ティラン・ロ・ブラン 1
J.マルトゥレイ(作)
,M.J.ダ・ガルバ(作)
,田澤耕(訳)
/岩波文庫
作品情報
セルバンテスが『ドン・キホーテ』の中で,「世界一の本」と絶讃する,騎士道小説の最高傑作.騎士ティラン・ロ・ブランの地中海を巡る冒険と,絶世の美姫との愛の日々が,絢爛豪華な宮廷生活を背景に驚くほど生き生きと描写される.『ドン・キホーテ』『アーサー王物語』『デカメロン』などと同列と評される,世界文学の大古典.バルガス=リョサによる〈日本語版への序文〉を付す.(全四冊)
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商品情報
- シリーズ
- ティラン・ロ・ブラン 1
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波文庫
- 書籍発売日
- 2016.10.18
- Reader Store発売日
- 2022.04.28
- ファイルサイズ
- 3.3MB
- ページ数
- 464ページ
- シリーズ情報
- 既刊4巻
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この作品のレビュー
平均 3.0 (2件のレビュー)
-
『ドン・キホーテ』を読んだので
(https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4003272110#comment)
作中で善人郷士アロンソキ・ハーノが読…み耽っていたという『ティラン・ロ・ブラン』も読んでみた。
日本語版の序文にはバルガス=リョサが寄稿しているではないか!(^O^)
ご紹介のyamaitsuさんありがとうございます。
本書は、筆者マルトゥレイが「イングランドの騎士ティラン・ロ・ブランについての書物を手に入れたので英語からポルトガル語に翻訳してポルトガル皇太子に献上します」という体裁の小説。マルトゥレイは、武人の武功や勇気、慎重さや努力、名誉を重んじる心、主君への忠義などといった利点を書き残すことにより、人々が彼らのようになって、それが国を守ることにも繋がる、としてこの本を献上したということだ。
❐イングランド島のウォーウィック伯ウィリアムの物語
物語はティランの前世代の騎士から始まる。
ウォーウィック伯ウィリアムという騎士がいた。多くの戦争で勝ちを収め、騎士として尊敬を集めていた。しかし55歳になり、今までの戦いの贖罪のために巡礼と隠遁生活に入る。
何年か経ち、イングランドはモーロ人(この物語ではイスラム教徒をみんなまとめてモーロ人と呼んでいる)に攻め込まれた。
運命なのか神のお導きなのか、隠遁していたウォーウィック伯ウィリアムは、身元を隠してイングランド王のもとで戦の全面に出て、その大活躍によりモーロ兵を皆殺しにしてキリスト教徒の土地から追い払った。
ウォーウィック伯ウィリアムは、イングランド王をはじめとする人々の引き止めを振り切り、改めて隠遁生活に戻る。
❐騎士道ってどんなもの P129からP147あたり
隠遁していたウォーウィック伯ウィリアムのところに来たのが、イングランド王の元で騎士に序列してもらうために馳せ参じたブルターニュ名家出身のティラン・ロ・ブラン青年だった。
隠遁者ウィリアムはティラン青年に「騎士道のすべてが書かれている本」を示して騎士道について説く。
この部分を読むと、騎士道の基本がわかる。
・ローマ最初の王ロムルスの時代。
世の中から善い心がなくなると、偽りが蔓延るようになり、世の中が混乱する。そこで人々が神を敬い、正義が権威を持つようになるために正しい人を選ぶことになった。多くの人々から選ばれた人々に、この世で最も高貴な獣である馬が授けられた。「騎士Cavaller」という言葉は、「馬Cavall」がを与えられたものということらしい。ふーーん。
・騎士たちは、ローマの名誉と高貴さを示すために人々の上に立ちローマを守ることになった。
・騎士に最も必要なものは忠誠と正義。騎士には強さ掛けでなくて慈悲や徳もなければいけない。(しかし、この後の展開を読むと強いことが正義のような気もするんだが^^;)
・騎士が持つべき武器や、戦い方もこと細かく決められている。
・騎士道に背いたものは資格を剥奪される。このときの剥奪の儀式が読んでいるだけで恥ずかしいし痛い -_-;
