Nのために
作品情報
超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか? それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか? 切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。
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商品情報
- シリーズ
- Nのために
- 著者
- 湊かなえ
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 双葉社
- 掲載誌・レーベル
- 双葉文庫
- 書籍発売日
- 2014.08.23
- Reader Store発売日
- 2020.06.08
- ファイルサイズ
- 1.1MB
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この作品のレビュー
平均 3.4 (505件のレビュー)
-
”大したことはできないかもしれないけど、少しは誰かの役に立つようなことをしたい”
そこに困っている人がいるなら、何かしら自分にもできることがあるのではないか?という感情は多かれ少なかれ誰にでもあると…思います。自分ではなく、他人のために行動してみたいというその気持ち。しかし、そんな漠然とした気持ちが一般論を離れて、具体的な誰かに特定された時、その人を思う感情はその人を知る全員に共通というわけではありません。Aさん、Bさん、Cさん、Dさんの四人がいたとして、『Aさんのために』と思う気持ちは他の三人が持つそれぞれのAさんの事情、感情、そして愛情に左右されます。でも、それぞれが『Aさんのために』と行動する時、そこにはその相乗効果として思いもよらなかった結果がついてくる場合もあります。でも、もしそれが、殺人現場だったとしたら、目の前に起こってしまった結果の前に、それぞれを思い合う目撃者たちはどのような行動をとるのでしょうか?そして、それはどのような結果をもたらしていくのでしょうか?
『一月二十二日、午後七時二十分頃、野口貴弘さん(42)宅で、会社員の野口さんと妻奈央子さん(29)が死亡していると××署に通報が入った。警察では現場に居合わせた四名から詳しく事情を聞いている』という殺人事件の発生。警察からの事情聴取に応じる『杉下希美、二十二歳。K大学文学部英文科の四年生』。『わたしが野口さんご夫妻と出会ったのは、一昨年の夏です』と沖縄でのダイビングツアーのことを説明する希美。『奈央子さんが十メートル潜ったあたりで、パニックを起こし』たことで何も見れず引き返すことになった展開に不満な希美でしたが『野口さんがわたしたちをホテルでの食事に招待』してくれたことから関係が深まります。『あの有名な、五十二階建ての超高層マンション「スカイローズガーデン」の四十八階』の自宅まで招待されるようになるなど『妹のようにかわいがって』もらう希美。『ところが、十一月に入ったあたりから、急に外出に誘われなく』なったという状況に友人の安藤と野口家に押しかける希美の前に現れたのは『普段から白い奈央子さんの顔が、もう透明になって消えてしまうんじゃないかと思うくらい、青白くなっていて、見ているのが痛々しい』姿。そして希美はそんな野口家の玄関で違和感に苛まれます。『うちのアパートのドアに付いているのと同じような、安っぽいチェーン』の存在、しかもそれは『ドアの外側に付いていた』というミステリー。奈央子のいないところで野口は『奈央子は先月流産したんだ』と希美に告げます。そんな帰り道、奈央子が務めていた会社に今も勤め、野口の部下でもある安藤から『奈央子さんは不倫をしていた』という噂を聞かされた希美。外側についていたチェーンは、『流産のせいじゃなくて、噂が野口さんの耳に入ったからじゃないかな』と監禁の可能性を話す安藤。年が明け高級レストランの『「シャルティエ・広田」が一日一件限定の出張サービス』をやっていることを同郷の友人で、店に勤める成瀬から教えてもらった希美は野口に食事会を提案します。そして、運命の『一月二十二日』に野口家を訪れる希美。『相変わらずドアの外側にチェーンは付いたままでしたが、奈央子さんの表情が明るくて、ホッとした』という希美は書斎に案内されます。そして野口が出て行ってしばらくしたところで『奈央子!』と叫ぶ男性の声。『呻くような声がして、何があったのか、とあわてて見に行くと、男の人が背中を向けて立っていた』という光景。『男の人は、西崎真人。わたしのアパートの部屋の隣りに住んでいる人』と理由が呑み込めない希美。『西崎さんがどうして野口さんの家にいるのか。どうして、野口さんも奈央子さんも倒れているのか』とわからないことばかり。そんな希美の目の前に『野口さんは頭から血を流してうつぶせに、奈央子さんは脇腹から血を流して仰向けに』倒れている姿がありました。そして、そんな時インターフォンが鳴ります。
