星をつなぐ手(PHP文芸文庫)
村山早紀(著)
/PHP文芸文庫
作品情報
桜野町にある桜風堂書店を託され、仲間たちとともに『四月の魚』をヒットに導いた月原一整。しかし地方の小さな書店だけに、人気作の配本がない、出版の営業も相手にしてくれない、などの困難を抱えることに。そんな折、昔在籍していた銀河堂書店のオーナーから受けた意外な提案とは。そして桜風堂書店を愛する人たちが集い、冬の「星祭り」の日に、ふたたび優しい奇跡が巻き起こる。『桜風堂ものがたり』感動の続編。
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商品情報
- シリーズ
- 星をつなぐ手(PHP文芸文庫)
- 著者
- 村山早紀
- 出版社
- PHP研究所
- 掲載誌・レーベル
- PHP文芸文庫
- 書籍発売日
- 2020.11.05
- Reader Store発売日
- 2020.11.20
- ファイルサイズ
- 1.9MB
- ページ数
- 368ページ
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この作品のレビュー
平均 4.4 (38件のレビュー)
-
あなたは、『リアル書店』で『本』を書いますか?それともネットでポチでしょうか?
このレビューを読んでくださっているみなさんは間違いなく『本』好きだと思います。読書人口がどんどん減り続けている現代社会…にあって、『本』を読み続け、ブクログの場に集う私たちはイリオモテヤマネコとか、ヤンバルクイナとか、トキと同じくらい大切にされるべき存在なのだと思います(笑)。
そんなあなたは、『本』をどのように手に入れられているでしょうか?図書館派という方ももちろんいらっしゃると思いますが、購入するという場合には、大きく分けて『リアル書店』かネットという二択になると思います。
『ネットで頼めば、発売日には届くしさ、リアル書店で注文するって、そのために店の人間と会話しなきゃいけないのがだるいよ。時間も勿体ないしさ』。
ネットで注文される方の声が聞こえてきました。これは確かにそうだと思います。誰も否定できないでしょう。では、『リアル書店』を支持される方はそこに何を求められているのでしょうか?
さてここに、こんな言葉が強く印象に残る物語があります。
『リアル書店は、町の本屋さんはね、一度消えたらもう二度と復活しない。もう帰ってこないんだよ』。
そんな物語には、『リアル書店』で働く一人の主人公、『本』を愛し、『本』を読者に届けることに情熱を注ぐ一人の男性が登場します。この作品はそんな男性の真摯な思いに触れる物語。前作「桜風堂ものがたり」の心を継ぐ物語。そしてそれは、『本を読むことで人生が変わる人々はきっといる』という思いの先に『リアル書店』を守り続ける意味を感じる物語です。
『しまった』と『取次の配本予定を映し出したパソコンの前で』つぶやいたのは月原一整(つきはら いっせい)。『入荷するだろうと思い込んでいた、それを疑いもしなかった、「紺碧の疾風」の最新刊が入らない』という事態を前に『てのひらが汗ばむ』一整は、『桜風堂書店への入荷予定の冊数がまさかの〇冊になってい』るのを見ます。『今度の新刊で第二十巻』という『時代物の大人気シリーズの、久しぶりの新刊』である『紺碧の疾風』は『年齢層の高めなこの店のお客様には愛読者も多い』こともあり、『四日後の発売日には、勇んで桜風堂を訪れるだろう』と思います。『以前働いていた老舗の書店、銀河堂書店では、当たり前のように、文庫の新刊が入ってきていた』と過去を振り返る一整は、『版元営業と担当編集者に連れられた著者、高岡源が店に挨拶に来たこと』を思い出します。『油断したなあ』と焦る一整は『四日後に発売の新刊をどうすればいいのだ?