竹取物語
阪倉篤義(校訂)
/岩波文庫
作品情報
幼い時からかぐや姫の話として誰もが親しんでいるこの物語は,『源氏物語』の中でもすでに昔話として出てくるように,日本最古の物語文学といわれる.光を放つ一筋の竹の中から生まれて気高く成長した姫が,貴公子たちやみかどの求婚をしりぞけて天に昇っていく姿が,他の平安時代の物語に比べ分り易い素朴な文章で綴られている.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
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商品情報
- シリーズ
- 竹取物語
- 著者
- 阪倉篤義
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波文庫
- 書籍発売日
- 1929.06.25
- Reader Store発売日
- 2021.10.28
- ファイルサイズ
- 25.9MB
- ページ数
- 94ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (8件のレビュー)
-
この「おはなし」は読み終えた時、どうもすっきりしないことが残る。
一つには、『竹取物語』という題名なのに、主人公が翁なのか姫なのかがはっきりしないことだ。翁が竹の中から見つけた幼女を成人するまさで養育…し、それにともない裕福となるが、姫が月に帰るとともに、病になり、みすぼらしくなってしまう話が一つ考えられる。
別の見方をすれば、この世(地球)にやってきた姫が、罪がはれたので月に孵ってしまった話であ
る。
二点目にあげられるのが、六つの言葉(例―富士山)の由来話である。作者は、一体どのような動機や目的で、この話を書いたのかがパッと読んだだけでは捉えずらい。これらの点がどうしてもわだかまりが残ってしまうので苛苛するのかもしれない。
話の筋とは別に、すっきりしない点がある。「かぐや姫」という名前の名称である。色々と取り沙汰されるが後半に考察を書いて見たい。
語句等で違和感があるものは多々あるが、p52(岩波文庫)「汝、おさなき人」、「かぐや姫は、罪をつくり給へりければ」がひっかかる。「おさなき人」は「未熟者」とか訳しているのもあるが、「汝」は姫のことを言っているのではないのか。(翁ではない)
「罪」とはどんな罪なのかが読み解ければ、話がすっきりしていくと思えてならない。
ストーリーの違和感を考察する前に、姫(幼女)の命名と罪について考えて見たい。幼女はp10三室戸斉部のあきたを呼んで「なよ竹のかぐや姫」と名付けられるが、この作者は筆を滑らせたのではないのであろうか。この幼女の養父である「さかきの造」なる翁は、決して高貴な身分ではない。その娘に「姫」という尊称をつけるなんてことはあるのだろうか。この作者は、「娘」「女」が妥当なところではないだろうか。この作者は、構想の中で、かりそめにこの世に住している幼女が、いづれ月の王が迎えに来て月に還ることを想定しているので、王の娘であるこの女は「姫」であると先走って命名したのであろう。「かぐや」は、光輝く意味(赤赤や)や匂ぐわしいなど当てはまりそうだが、それらを掛言葉のように使っていた可能性は否定できない。しかし、重要な点は、この物語は幼女が成人して月に還る話であり、その際の手段として羽衣を着るという点である。
つまり「羽衣伝説」を物語化したものであり、その話のネタは色々あるだろうが、この中の登場人物(五人の貴公子)などから推定してみても奈良の話であろう。(推定しなくても)
奈良に伝わる「羽衣伝説」は、持統天皇の「春過ぎて夏来てたるらし白栲の衣干したり天の香具山」でしょう。そもそも、わざわざ山に、(それも霊山)に衣なんか干すのであろうか。まして、洗濯物を見て季節の移り変わりを感じ、詩にするのであろうか。その衣を「天の羽衣」に見立てので詩にしたのであろう。作者は、この世を去っていく者に対して、羽衣を使用する者の代表者として、「かぐや姫(香具山姫)」としたのではないだろうか。この点は、後に考察する「話」を創る動機にも関連すると思われるので押さえておきたい。
次に「罪」に関してだが、一体どのような罪を犯したのだろうかという点である。
犯罪は、殺人、盗み、放火、不義など考えられるが、月の王が言っているのだがp52「罪の限果てぬればかく迎ふるを」とあるように、ある程度の期間、隔離すれば罪がはれるという罪である。隔離してはれる罪とは、「祓い」で解決できる程度の罪であろう。当然、殺人や放火ではないだろうし、王女が盗みなどしようはずもないであろう。(一概には言えないが、訳あって盗みをすることもあろうが)
