ファミリーデイズ
瀬尾まいこ(著)
/集英社文庫
作品情報
中学校教師として多忙な生活を送っていた著者。けれど40歳を目前に、想定外の妊娠発覚! 母となり、やんちゃな娘の育児に奮闘する毎日が幕を開け──。「乳児 太もも 太すぎ」とインターネットで悩みを検索し続けた日々。どんなときも至ってのん気でマイペースな夫。教職時代に生徒たちが教えてくれた、子育てにとって一番大切なこと・・・・・・。“明日”がもっと楽しみになる、ほのぼの家族エッセイ。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- ファミリーデイズ
- 著者
- 瀬尾まいこ
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2019.10.23
- Reader Store発売日
- 2019.12.06
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 232ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.2 (52件のレビュー)
-
たまたま面白いニュースを目にしました。東京の池袋駅を起点とする東武東上線という鉄道の沿線に公園が一つあるそうです。その公園は線路の真横にあり、当然のように一日中電車がうるさく真横を走ります。これだけ聞…くとなんだか落ち着かない、立地が良いとはとても思えない印象でわざわざ行く気には全くなりません。でも公園の名前が『電車の見える公園』だとしたらどうでしょう。エッ?という驚き。マイナスがプラスに転じる瞬間です。電車が見えるという前向きな表現をもって、先入観から来る悪い印象を一瞬にして変えてみせる好例です。結果、私もその公園に是非行ってみたいと思う気持ちに変わりました。同じものでも考え方次第で見えてくるものが全く違ってくることがある。
…という前書きに続いて次に一つの『物語』をご紹介しましょう。
『中学校で働いていた私が、今ではやんちゃな娘とのん気な夫との生活に明け暮れている』という主人公・まいこ。『学校や中学生が大好きで、教師はしんどいこともたくさんある分、どきどきわくわくできる最高の仕事だと感じていた。だけど、今は今でもう一つ別の人生が始まったみたいで、すっかり楽しんでいる』。まいこは、十五年間に渡る中学校の国語教師の職を辞し、主婦としての新しい人生を歩み出しました。『いたってのん気で平和で、いつでもどこでも幸せそうに、にこにこしている人だ』という夫と、『わんぱくでやんちゃで始終動き回っている。じっとすることを知らない娘との一日は、格闘だ』という娘との三人暮らしの まいこ。この物語はそんな まいこが、夫からプロポーズを受け、ハワイでの挙式、夫との二人暮らしを経て、妊娠、出産そして娘が幼稚園で過ごすまでの日々を丁寧に描いた『物語』です。
『プロポーズをされた時も、虹が出ていた。わざわざ神戸までディナークルーズに出かけた。しかし、乗り場へ向かう途中で虹を見つけた夫に、「うわ、虹が出てる。今、言うわ〜」と告白されたのだ』という虹が大好きという夫にまさかのタイミングで告白された まいこ。幸せな二人の歩みが始まりました。作家でもある まいこ。でもその作品を読んだことがないという夫。そんな夫が虫垂炎の手術で入院した時のことでした。『見舞いに行くと「まいこの本、読んだでー」と自信満々』に まいこに報告する夫。そこには照れ臭いながらも嬉しさを隠せない まいこの姿がありました。
『私は数年前に子宮の手術を受け、その際に子どもは難しいだろうと言われていた』という まいこ。でも、『ある時、生理も来ないしどうも体調が悪い』と罹った病院で、まさかの妊娠を告げられるのでした。『母性本能なるものはいくら待ってもわいて来ない。子どもに会えるのは楽しみだけれど、我が子への愛情は呼び起こされなかった』という まいこ。でも、それは『娘をこの目で見て一緒に過ごして、ようやくみるみるわいてきた』のでした。ここで、瀬尾さんならではの絶妙な表現が登場します。『生まれたての顔は我が子ながらかわいいとは言えず小さなおばあさんみたいで「眠っておられたのに突然すみませんでしたね。お疲れ様です」と声をかけたくなるような風貌だった』。生まれたての赤ちゃんを表現する言葉は多々ありますが、これは今まで聞いたことのない絶妙な表現だと思いました。そしてもう一つ。母乳を与える際の表現ですが、『初めておっぱいをあげた時には、目をつむっているのに突然かぶりついてくる姿が新種の生き物みたいで、ぞくっとした』という表現も子を愛でる母親の新鮮な驚きと喜びにとても満ち溢れています。