・優れた騎士として、旧約聖書の人物(ヨシュアとか、アリマタヤのヨセフとか)、王たち、ギリシャやトロイの人物、アーサー王の騎士たちが挙げられる。(『アーサー王の死』はこちら。しかしここに出てくる騎士たちは不倫だのなんか卑怯な手だのを使っているんだが^^;
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4480020756#comment)
❐騎士の大会のこと
イングランド王は、フランス王女との結婚の祝宴として一年間の武道大会のようなものを主催する。勝敗は「降参するか、死ぬか」でつくんだが、うっかり降伏すると「名誉を汚した」と、前章で書いたような「騎士の権利剥奪式」が行われてしまう(-_-;)
「騎士とは強さも大事だが名誉や忠誠心や正義が大事だ!」とは言いつつ、名誉を守るためには相手を殺すか降参させなければいけない。結局強いが正義の世界(-_-;)
そんな命掛けの戦いを1年間行ったために死者もかなりの数に。それでも大会参加希望者は次々に増える。
❐ティランくん、イングランドで大活躍!
この武芸大会ではティラン戦いまくり怪我しまくり、そして勝ちまくり、いや、やり過ぎだろうってくらいに勝ちまくり(笑^□^)
強さの理由としては、武器の扱いがとってもうまいのと、持久力があって長時間戦っても全く息が切れないということが書かれているんだけど…いまさら言われたって ^^;
とにかく全てに勝ちまくったティランは、この大会における「最高の騎士」として表彰をされたのでしたとさ。
❐女性のガーターを旗印とする騎士団 ^^;
イングランド王は、女性のガーターを象徴とした「ガーター騎士兄弟団」を設立する。筆頭に選ばれたのはティラン君。
…それって名誉なの^^;
以前読んだ本で「武士は見掛けの美しさを気にするが、騎士はアンバランスさを気にしない。騎士は鎧甲に女性からの贈り物を飾ることにより変な見た目になってもそれを格好いいとしている」と書いてあったんだが、当時の騎士の美意識って現在からはちょっと珍妙なのよね。(否定しているわけではありません。それを当然として語られる古典を読むことが楽しく、感じられるものもあります)
❐ロードス島での戦(1312年にテンプル騎士団が解散させられ、新たにエルサレムの聖ヨハネ騎士団が結成された。聖ヨハネ騎士団はロードス島を本拠地としたため、ロードス島騎士団とも呼ばれる)
ロードス島を陸からはカイロからモーロ人が、海からはキリスト教徒であるジェノバ人たちが大軍勢を差し向けた。ティランは、船と武器を設えてロードス島騎士団がの援軍に向かう。
…まあ結果は、ティランの大活躍により、ジェノバ艦隊を撃沈し、モーロ人軍を打ち破り皆殺しに。
❐ティランくん、それは詐欺仲人では
ロードス島への援軍船に、フランス王子のファリップが同行した。途中でシチリアに下船して歓迎を受ける。ファリップ王子とシチリアの王女はお互いに淡い恋心を持ち、そこでティランはシチリアの王女とファリップを結婚させようとする。しかしこのファリップ王子、フランス王の五男であり「頭が弱くて下品」として王族の中でも軽い扱いだったようだ。そしてシチリア王女との会話も冴えないし王女としても「なんか愚鈍で悋気な人ね」と感じた。読者からしたら「この男は辞めとけ」と思ってしまう(-_-;)
しかしなんとしても二人を結婚させたいティランは、ファリップ王子がしでかすたびにフォローする。王女は「せっかくファリップ王子の本性を確かめようにも、ティランが毎回邪魔をする!」とご立腹。
まあ色々ありまして、結局ファリップ王子とシチリア王女は結婚し、とても満足したようだけどさ、読者からしたら騎士の条件に「誠実」ってあったよね?ご主君のためなら口から出任せも騎士の条件なのか?とか、王女が「ファリップ応じのことは好きだけど、人柄を見極めてから結婚したい」と動こうとしているのにティランが全部邪魔してるし、だいたいこのファリップ王子は気は利かないし下品だし気が小さいし空気読めないし会話も下手だしで大丈夫なのか(人相見によると「ずっとお腕あり続けます」という顔相らしいから、平穏に暮らせるんだろうけど)。
さらに、なぜかこの結婚騒動の裏で「シチリア王は、実は母の皇太后がパン焼き職人と浮気して生まれた子供」だということがひっそりと明かされて…、これはなんのためのエピソードだ(ーー?)
