ちいさな国で
ガエル ファイユ(著)
,加藤 かおり(訳)
/ハヤカワepi文庫
作品情報
アフリカにあるちいさな国、ブルンジ。仲間たちとマンゴーをくすねたり、家族でドライブしたり、少年ギャビーは幸せな日々を送っていた。しかし、初の大統領選挙をきっかけに民族対立が激化し、内戦が勃発する。親戚や知り合いが次々と消息を絶ち、平穏な生活は音を立てて崩れていく・・・・・・。フランスで活躍するアフリカ生まれのラッパーが、自らの生い立ちをもとにつづった感動作!高校生が選ぶゴンクール賞、Fnac小説賞、第24回日仏翻訳文学受賞作。解説/くぼたのぞみ
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- ちいさな国で
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワepi文庫
- 書籍発売日
- 2020.04.04
- Reader Store発売日
- 2020.04.04
- ファイルサイズ
- 1MB
- ページ数
- 288ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.6 (13件のレビュー)
-
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。堀辰雄の『風立ちぬ』。夏目漱石の『夢十夜』。連城三紀彦の『戻り川心中』等々。
文章の美しさが印象的な作品はいくつかあるのですが、この『小さな国で』の文章も、それらの名作と同…じくらい印象に残ります。
本編である少年時代の回想に入る前に、語られるギャビーの追憶。自身と似た境遇の難民へ抱いた想い。故国を逃れたことによる居場所の無さ。
その文章の詩的な儚さと美しさに魅せられると共に、その語りの奥に秘められた哀しさが、自分の中の琴線に静かに触れてくるような、そんな感覚を覚えます。
『ちいさな国で』の著者、ガエル・ファイユはブルンジ共和国出身。ブルンジという国はこの小説を読んで初めて知ったのですが、20数年前に民族対立による虐殺が起こったルワンダの隣国で、ルワンダと同じようにフツ族とツチ族で構成され、民族対立による内戦が起こった国だそう。
1995年にフランスに移住した著者は、フランスでミュージシャンとしてデビューし、その後この『ちいさな国で』で小説家デビューしたとのこと。
文体の詩的なイメージは、ミュージシャンとしてラップを発表したり、また詩の朗読なども行っているそうなので、そのあたりが影響しているのかも。
ギャビーも著者と同じくブルンジ出身で、その後フランスに移住します。そんなギャビーのブルンジでの少年時代の回想は感情豊かで瑞々しく、なおかつエピソードも多彩。そして色彩豊かな自然や風景の描写、そして個性豊かなギャビーの友人たちや、身の回りの人々の人物描写も、詩的な文章と同じく見逃せない。
仲間とマンゴーをくすねたり川遊びをしたり、盗まれた自転車を取り返しに行く過程で、ブルンジ内の格差や貧困に触れたり、自分の中の善悪の感覚が揺れ動いたり。
そんな具体的なエピソートや感情、情景描写は国は違えど、どこか自分の中の子ども時代を懐かしく思い起こさせるよう。
日常がキラキラと過ぎていく傍ら、ブルンジでは初の大統領選挙が行われるという熱狂が、徐々に高まっていきます。一党独裁制と繰り返されたクーデターの時代の終わり。そして民主主義の誕生に国民の期待は高まる一方で、政党や軍部、そして民族による対立の火種が燻り……
選挙の興奮の傍らで、登場人物が急進的に進む民主主義の波に不安を覚える箇所が印象的。
欧米でも様々な血の歴史があって、ようやく迎えることができた民主主義の時代。それをわずか数ヶ月の間でこのブルンジが迎えることができるのか、と。
この箇所を読んだときは、色々考えるものがありました。以前、中東の現代史や、アラブの春のことを書いていた本を読んだときに「なんでこんなにも上手くいかないんだろう」と思った記憶があるのですが、その真理はここにあるような気がしました。
独裁がいいとは言わないけど、革新は常に血を流すものなのかもしれない、とはなんとなく考えてしまいました。
