空をこえて七星のかなた
加納朋子(著)
/集英社文芸単行本
作品情報
「南の島へ行くぞ」突然のパパの言葉で石垣島へ旅することに。正直言って、あんまり気は進まない。家族旅行といえばママも一緒だったのだ、去年までは――(「南の十字に会いに行く」)。小学四年生の九月のこと、同級生の過失で私の右目は取り返しのつかない怪我を負った。世界はぼやけて頼りない姿に変わり果ててしまった。星降る夜に大事な友達と交わした約束も――(「星は、すばる」)。廃部寸前のオカルト研究会、天文部、文芸部。生徒会に必死で部の存続を訴えると、「じゃあ、スペミス部ってことで」と、とんでもない提案が――(「箱庭に降る星は」)。読み終えたら世界が変わる! 〈日常の謎〉の名手が贈る、驚きと爽快な余韻に満ちた全七話。
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商品情報
- シリーズ
- 空をこえて七星のかなた
- 著者
- 加納朋子
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文芸単行本
- 書籍発売日
- 2022.05.26
- Reader Store発売日
- 2022.05.26
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (107件のレビュー)
-
1990年12月2日、ソ連のソユーズで『宇宙』へと旅立った日本人。それはまさかのTBSの社員だった秋山豊寛さんでした。その後、1992年9月12日に米国のスペースシャトルで毛利衛さんも『宇宙』へと旅立…っています。そして、1994年7月8日、外科医でもあった向井千秋さんが、日本人女性として初めて『宇宙』へと旅立ちました。
1961年4月12日、世界で初めて『宇宙』へと旅立ったソ連のガガーリン少佐以来、多くの人間が赴くことになった『宇宙』。JAXAで13年ぶりに『宇宙飛行士』の募集が始まるなど『宇宙』へと旅立っていく人は今後も続いていくのだと思います。
一方で、そんな『宇宙飛行士』も一人の人間です。そこには必ず家族の存在があります。さまざまな職業の中から『宇宙飛行士』という職業を選択した人を家族に持つ人たちの存在。華やかなスポットライトに照らされる『宇宙飛行士』たちの一方で、そんな彼らから遠く離れて、彼らの戻りを座して待つ他ない家族たち。そんな彼らは『普通の人』としてそれぞれの日常を送っているはずです。それは、あなたの家族と同じことでもあります。特別な職業と言っても、家族が特別であるわけではない日常、当たり前と言えば当たり前のことではあります。
さて、ここに、『ママは今アメリカで、日本人女性何番目だかの宇宙飛行士を目指して、訓練の日々を送っている』と語る一人の女の子が主人公となる物語があります。そんな彼女の物語を含め七つの短編から構成されたこの作品。『星』に関する何かしらが描かれていくこの作品。そしてそれは、ざまざまに描かれていく物語のその先に、すべての登場人物が一つに結ばれていく驚きの結末を見るミステリーな物語です。
『今朝いきなり、「七星、南の島へ行くぞ」と』パパに言われ、『パパはいつだって、唐突だ』、『それでよくママにも怒られていた』と思い、『いきなり、なに?』と返したのは主人公の七星(ななせ)。『何だよ、せっかく家族旅行に誘ってんのにさ…』とむっとするパパに、『わーい、パパだいすき!』と『棒読みで』七星が返すとパパはむくれてしまいます。『わたしはもうじき、中学生だ』という七星は、『仕方なく』『南の島って、ハワイとか?』と訊き返すと『石垣島だよ』と『自慢げ』に答えます。そして、『ハイ決定』と『カレンダーに書き込』むパパを見て、『正直言って、あんまり気は進まなかった』という七星。『去年まで』『ママも一緒』だった『家族旅行』。『今年はパパと二人きり…何を話したらいいのかわからない』と思う七星。場面は変わり、『やっぱりあったかいね』という『人生初の南の島』に来て『少し気分が上がってきた』という七星が『ベルトコンベア前で待っていると、後ろから来た人に話しかけられ』ます。『あら、また会ったわね』と言うのは『飛行機で隣の席だった』『白髪頭の優しそうなおばあちゃん』でした。『ベルトコンベアは、まだ動かない』という中に、『あなたが言ってた星空バスツアー、面白そうだからわたしも申し込んでみようと思うのよ』、『今日申し込めば大丈夫ですよ』と会話するおばあちゃんと七星。そんな中に『「ちょっとすみません」とかなんとか、つぶやくように言いながら』『男の人が』『自分の荷物を取り上げて』去っていきました。『黒服、黒いサングラスに、黒い帽子…おまけに真っ赤なネクタイ』という様相に『今の人、なんかマジで怪しくなかった?』とつぶやく七星に、『ほんと、なんかギャングみたいね』と『くすくす笑』うおばあちゃん。