冒頭のニュースから分かる通り、野口夫妻がマンションの一室で亡くなったという事実からスタートするこの作品。第一章では、当日野口のマンションに訪れていた4人の人物、杉下希美(Nozomi)、同郷の友人・成瀬(Naruse)、アパートの隣人・西崎(Nishizaki)、同じく安藤望(Nozomi)が順番に警察の事情聴取を受けるという想定で一人語りをしていく、湊さんお得意の第一人称を順番に回して事件を語らせていくという手法でまずは冒頭の事件の背景を読者にはっきりさせてくれます。そして、最初の語り手である希美に他者より十分に時間をかけることで、読者に自然と希美に感情移入していくようにリードする展開。このあたりの安定感は、流石の湊さんを感じさせてくれます。
そして作品は第二章へと進みますが、ここからの展開が湊さんとしては、少し新機軸を思わせます。一章ずつ、成瀬、安藤、希美、西崎と第一人称を変えていきますが、第一章の事情聴取前提の独白調ではなくそこに感情が乗ってきます。また、事情聴取の独白では見えなかった真実、そして嘘が次々と明らかになって読者にストーリーの組み立て直しを要求します。そして、ここからが、この作品における湊さんの真骨頂です。四つの章を一本の鎖のように繋ぐことになる安藤が書いたという小説『灼熱バード』という存在。『白樺文学賞』の第一次予選を通過したというこの作品は第三章で小説内小説としてその本文が登場します。『飼っている小鳥が自らの意志で焼き鳥になるように、数日間えさを与えず、熱したオーブンの中にえさを入れて、その中に誘導する』というなんとも悍しい、ホラーもしくはブラックユーモアとも取れるその小説。そんな小説に出てくる『トリ』は誰を象徴しているのか。小説内で小説を展開させるという二重構造により、読者はその奇妙な小説の印象に本来の登場人物を重ね合わせ、意識せずとも複雑な感情に囚われてしまうという、非常に巧みな構成だと思いました。
そして、この作品は、亡くなった野口(Noguchi)、妻の奈央子(Naoko)を含めて、登場人物のローマ字スペルが全員『N』から始まるところがポイントです。さらには希美が暮らすアパートの名前も野バラ(Nobara)荘、大家の名前が野原(Nohara)と徹底しています。では、書名の「Nのために」とは、誰が思う誰のことを指すのでしょうか。全員が『N』から始まる登場人物であることから、単純なミステリーではないこともよくわかります。ここで、湊さんは各章を結びつけるものとしてもう一つ、『罪の共有』という言葉を提示します。一見、『物は言い様』とも言えるその言葉は『究極の愛』のことであると希美は語ります。『その人のためなら自分を犠牲にしてもかまわない。その人のためならどんな噓でもつける。その人のためなら何でもできる。その人のためなら殺人者にもなれる』という『その人』への複雑な思い。この作品に描かれた6人の心の中にはそれぞれに該当する『その人』が存在しました。6人それぞれが、幼い頃に虐待や貧困等々いろいろな体験を経てやがて偶然にも繋がりあの日あの時にマンションの一室で出会いました。『みんな一番大切な人のことだけを考えた。一番大切な人が一番傷つかない方法を考えた』というあの時にそれぞれが思いを寄せた対象は異なります。そして、それぞれが持つ他者への感情の真意はその人しか知ることはできません。また、事件の全容を知っている人もいません。結果として起こってしまった事件から類推したところで、その事件に関わった人間の本当の心の内はなかなか見えてこないものです。相手が思ってくれているほどには、自分は相手のことを思っていないというようなことも、人間社会では決して珍しくはないでしょう。そんな世の中では『自分が守ってあげたことを、相手は知らない』ということは普通にありえます。でも一方で『大切な人を守れたのなら』というある意味自己満足とも言える感情があるとしたら、それは、それぞれの心の内に重なり合って『罪の共有』という考え方に行き着いてしまうこともあるのかもしれません。そして、それが『究極の愛』だという結論。『いかなる行為においても愛が理由になり得るのだと、証明してみせる』という証明が導く結論、そこにある『罪の共有』という考え方。ずしりと重い、そんな感情を湊さんはこの作品を通して見事に描き出していたと思いました。
それぞれの登場人物が見せる過去と現在の感情の変化を通して見る事件の真実に迫る物語。私たちがニュースとして流し読みする短い記事の裏側に隠された真実へと到達する物語。そこには、それぞれが考える深い愛が理由になる物語がありました。
奇をてらわず読みやすい、そんな物語から伝わってくる『究極の愛』。「Nのために」、とても印象深い作品でした。続きを読む投稿日:2020.08.11
事件が起きたその時、皆が皆それぞれの大切なNのために行動を起こし、真実を胸に仕舞った。
それぞれにとってのNは誰なのか、そしてその人のために隠した真実は何なのか、読み進む毎に明らかになる彼らの切ない物…語。
回想を重ねる毎に見えてくる真相が様変わりしていく湊かなえさんらしい作品。作られた真実の裏にそれぞれが隠した想いはまるで声にならない叫びのように感じた。ドラマが本当に好きでいつか原作を読んでみたいと思っていたけど、やっぱり原作も最高だった。続きを読む投稿日:2021.02.12
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