どうすれば、「紺碧の疾風」最新刊を店に並べられる?』と思いを巡らせます。『有名店に客として買いにいって、それを店に並べるという手も使うことができる』、『送料や手数料はかかるけれど、取次から取り寄せるという方法もある』と思案する一整。そんな一整は、『銀河堂書店がもっと近くならよかったのにな』、『柳田店長に相談できれば』とも思いますが、『ぼくはもう銀河堂の人間じゃないんだから、いつまでも店長を頼っちゃ駄目なんだ』と『自分にいいきかせるようにつぶや』きます。そんな『一整はいずれ桜風堂書店をブックカフェにしていくことを考えてい』ます。しかし、それによって『棚を減らさなくてはいけないということ』はできないとも思う一整は、『書店なのに売る本の数を減らすのは ー』と思い悩んでもいます。『二階のフロア』を使うことも考える一整ですが、今度は『人手が足りない』と、『今の桜風堂書店の売り上げでは、正社員を雇うのは難しいだろう』とも思います。
場面は変わり、雑誌の『配達を終え』て、店へと帰った一整の『スマートフォンが震え』ました。『柳田六朗太 ー 銀河堂書店の店長だ』、『何かあったのだろうか?』と電話を受けた一整に、『お、月原か。ー あのなあ、突然で悪いんだが、あさっての夜に銀河堂に来られるか?』と訊く柳田。それに、『大丈夫だと思います。夜までにお店にうかがえばいいのでしょうか?』と答える一整は、『柳田店長に「紺碧の疾風」のことを相談できるかな』、『だとしたら、とてもありがたい。なんていいタイミングなのだろう』とも思います。一方で、『何があったんだろう?』とも思う『一整が訊ねようとする前に』、『実は、銀河堂書店のオーナーが、おまえに会いたいといっている。で、俺も一緒に呼ばれている』と説明する柳田。予想外の話に、『オーナーが、わたしに?』と思う一整は『柳田はともかく、今の自分がなぜ、そのひとに呼ばれるのだろう?』と理由が全く思い浮かびません。『風早の街では生きている伝説のような人物』という『銀河堂書店のオーナー、金田丈』は、『太平洋戦争の後、空襲で灰燼に帰した風早の街の駅前商店街を復活させた立役者のひとり』とされる一方で、『翳のある噂が多』い人物でもありました。『謎が多い人物なんだよなあ』と改めて思う一整、『物語の登場人物のような』『人物が、今の自分に、そして、柳田店長に、何の用があるというのだろう?』と思う一整。そんな一整が金田に面会する先に、思いもしなかった話が一整の前に告げられる物語が描かれていきます。
“全国の書店員の圧倒的な共感を呼び、本屋大賞にノミネートされた「桜風堂ものがたり」感動の続編”とうたわれるこの作品。2017年本屋大賞で第5位にランクインした村山早紀さんの代表作でもある「桜風堂ものがたり」は、”涙は流れるかも知れない。けれど悲しい涙ではありません”という言葉の先に、あたたかいものが何度もこみ上げてくる傑作中の傑作であり、私が村山早紀さんの作品を読み続けて今に至る起点となった作品でもあります。
そんな「桜風堂ものがたり」の続編として刊行されたのがこの作品です。村山さんは多作な作家さんでいらっしゃり、数多くの作品を刊行されていらっしゃいます。その特徴の一つが『風早(かざはや)の街』という架空の街を舞台にしているところです。”ときどき奇跡が起きる街、物語のような、不思議が起きる街”とも説明される『風早の街』で村山さんの作品は作品間に繋がりを広げていきます。「桜風堂ものがたり」シリーズが光を当てるのは街の書店です。現在、桜風堂書店で働いてる主人公の月原一整は、元々は『銀河堂書店』という大きな書店の店員でした。この『銀河堂書店』が入っている建物、それが『星野百貨店』であり、2018年本屋大賞で第9位にランクインした「百貨の魔法」の舞台なのです。作家さんの中にはさまざまな工夫によって自らの作品間に繋がりを持たせる方がいらっしゃいます。