そして、発車したバスの車内で、パパの『やっぱ石垣島に来たら、石垣牛を食わんとな』という会話をきっかけにおばあちゃんと一緒に夕食を摂ることになります。小学生だった頃、ある盗難事件で犯人とされてしまったおばあちゃん。そんな事態の中で『真犯人を見つけてくれた』友だちが『石垣島にいるってわかった』と語るおばあちゃん。楽しく食事したあとにおばあちゃんと別れてパパとホテルに帰った七星。そんな七星に『気づいたか?…さっきの店に、あのサングラスの男がいたぞ』と話すパパは、『一人で焼き肉食ってた』と続けます。そして翌朝、『石垣島の観光バスツアーに参加』すべく『集合場所』へと向かう二人。『ガイドさんが現れて、点呼のためにぞろぞろ集まってきた人たちを見て』七星は、『あっと思』います。そこには、『またしても、あのサングラス男がぼうっと突っ立ってい』たのでした。『石垣島』の観光感満載な物語の中に、謎の『サングラスの男』は何者なのか?というミステリーな物語な展開する冒頭の短編〈南の十字に会いに行く〉。美しい星空の下でまさかの展開を見せる好編でした。
“南の島で、山奥のホテルで、田舎町の高校で。 星を愛し星に導かれた人々が紡ぐ七つのミステリー”と内容紹介にうたわれるこの作品。「空をこえて七星のかなた」という書名からどことなく想像できる通り、『星』にこだわった物語が展開していきます。それは、上記した冒頭の短編もそうですが、他にも〈星は、すばる〉、〈星の子〉といったように短編タイトルも全て『星』を入れるこだわりよう。さらには、短編の数にも注目です。短編集に幾つの作品が収録されるのかは大人の事情があるのだと思いますが、この作品が七つの短編から構成されているのは、あの星々を自然と想起させます。そうです、知らぬ者いない『北斗七星』です。そして、何といってもこの作品は『北斗七星』が七つの星で構成されているそのまんまに、七つの短編が見事に連作短編を構成する加納朋子さんらしい驚きの構成を見せる物語が展開していきます。
そんな作品の見所は多々ありますが、冒頭の短編で紹介されていく『南の島』の描写ははずせません。まるで読者も旅行に出かけた気分になれるかのように描かれていく表現からご紹介しましょう。
・『離島ターミナルに着いたらもう三時過ぎ』という中に『具志堅用高さんの銅像と一緒に写真を撮ったり』という後にホテルにチェックインした二人。
→ 翌日、『石垣島一日観光』へと出かけます。バスに乗ると、『窓から見える具志堅用高さんの実家を教えて』くれるガイドさんは、『八重山諸島では、八十八ある星座のうち、八十四も見ることができるし、全天で二十一ある一等星のすべてを見ることができる』と、この作品の肝でもある『星』の話をしてくれます。
→ 『最初の目的地、川平湾に着』いた二人。『雲が多くなってきたせいか、海はガイドブックに載っているような鮮やかなブルーではなかった』、『もっと暗めの、緑がかった青』とは行ったものでなければ書けないリアルな描写。
→ 『グラスボートの受付で、星砂のミニボトルをもら』った七星は、『星砂の浜に行くの、楽しみ』と明日の予定を思います。
まるで実際に旅をしているような気分にさせてくれる細かい描写が続きます。上記で少し触れたとおり、そこには訪れた者でないと書けないリアルな描写も含まれ、余計に旅情を掻き立てます。そして、物語はいよいよ、そんな『星砂の浜』の描写へと続いていきます。
・『離島ターミナルから観光フェリーで十五分くらい』という『竹富島』へと着いた二人。『自転車なら三十分くらいで一周できてしまう』ということで『レンタサイクル屋さん』で自転車を選びます。『二人乗り』にこだわるパパを『振り切って、一人一台ずつ借りる』という微笑ましい展開。
→ 『目指すは星砂の浜、カイジ浜だ』と『駐輪するのももどかしく、砂浜に駆けていく』七星。『浜には先に来た人たちが、いっぱいしゃがみ込んでい』るのを見て、『星砂がなくなっちゃうと思い、慌ててわたしも適当なところでしゃがむ』七星。
→ 『思ったより、小石だの珊瑚のかけらだのがごろごろしている』、『波打ち際の濡れたとこらは探しにくかったので、じりじり移動して、ベストポジションを探っていく』も、『もう少し簡単に見つかると思っていた』と焦る七星。
→ 『パパ、それ、ぬいで』と、『黒いナイロンの上着』を脱いでもらって『砂の上に広げる』七星は、『掌ですくった砂をさらさら落として薄くのばし、目を凝らし』ます。『あったーっ』と『思わず大声』を出す七星は、『まるで天の川の中にある一等星みたいだ』と思います。
『竹富島』と言えば有名なのが『星砂』です。そんな『星砂』を探す父と娘のなんとも微笑ましい情景を情感たっぷりに描いていくこの場面。心はすっかり『南の島』気分にさせてくれます。『星』というと夜空に煌めく星々を思い浮かべますが、まさかの浜辺に見る『星』を描く加納さん。舞台設定含め、『星』にこだわりにこだわった作品だと改めて思いました。
