食べているものが煮干しラーメンというのも、きっとあるのだろうと思わせる渋さ。
「どうみても鹿用だそれ 満面の笑みでジョニーが喰らうせんべい」
これ、ツボにハマって一番好きです(笑) 言葉のチョイスが絶妙で、『どうみても』も『それ』も『満面の笑み』も『喰らう』も、笑いを心得ている人が計算して作ったような完璧さで、ちなみにジョニーは犬だと思います。
次は一つの歌集に、やけに多いなと思った「犬の歌」で、調べてみたら岡本さんは犬好きだそうで、納得しました。
「入口で待ってる犬の飼い主が出てくるところまで見てしまう」
すごく細かいところでありながら、詠み手の犬が好きな思いも、しみじみと伝わってくる、短歌ならではの日常の切り取り方。
「庭は夏過去になる夏 水たまり飲んじゃだめって言っているのに」
夏の素敵な思い出と犬への優しさが、哀愁も込めて美しく描かれている。
「犬だけがただうれしそう脱走の果てに疲れた家族を前に」
きっとこの家族には訳あって、必死だったのだろう。それなのに、この犬はって・・・でもそれが、とてつもない慰めと癒しになってくれそうな、嬉し泣きの気持ちになれる人情的素晴らしさを、犬が教えてくれた感じが好きです。
次は、夏がもたらしてくれた、かけがえのない瞬間を切り取った歌。
「ありえないくらい眩しく笑うから好きのかわりに夏だと言った」
まるで『好き』と『夏』が同義語であるような解釈に、詠み手の夏への思いを感じさせる。
「夏の月のたった一度の合奏が終わったあとの無音 今でも」
岡本さんの歌の素晴らしさは、この効果的な一字空けにあると思い、私の頭の中では、おそらく合奏の上手い下手は関係なくて、その皆が一つになった一体感と、終わってしまったという、何とも言えない無音の余韻に感じさせる、たった一度の思い出が、時を超えて、今も音が鳴っているのではなく、無音の余韻の方に思い出の比重を置いている点に、彼女ならではの感性を感じられました。
「振り返す手よ生きていくことすべてまぶたの裏の消えない花火」
振り返す手を目の当たりにしながら、いつまでも鮮やかに何度でも甦る花火は、彼女にとって、人生の全てだったのかもしれない。
次は、個人的に最も染みた現実的な歌。
「督促状にぎってあるく散った花ばかり目に付くコンビニの道」
私が思い出すのは年金関連で、書かれている内容を知ると、ちょっとした絶望感をもたらすものだから、ネガティブになるのもよく分かる。
「帰りつつ家賃の歌をつくったら楽しくなって払い忘れた」
一見、笑ってしまうんだけど、どことなく笑ってはいけない雰囲気も醸し出しているような複雑さが垣間見えそうで。
「口笛も花もだじゃれも潮騒も全部忘れて書いた履歴書」
去年から今年にかけて、何回履歴書書いたのだろうということを思い出した、私への応援歌のような存在。そうなんですよ、履歴書書いている時の、あの楽しいこと全て追い出したような、やるせない心境は。
次は上記した、対照的なものを共存させた点に、人の複雑さが見える歌を集めました。
「地下鉄はぼんやり光る住んでいた街にもうすぐ雨雲が着く」
本来暗いイメージの地下鉄を光として、かつて自分がいた街を闇のイメージとした点に、様々な思いが見え隠れする。
「泣きたくない、鼻詰まるから その声がもう鼻声で笑ってしまう」
泣くのをこらえる心境と笑ってしまう心境とが、見事な対照性を為した様には、何をきっかけに人生好転するか分からないような、人生の複雑な面白さがあるようで、却って、励まされる。
「ほんとうの愛のことばをでたらめな花の言葉として贈るから」
たとえ不器用でも、心からの気持ちは下手な知識よりも、確かな形となって伝わるような、そんな人間の美意識や心意気を教えてくれる。
最後は、岡本さん自らを大切にしたような自己愛に満ちた歌。
「冷蔵庫唸ってくれてありがとう明かりの前で引き裂くチーズ」
これ、好きです。冷蔵庫の音が、この歌の彼女にとっては、間違いなく側についていてくれるような安心感を覚えているのが、ひしひしと伝わってくるようで。
「花言葉どころか花の名前すら知らないけれどもらってくれる?」
とても不安を抱えながらも、自分の心の中の感性を強く信じている点に、グッときました。
「すやすやと唱えたあとのおやすみのことだま眠るまでそこにいて」
一人眠ろうとする時に、どうしてもそれが辛い時ってあると思うのですが、それに対する自分なりの答えを歌人らしく歌で出したような、そんなささやかさが切なくも美しい。
しかし、そんな岡本さんだからこそ、人に対しても、同じ気持ちで寄り添えるのかもしれない。
「教室じゃ地味で静かな山本の水切り石がまだ止まらない」
そう、人には様々な可能性だってあるんだということを、改めて教えてくれた、岡本さんの人柄は、奥付のこんな一文からも感じられた。
『第七刷発行 2023年3月27日 四万十川の菜の花が見頃です』
こうした細かいところまで楽しませようとする、岡本さんの第一歌集に描かれた、鈴木千佳子さんの挿画の、ちょっとゆるい日常風景の色の無い様には、まるで読み手それぞれが好きなように色を付けてくれればいい、そんな自由さがありながら、普段着のままでいることの素晴らしさも教えてくれるようで、それはまさに、岡本さんの人懐こさが、短歌の敷居を下げてくれそうでありながら、対照的なものの共存による、人の複雑さも垣間見せる、そんな人間の奥深さに岡本さんの奥深さを感じられたことから、ひとりの人間の生き様が記されているようにも、私には思われたのです。
最後の最後は例によって、私の拙い歌を・・・。
「好きになること嫌いになることから遥か隔てた ここまで来たよ」続きを読む投稿日:2024.03.27
「3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ」に惚れたクチで、滅多に買わない歌集を買った。やっぱり帯とか紹介文に採用される歌が頭抜けて良いな、どうしてそれが「良い」と思うのか全然言…語化できないけど。他に自分が好きな首を順に並べると、
「深すぎるお辞儀でひらけランドセル スーパーボールスーパーボール」
まさにランドセルからスーパーボールが飛び出し跳ねる瞬間がありありと浮かぶ。秀逸。
「満月に呼ばれるように着地するホットケーキは円に近づく」
そもそも「ホットケーキ」という単語がぽったりとフライパンに落ちるような語感を持つ点に着眼した一首。「ホットケーキ」と何度も呟いてしまう。
「ストリートビューで降り立つ真夏日の角を曲がればふいに積雪」
分かる〜よくストビューで街中散歩しながら仕事サボってるので。一瞬で視界も景色も切り替わる、インターネットが普及した現代社会の妙を活写した首。
「何度でもめぐる真夏のいちにちよまたカルピスの比率教えて」
これまた分かる〜わざわざ混ぜて作るのは夏だけ、頻度が少ないが故に比率を忘れる。真夏の儀式だ。
他にも二首好きなのがあるけど紹介し過ぎるのも著作権的にどうなんだろう。「ぼく」とか「きみ」とか「わたし」とか、入れるだけで簡易にエモを演出できるワードがなく、その瞬間瞬間を一葉の写真に収めたような詩が好きなのかもしれない。続きを読む投稿日:2024.06.03
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