私が読んできた中には登場人物で作品を結びつけられている”チヨダ・コーキ”の辻村深月さん、”理瀬”の恩田陸さんなどがいらっしゃいます。いずれもそれぞれの作品で物語は完結していますが、繋がりを持たせることで物語に何倍もの奥行きを持たせることに成功されています。そして、この村山さんの場合は、作品の舞台を共通とすることで作品間に繋がりを持たされていらっしゃいます。物語冒頭に、それが『風早の街』と記された瞬間に読者の頭の中には世界観が浮かび上がるという効果を生み出します。そして、この世界観こそが独自の”村山早紀ワールド”の原点でもあります。また、村山さんは続編ものがやたらと多い作家さんでもあります。「桜風堂ものがたり」にこのように続編が刊行されたのは、さもありなん…という気もします。
さて、そんなこの作品はやや複雑な構成をとっています。まずは登場人物の情報に簡単に触れながらこちらをご説明しましょう。
・〈序章 白百合の花〉
→ 『本好きの大女優にして元スーパーアイドル』の柏葉鳴海の話に『桜風堂書店』が登場
・〈第一話 夏の終わりの朝に〉
→ 『「紺碧の疾風」の最新刊が入らない』と焦る月原一整が登場
・〈幕間1 〜カーテンの向こう〉
→ 『桜風堂書店の賢い三毛猫』アリス登場
※ まさかの三毛猫・アリス視点の物語!『風早の街』の世界観を一番感じるのがこの幕間1!
・〈第二話 遠いお伽話〉
→ 『銀河堂書店のオーナー』金田丈と会う一整
・〈幕間2〜ケンタウロスとお茶を〉
→ 『漫画家の道を断念し、小野田文房具店の二階でひきこもっている美大生』の沢本来未が登場
・〈第三話 人魚姫〉
→ 『銀河堂書店児童書担当』の卯佐美苑絵と、『文芸担当』の三神渚砂が登場
・〈幕間3〜Let it be〉
→ 『音楽喫茶「風猫」店主』の藤森章太郎が登場
・〈幕間4〜神様の手〉
→ 『小野田文房具店の女主人』の沢本毬乃が登場
・〈終章 星をつなぐ手〉
→ 大団円
これだけでは物語の構成は分かっても内容はもちろん分かりません。しかし、ここにこのように書いたことには意味があります。それは、この作品が、村山さんの作品にしては少しとっ散らかった印象を受けるからです。物語の大筋は決して複雑ではない、というより、かなりシンプルとも言えるのですが、〈終章〉へ向けて、〈幕間〉という表現で次から次へと新たな人物が登場しては消え、登場しては消え…と、まさしく〈幕間〉に舞台袖からこの先どう関係するかわからない人物が次々登場します。ただ、これは全て〈終章〉に向けた準備のため、感動の〈終章〉を味わうための我慢の時間と考えるのが吉の読書だと思います。ただ、少なくとも前作である「桜風堂ものがたり」を読まずにこの作品から読むことは全く意味がないと言い切れる構成だとは思います。
そして、この作品は何と言っても、前作「桜風堂ものがたり」で悲劇の主人公を演じた月原一整が新たな舞台、『桜風堂書店』を自分の理想の形に作り上げるべくさまざまに思いを巡らせる姿が描かれていきます。それこそが、『桜風堂書店』のような小さな書店の性とも言えるものです。
『大人気作家の話題作が、都会の大規模店には、山のように届き、塔のように積み重ねられた様子がニュースになる』一方で、『一冊すら入ってこない』という『配本に恵まれない』『桜風堂書店』
そんな現実と向き合わざるを得ない一整の姿が描かれていきます。
『自分はそういう店をこれから支えていかなければいけないのだ』