新たに生まれた大統領は、軍部によるクーデターにより殺され、そして同時期にルワンダでも不穏な影が忍びより、そして遂に勃発する内戦とルワンダの大虐殺。ギャビーの母親はかつてルワンダの難民で、現在はブルンジで暮らしています。そんな彼女は親戚の安否を確かめるためルワンダへ。
一方でギャビーの友人たちも民族対立の思想に染められ、中立でいたいと考えていたギャビーもその波に飲まれていき……
人々が二分され、自分たちで敵を作り出していき、そして崩れる世界とギャビーの平穏な日々。近所の人から本を借り、その世界に浸ることで、なんとか自らのちいさな世界を守ろうとするギャビー。
しかし精神の均衡を崩した母、かつての友人の変化、そして故国との別れと、その小さな世界も終わりを迎え……。
それは単に紛争の悲劇を伝えるものでは終わらないものだと感じますし、著者のガエル・ファイユの自伝的な小説という言葉だけでも片付けられない気がします。
ではその理由は何なのか。訳者の加藤かおりさんのあとがき、そしてくぼたのぞみさんの解説を読み、なんとなく感じていたその理由が、ある程度言葉になりました。
生き生きと瑞々しく、そして色彩豊かに描かれた前半のギャビーの少年時代。自分自身の子ども時代と重ね合わせると、放課後に友達とゲームをやったり、何でもないバカ話やノリがあったりという経験に合わさります。
もちろん子ども時代が全て良い思い出であるわけでもない。でもそれを含めて、子ども時代への郷愁は、セピア色なのだけど、キラキラと輝いて思い出せるような気がします。そしてその子ども時代は、思春期に入り、徐々に世間を斜に構えて見る様になり、複雑な世界と人間感情を知っていく過程で、終わっていくものだと思います。
ギャビーの少年時代は大人になる前に終わりました。世界は複雑で残酷で、人間も友人も簡単に様変わりすることを自分で知る前に、外から無理矢理教えられます。そしてたくさんの死と、回想のラスト近くに明らかになるギャビーが心の奥底にしまっていた、最も知られたくない、そして思い出したくない記憶の存在。
それは少年時代全てを、封印せざるをえないものだったのだと思います。
祖国から離れ、大人になったギャビーは小説の最後に『この物語を書きたくなった』と書いています。
それは小説の最後での、とある再会が子ども時代の象徴の一つだったのもあると思います。ですがそれ以上に、そこから呼び起こされた記憶を書くことが、彼の封印した子ども時代の、そして故国の記憶を再構成すること。自身のアイデンティティを回復し、そして先に進むための手段だったのではないかと思います。
そして著者のガエル・ファイユも、どこか同じ気持ちと祈りを込めて、この小説に挑んだのではないかとも感じます。失われた子ども時代と故国の記憶への追憶であり、再生の試みでもあり、そしてそれらを弔い、先に進むための試みの手段。それがこの小説の意味の一つだったのではないかと。
作中の文章がとにかく素晴らしかった。著者の表現力もそうなのですが、訳者のかとうかおりさんのくみ取り方や表現も素晴らしいと感じました。この訳じゃなかったら、この小説の魅力はここまで伝わっていたか、とも思います
そして、話は少しズレますが、解説のくぼたのぞみさんの名前をどこかで聞いたことがあるなと思ったら、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『なにかが首のまわりに』『アメリカーナ』の訳者であることを知り、解説での作品への理解の深さに納得しました。
先述した二作品もいわゆるアフリカ系作家の翻訳小説なのですが、その作品、そして訳文の透明感も素晴らしく、また紛争をテーマにした作品も訳されています。そういう人の解説だからこそ、作品の捉え方が素晴らしく、そして強く共感できました。
美しくて、哀しくて、懐かしくて、残酷で、重層的で心揺さぶられる。
前評判も何も知らず、手に取った作品だけに、出会えて良かったと心から思える小説でした。続きを読む投稿日:2020.07.24
フランスの高校生はすごい。
高校生が選ぶゴンクール賞を受賞した本作は、「ある秘密」同様、戦争のやるせなさと、痛いほどの悲しみを描く。これは、こういうのを読まないと本当に戦争に反対できないなと、そう思っ…た。続きを読む投稿日:2023.12.15
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。