- 最終巻
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)(新潮文庫)
村上春樹(著)
/新潮文庫
作品情報
〈私〉の意識の核に思考回路を組み込んだ老博士と再会した〈私〉は、回路の秘密を聞いて愕然とする。私の知らない内に世界は始まり、知らない内に終わろうとしているのだ。残された時間はわずか。〈私〉の行く先は永遠の生か、それとも死か? そして又、〔世界の終り〕の街から〈僕〉は脱出できるのか? 同時進行する二つの物語を結ぶ、意外な結末。村上春樹のメッセージが、君に届くか!?
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この作品のレビュー
平均 4.1 (363件のレビュー)
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【作品全体(上下巻併せて)を通しての感想】
えっ、嘘⁇
めっちゃ分かりやすいし、読後感もビックリするほど爽やかで、逆の意味で裏切られた作品だ。村上氏が自身で書いた作品は、結末は自分で考えてねスタイルの…作風だと「村上さんのところ」で話していた。なのでこちらとしてもそのつもりで、作品の2/3を過ぎたあたりから、3パターンぐらいの結末を想定して、準備万端で挑んでいた。だが結果として、今回の作品はちゃんと結末も用意してくれており、ある種もっとも想定しやすい結末だったので、納得感も高く、うれしい誤算の作品だ。
なおかつ今作は、僕がたまたま直近で読了したばかりの「カラマーゾフの兄弟」のアリョーシャが、作品の根幹に関わるラストの重要な場面で出てきたときは、感動で首すじがゾワっとした。僕にとっては完全にボーナス作品になった。
もしこの先、今作を読もうと思われている方がいらっしゃれば、可能であれば「カラマーゾフの兄弟」を先に読了して頂ければ、感動が倍増することは間違いなしです!
作品のあらすじは、サクッと書くと以下になります。
舞台は、1980年代の東京。「世界の終わり」という物語と「ハードボイルド・ワンダーランド」という物語が、パラレル(平行)で交わることなく、別々の物語として語られていく。「組織(システム)」で働く計算士の「私」は、かつて「組織(ファクトリー)」の一員だった生物学者の依頼により、特殊な業務を引き受ける。しかし、その仕事は、「組織(システム)」にとっても、「システム」のライバル企業である「工場(ファクトリー)」にとっても、見過ごすことのできない、極めて危険な業務であった。
一方で、高い壁に囲まれていて、一角獣が暮らしている「街」にやってきた「僕」は、自分の「影」と別れて、図書館の女の子と一緒に「夢読み」の仕事をするようになる。
どこにも行くことができない「世界の終り」に、どうして「僕」はやって来たのだろう。
「僕」は、別れた「影」と連絡を取って、その「街」を脱出しようと計画を練るが…。
内容をひとことで言うと、大人向けのファンタジーだ。淡々と物語は進んでいくが、急にガラッと、緊迫した場面に変わる箇所がある。下巻の188ページだ。ここでの鬼気迫る筆致は、それだけでこの作品を読む価値があるほど、文体としての完成度が素晴らしい。
用いられている比喩表現があまりに的確で、この場面は読んでいて、村上氏の才能をもっとも感じられたシーンだ。このページだけで、この作品を読む価値があるほどに出来上がりがあまりに素晴らしい。これが村上氏のいう「マジックタッチ」なのか。マジックタッチは、「みみずくは黄昏に飛びたつ」という村上春樹氏のファンを公言している川上未映子氏が、村上春樹氏にインタビューをしたものを一冊の本にまとめたもので、その本に詳しく説明されている。その本は村上氏を知る上で、内容が濃く、インタビュー本としての価値が非常に高い作品なので、また近々感想をアップしたく思っている。
僕のように村上春樹氏の長編小説に苦手意識を持ってしまった方が、再チャレンジする本としては、良い意味で期待を裏切られる本なので、ぜひぜひ読んで頂きたい本です!
【村上春樹氏の文体について】
最近作家の文体について興味が出てきて、ただストーリーを読むだけでなく、文章の構成についても注目するようになった。
村上春樹氏の本をたくさん読んでいる方は当然気づいているだろうが、村上氏の文章は他の男性作家と比較して、非常にひらがな表記が多い。なのでスラスラと読みやすく、読者に対する親切心にあふれた文章になっている。(詳しくは「村上さんのところ」の感想に書いています)
かなり特徴的な文体なので、過去に影響を受けた作家でもいるのかなぁと、気になっていた。たまたま本屋で見かけた村上春樹コーナー(6年ぶりの長編小説が刊行されたばかりなので、大型書店では特設コーナーを設置している書店が多い)で、「BRUTUS特別編集 合本 村上春樹 (MAGAZINE HOUSE MOOK)」という雑誌で気になる記事を発見。日本人の作家の中でもっとも文章が上手いなと思った作家を書いている箇所があった。
安岡章太郎氏という作家だ。恥かしながら初耳の作家だ。その作家の処女作の「ガラスの靴」という短編が、日本人作家の文章でもっとも上手いと感じたのだそう。そんなことを言われれば、気になるに決まっている。そこは本屋。気になったら即行動がモットーの自分は、すぐに検索。あった。岩波文庫からそれまたタイムリーに今年(2023年)の2月15日に刊行されたばかりだ。目次を見ると30ページ弱だ。そのまま立ち読みする。
ビックリした。文章が村上氏の文体にめちゃくちゃ似ている。いや逆だ。安岡章太郎氏の文体にそっくりなのだ。なおかつこの「ガラスの靴」、ただ文章が綺麗なだけでなく、30ページ弱の短編小説なのに、最後のオチが秀逸で思わず「おおー!」と唸るほどよく出来ている。価格は税込1,100円。一瞬迷ったが、今後何度か見返すほどに文体が流麗なので買ってしまった。
今回思ったこととして、やはり今後継続的に読もうと思った作家は、その作家が影響を受けた作家の作品を読むことが、結局その作家のことを知る最短の道だと、改めて実感した。
【今後読もうと思っている村上氏の本】
今作を読んで苦手意識を完全に払拭できたので、今後村上氏の本は継続的に読んでいこうと。
今後読もう思っているリストはざっとこんな感じです。
(長編小説)
海辺のカフカ
1Q84
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
騎士団長殺し
ねじまき鳥クロニクル
街とその不確かな壁
(短編小説)
螢・納屋を焼く・その他短編
(エッセイ)
村上春樹 雑文集
村上春樹、河合隼雄に会いにいく
(ノンフィクション)
アンダーグラウンド
(翻訳本)
グレート・ギャツビー
※いま現在の気持ちなので、今後作品数が増減する可能性はあります。
【雑感】
今回何よりも村上春樹氏の苦手意識を払拭できたのが、一番の収穫だ。
最近文学ばかりで哲学系を疎かにしていたので、そろそろ哲学系を読んでいこうかなと。
ただいきなりガッツリの哲学書を読むと消化不良を起こしそうだ。なので、まずはウォーミングアップとして、ショーペンハウアーの「読書について」を読みます。
日々行なっている読書について、もっと深く気づきを得たく、その助けになってくれそうな本なので、期待して読みます。続きを読む投稿日:2023.05.11
再読。
ここまで美しさを感じる著作に触れたことはない、そう思わせる程秀逸な作品。二層構造が重なり合う文学、アニメ、映画は様々あるが、これが一番良い。
まごう事なき神作品。投稿日:2024.04.10
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