そんな七つの短編がきら星の如く輝くこの作品は、それぞれの短編がさまざまな舞台に非常に個性ある物語を見せてくれるのも特徴です。私は短編を読む時はあとでレビューを書くために5段階評価をメモしているのですが、この作品では短編間に差がつきませんでした。いずれ劣らぬ出来の良さを誇る短編たち。その中から、特徴ある短編を三つご紹介しましょう。
・〈星は、すばる〉: 『掃除の時間、教室に持ち込んだ木の枝を剣に見立てて、戦いごっこを始めた男子たち』を見る主人公の美星。そんな美星に向かって『バランスを崩し』、一人の男子が倒れてきました。そして、『右目に突き刺さ』った『枝の先端』…という先に、美星は意識を失います。そして、『我に返った時、世界の様子は一変していた』という美星。『失明だけは、どうにか免れ』るも大きく視力を落とした美星。『この馬鹿息子に責任を取らせます』と言う父親の言葉に従って『加害者』であるコータが美星に『ぴったり張りつ』いて世話をする日々が始まりました。
・〈木星荘のヴィーナス〉: 『三つ上の従兄』であるお兄ちゃんが『大学生になって、上京して』きたというのは主人公の彗子。おばあちゃんが経営している『木星荘』の『一〇一号室』に入ることになったお兄ちゃんの部屋の整理に付き合う彗子は、お兄ちゃんが壁に『kanaeだよ』と言いながら『綺麗な女の人』のポスターを貼ったのを見て、『お兄ちゃんの前にこの部屋に住んでた』と語ります。『スタイル抜群』で、『本当に綺麗』な金江さんは質素な生活を送っていました。そんな中に『冷蔵庫』を買う費用捻出のために『勧められた『呉服屋』の『モデル』に応募します。
・〈孤船よ星の海を征け〉: 『ドアを開けると、宇宙があった』というのは主人公のカイト。『巨大宇宙船の中に』他の少年たちといるカイトは、『船外カメラから送られた映像』で『目の前にある宇宙』を見ています。そんなところに『見慣れない子供』が現れました。『ママ、おへやにいるの、あたまイタイイタイなの』と言う少女はルナと名乗ります。『ママが心配しているよ』と彼女の『手を軽く握り』部屋へと送ってあげるカイト。その時、『見上げた「天空」』に、『異常接近してくる小惑星の姿』を見るカイト。そして、『次の瞬間。船が、大きく揺れ』ます…。
三つの短編をご紹介しましたが、学園ものかと思うと、アパートが舞台の物語、そしてさらには直球ど真ん中もいいところのSFの登場!と、この幅の振り方はもう半端ありません。それぞれの舞台の上にそれぞれに見事に起承転結していく物語だけでもなかなかに興味深い物語です。とくに、いきなりのSF世界に読者を一気に連れていく〈孤船よ星の海を征け〉のかっ飛びぶりは、それまでの短編の世界観からは全くイメージできていない読者としては度肝を抜かれるものがあります。この多彩な物語を順に味わっていくだけでもこの作品を読む意味があります。しかし、一見バラバラな短編は、上記でも少し触れた通り『星』で繋がりを持っています。それは、登場人物が『星』に関連する名前である場合、『星』を見るような場面が登場する場合、そして『宇宙』空間にいる!場合など、世界観が見事に繋がっているのが凄いです。
そして、そして、読者を唖然とさせるのが、種明かし、”スーパー伏線回収”となる最終章〈リフトオフ〉です。ネタバレになるので詳細には触れませんが、そこには短編タイトルに表現される通り〈リフトオフ〉な場面を見る感動の物語が描かれます。また、それだけでなく、なんとそれまでの六つの短編を、これでもか!と見事に結びつけてしまう加納さんならではの構成の妙に驚愕する他ない物語が描かれているのです。えっ、これってあの短編の彼だよね、あれってあの短編の彼女だよね、そして、それってそういうことだったの!と唖然とする他ない、恐ろしいまでの伏線回収が描かれる物語。そんな物語の特筆すべき読後感の良さに、しみじみと読書って素晴らしいなと感じ入りました。加納さんと言うと、多くの作品でこのように結末に読者を唖然とさせる物語を展開するのを得意にされる方ですが、この作品のすざまじい結末には、改めて加納朋子さんという作家さんの凄さを認識させられました。
『夢にここまでという行き止まりはない。夢が叶った、さらにその先があるって』。
舞台を全く異にする七つの短編がそれぞれの読み味を楽しませてくれるこの作品。そこには、加納さんならではの構成の妙を見せつけられるような緻密な設計に基づく物語が描かれていました。すべての短編が『星』に結びついていくどこかロマン溢れるこの作品。人と人とのまさかの繋がり、まさかの縁に驚きもするこの作品。
美しく紡がれていくミステリーな物語の中に、加納さんが書き下ろす小説世界の魅力を存分に感じさせてくれた素晴らしい作品でした。続きを読む投稿日:2023.06.24
とてもパワフルで前向きなメッセージがたくさん込められた作品だなって印象が強い作品。
最後の話で全ての物語が繋がりなるほど!と思う場面も多々あった。投稿日:2024.03.23
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