厳しい現実に向き合っていく一整は、一方で『いずれ桜風堂書店をブックカフェにしていくことを考え』るものの、それによって『棚を減らさなくてはいけないということ』はできないと思い悩みます。『書店なのに売る本の数を減らすのは ー』とあくまで書店に真摯に向き合う一整の考え方は、前作「桜風堂ものがたり」の主人公の思いそのままです。一方で、『今は物置にしている』『二階のフロア』を使うことも考える一整ですが、今度は『人手が足りない』と、『今の桜風堂書店の売り上げでは、正社員を雇うのは難しいだろう』という小さな書店ならではの現実に対峙せざるを得ません。そんな物語は一整に感情移入すればするほどに一整が愛する『リアル書店』というものに対する作者の村山早紀さんの思いが物語にそこかしこに顔をのぞかせることに気づきます。それこそが『本と出会う場所』という視点です。
・『近所に本がたくさん並んでる場所があることが大切』
・『ネットだと、そのときほしい本だけを買うことになる』
・『買う予定じゃ無かった本と、子どもが出会う場所が欲しい』
私は本をネットで買う場合と街の書店で買う場合がありますが、確かにその選書の結果は違うものがあるように思います。ネットでは、読みたいと思う作家さんを指定して表示された一覧から内容紹介やレビューを参考にして読む本を選んでいきます。一方で書店の場合には、見た目が勝負です。本の帯を含めた表紙、厚み、そして書店ならではのPOPを元に選ぶことになります。そこには、村山さんが書かれる通り、『買う予定じゃ無かった本』と『出会う』瞬間が訪れることが確かにあります。実際、そうやってそのお名前に繋がった作家さんも何人もいらっしゃいます。
『自分が知らない本、けれど好きになれる本が扉の向こうにあるような気がして』
書店を前にした時の気持ちの高ぶりがこの表現にはよく現れています。そう、この作品は、そんな私たち本好きにとって、失ってはならない、街の『リアル書店』の大切さを説いていく、それがこの作品のテーマであり、村山さんの心からの叫びでもあるのだと改めて思いました。そんな作品の中で村山さんはこんなことを登場人物の言葉に載せられます。
『リアル書店は、町の本屋さんはね、一度消えたらもう二度と復活しない。もう帰ってこないんだよ』。
少子高齢化とネット出版および電子書籍の隆盛に伴って『リアル書店』は随分と数を減らしました。私が住んでいる地域でもそれは同様で、シャッターが降りたまま二度と上がることなく、ドラッグストアなど他の業種に置き換わっている現状を見るとそれは決して他人事でないことがよく分かります。月原一整という『本』を愛し、それを『リアル書店』でお客様に繋いでいくことを何よりも大切にする主人公の熱さがストレートに伝わってくる物語、前作と合わせ『リアル書店』の大切さを強く印象付けてくれた物語だと思いました。
『お客様を待たせるわけにはいかない。発売日には、本が欲しい』。
『忘れられた観光地』と揶揄される『桜野町』という『山間』にあるが故に、『配本に恵まれない書店』で働く月原一整。この作品ではそんな彼が働く『桜風堂書店』を舞台に、『リアル書店』の大切さを考えさせられる物語が描かれていました。前作と色濃く繋がる続編であるこの作品。村山早紀さんの理念通り、悪人が一切登場しない安心感に裏付けされたこの作品。
げみさんによる素晴らしい表紙と共に、『リアル書店』で働く人たちの心に触れることのできる、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2024.05.13
色んな人のストーリーがあって、その人達が田舎の小さな本屋さんに集まって、新たな道を切り開くと言った作品でした。ひとつのストーリーを軸に色んなところが集まって展開するのと違っても読みやすい作品色んな人の…ストーリーがあって、その人達が田舎の小さな本屋さんに集まって、新たな道を切り開くと言った作品でした。ひとつのストーリーを軸に色んな人が集まって展開するのと違っても読みやすい作品でしたでした。続きを読む
投稿日:2024.05.13
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