なお、この場面を読んで連想したのは「長靴を履いた猫」。この猫ちゃんもご主人の貧しい若者ために舌先三寸でお姫様のお婿さんにしちゃったもんね。実に有能な騎士であったわけだ。
❐女性のこと
騎士の使命に「窮地に陥った女性は助けましょう」がある。一度土地が敵に攻め込まれたら女性は大変な目に遭うし、不義と決めつけられたら火刑に処される。そんな女性だからこそ自分のために命を掛ける騎士が必須となる。しかしここで下手に出るのではなくて、強気に出たり気を持たせたり貢がせたり相手に「私を下僕にさせていただけるのですか!?」と言わせるくらいに強気に出ねばならん。
本書での男女遣り取りは、平和な現代からすると結構笑えてしまうところも^^;
❐ティランくんのお友達
ディアフェブス⇒ティランの従弟でティランと一緒にイングランド王に騎士に任命された仲間。
リカール・ロ・バントゥロス⇒ロードス島の戦いに参加した騎士。最初はティランと決闘騒ぎになるが、その後意気投合して生涯の友人になった、ということ。
❐騎士って…
名誉を重んじて、規則を破ったら剥奪式。日々命掛けの決闘を楽しみ、争いになったら勝ったほうが正しいと認められる。
騎士とか騎士道って聞くともっとスマートなイメージだったんだが、とにかくものすごく好戦的で話が通じない人たちのような気がしてきた^^;
日本の古典でも武士たちが日常的に命掛けの戦いを楽しく行っているんだが、命を簡単に捨てる、現物よりも思想や理論が大切だった時代の感覚を感じましたよ。
このように「その時代に書かれた書物」って、その時代の「当たり前」をそのまま感じられるのが良いですよね。続きを読む投稿日:2023.09.07
このレビューはネタバレを含みます
この長い物語は、ウォーウィック伯ウィリアムという歴代の騎士が晩年聖墳墓巡礼して死んだことにして、神に仕える隠者として帰国する場面から始まる。
レビューの続きを読む
そして、ずっと疑問だった。なぜ、こんなシーンが必要だった…のだろうかと。実際、隠者として帰国した彼は、国を救う活躍をしたのち、もう一度、隠者の生活に戻ってゆく。
きっと、騎士であり続けることは、この時代、戦い続けることを意味したのかもしれない。一流であればあるほど、数多くの決闘や戦によって殺した命との引き換えの結果だった。だから、贖罪?―命を全うするには、騎士を辞めて神に仕えるしかなかったのかもしれないと。
「名誉を守るとは難儀なものですねぇ。一難去ってまた一難とはこのことです」と、暴れる犬と戦って傷を負ったティランは、声をかけられた。騎士道の精神は、そしてその生き方は、騎士同士だけでなく犬との戦いにも理屈があることを指摘している。若いうちは健全で拠って立つべき騎士は、世間からは少し異様な世界かもしれない、と。
隠匿者・ウォーウィック伯に語る形で、ティラン・ロ・ブランの勇姿が映し出される。そして現在に続くガーター騎士団に選ばれるなかで騎士道を語る。騎士としてのバイブルとして、ドン・キホーテが愛読する理由がここにあるのかもしれない。続きを読む投稿日:2022.04.22
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