作品は後半になって、まいこがかつて教師をしていた時代のことをまじえながら進んでいきます。『いつだって中学生は輝いていた。もちろん学校がすべてではないし、休んだって逃げたっていいとも思う。でも、同じ年代の子どもたちが同じ場所にいることでしか、得られないことがある』という表現には、かつてのまいこの教師としての顔がのぞきます。そうであるからこそ『あのころの日々が、しょっちゅう私を赤面させてしまう。でも、あのころの日々が、いつだって背中を押してくれている』という思いにも繋がります。学校現場はいつの時代も慌ただしいもの。家事や育児など単調で物足りないだろうと思っていた まいこ。でも現実はそうではなかった。どんな時代であっても、どんな場所に生活の場を移しても人生は常に山あり谷あり。でもそんな日々をかつての自分の経験が応援してくれる。生きていくことにとても勇気をもらえる表現だと思いました。
そして、まいこは気づきます。『娘との生活が始まってから、明日が二つやってくるようになった気がする。自分の明日と、自分のよりもたくさんの可能性と未来に満ちた娘の明日』。これを読んだ時、えっ?という思いとともにぞくっと鳥肌が立ちました。明日が二つやってくるという独特な表現。親になると、未来が二倍になる…。そう、これはまさしくこの作品の翌年に刊行された瀬尾さんの代表作「そして、バトンは渡された」にも出てきたあの表現と同じ世界観です。ここから、バトンが渡されていたんだ!と思いました。そしてこの『小説』は、このあと、まいこの力強い言葉で締めくくられ幕を閉じます。瀬尾さんの他の作品と同じく、清々しくもあったかいものに包まれる読後感。とても印象深い結末でした。
…と、書いてきましたが、この作品の情報を知っている方は、『何言ってるの、この人?』という風に思われたのではないかと思います。そう、この作品、実は『物語』ではなく、瀬尾さんの『エッセイ』だからです。それをわかった上でこのように書いたのは、私にはこの作品が『エッセイ』には思えなかったからです。『エッセイ』というと、最近、恩田陸さん、三浦しをんさんが書かれた強烈な個性あふれる作品を続けて読みました。それらと比して、この瀬尾さんの作品は、作中で何か特別大きなことが起こるわけではないという日常風景を切り取る瀬尾さんの作風そのままに、『瀬尾まいこという一人の女性の人生の一部切り取った一つの物語』にしか感じられなかったというのが正直なところでした。一度そう思い込んでしまった私にはもうこれは瀬尾さんの書かれた一つの『物語』にしか感じられません。
瀬尾さんの書かれた作品は決して多くはありません。にもかかわらず、ブクログ でのレビュー数が極端に少ないこの作品。恐らく『エッセイ』というカテゴリー、それだけで敬遠されている方が多いのではないかと推測しますが、『エッセイ』というだけで読み飛ばすにはあまりに惜しい作品です。普段、『エッセイは読まない』という方にも是非、騙されたと思って読んでいただきたい作品です。
瀬尾さんのあの作品、この作品のあんな表現、こんな表現の原点がここにあったんだと知ることになる新鮮な発見の連続。そして、いつものあったかく物語を優しく紡ぎあげる瀬尾さんの素顔に出会える、そんな『物語』がここにあります。
このレビューが、あなたにとっての『電車の見える公園』になりますように。
続きを読む投稿日:2020.04.16
最近、殺伐とした物語しか読んでなかったのですが、久しぶりに心が温かくなる本でした。ダンナにはむかつくだけでしたが、赤ちゃんの予想できない行動や成長がほんと可愛い。実際の育児や教師としての仕事はこれだけ…ではないと思いますが、ポジティブで優しい視点からの記録で楽しく読むことができました。続きを読む
投稿日:2023.05.21
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。