そうすると不義かなと考えてしまうが、3ヶ月という異常なスピードで成人した幼女だが、その気配が、貴公子逹や御門とのやりとりからも伺えない。肉食でもしてしまったかと考えて見るが、p53一人の天人が「壺なる御薬たてまつれ。穢き所の物きこしめしたれば、御心地悪しから物ぞ」と言っているように、地球で食べた物の方が「穢き物」であるし、肉食ではないであろう。又、薬を飲んでしまえば、解決できるものであれば罪にあたるまい。では、一体何であろうか。古代から「祓い」をしなければいけないものは、「血」を見たことであろう。すなわち、かぐや姫は、月で成人を迎えた(初潮)ととるべきであろう。月経時には、別小屋で生活する風習があったという。(近代まであった地域もある)
そこで、王は、浄めの効果があると考えられていた竹の中に、姫を隔離したのではないだろうか。
ストーリーに関してだが、この話は、翁の話とかぐや姫の話の二つから成っているとは素直に思えないのである。それは、ストーリー全体の半分以上が、石つくりの皇子(「はぢを捨てつ」)、くらもちの皇子(「玉さかる」)、あべの右大臣(「あへなし」)、大伴の大納言(「あなたへがた」)、いそのかみの中納言(「かひある」「かひなし」)、御門(「ふじの山」)の話が費やされている点である。作者は、実はこちらの話がしたかったと思えてならない。通常、人は重要な部分に時間をかけるものではないだろうか。翁の話とかぐや姫の話は、この貴公子逹の話というよりは言葉の由来談を語るために、前の二つの話を出汁に使ったのではないだろうか。前二話を主体として読むと、貴公子逹と御門の話は、どうしても邪魔なノイズとして感じてしまう。無くても話は、通じる。特に結末の「ふじ山」の話、蛇足に思えてならない。
p54「此衣着つる人は、物思ひなく成りければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して昇りぬ。」と物語を終了させてくれれば、かぐや姫の物語としてぐっと印象が残るはずだ。そこに、敢えて、「ふじ山」の由来話をもってきた所に作者の意図があるように思われる。「ふじ山」の由来話も読者が、不二の薬を山で焼いて、煙っているから「ふじ山」と呼ばれると思わせておいて、敢えて、「士」が「富」(あまた)具したから(不二)「ふじ山」という大どんでん返しである。
そもそも五人の貴公子逹の話の中の「言葉の由来」も、かなり強引である。
この「言葉の由来」の話を読んでいて、どこかで聞いたことがあるように感じる。落語の「ちはやふる」が似ているのではないか。当然、落語の成立の方が後世であるが、話の作り方が似ている。「ちはやふる…」の和歌を知ったかぶりのご隠居が、出鱈目な解釈をするあれである。『竹取物語』の由来話も、突飛なものであり、読者をからかっているようにさえ思える。
この作者は、実は「羽衣伝説」や「翁の数奇な半生」を語りたかったのではないと思えてくる。
ユーモアを伝えるため、「羽衣伝説」や「竹取伝説」を前振りして、この物語を描いたのではなかろうか。
その根本には、持統の和歌「春過ぎて…」があったであろう。この物語に出てくる和歌は、掛け詞が多い。前述した「かぐや姫」も諧謔と思えてならない。この『竹取物語』の作者の意図は、ユーモアだったのではなかろうか。
この物語をピュアな物語として読み続けさせたのは、紫式部の「物語の出で来はじめの祖」という文章に後世の人々は、ひきづられたのではないのか。『竹取物語』は確かに物語である。しかし、名作『源氏物語』の作者の一言にひきづられ続けたのではないだろうか。あきらかに『源氏』とは作風が違う。江戸の戯作の手本として捉えるべきなのでは。
『竹取物語』の発想の鮮やかさは、空を飛ぶこと(紀記にもあったが)や月を見て悲しんでいる場面から考えると、それまで月からの使者が来たとか知らせ(便り)があった訳ではないのに、迎えに来る日がわかっているということがあげられよう。すなわち、テレパシーが使えたということだ。また、御門が連れ帰ろうとすると、姿を消し、また、姿を現すという透明の術が自分の意志で使いこなせる点ではなかろうか。
1000年も前に書かれたのに、SF小説である。
映画『ET』が手本としたとささやかれるのも、もっともである。
続きを読む投稿日:2017.01.30
解説ありとはいえ、辞書なしでも大体読まれるのが何とも不思議。これが源氏物語ならましかば解説山ほど附されても多分半分もわかるまじからん。
投稿日:2023.02.03
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