- 最終巻
愛と呪い 3巻
ふみふみこ(著)
/yom yom
作品情報
これで性交をする「女」にも、子どもを産む「母」にもならなくてよいのだ。自分で自分を縛り付けるような結婚生活が終わったとき、愛子の胸をよぎったのはそんな安堵にも似た気持ちだった。東日本大震災、離婚、成人後も続いた父の性暴力と母の懺悔――。今はもう世界が滅びればいいとは思わない。ただ、この怒りが消えることを祈りながら生き延びる。すべてを憎むしかなかったある「キレる17歳」世代のサバイバル物語(ストーリー)、最終巻。【電子版特典】渡辺ペコ×ふみふみこ特別対談「本当は憎しみと違うものを探していた」収録! 「家族」の物語を描く二人が漫画を通して追いかけるもの――。 ※当電子版特典は文芸総合誌『yom yom vol.59(2019年12月号)』掲載の特別対談を再録したものです。
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商品情報
- シリーズ
- 愛と呪い
- 著者
- ふみふみこ
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- yom yom
- 書籍発売日
- 2019.11.09
- Reader Store発売日
- 2019.11.09
- ファイルサイズ
- 70MB
- シリーズ情報
- 全3巻
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この作品のレビュー
平均 4.3 (7件のレビュー)
-
新興宗教を信仰する家庭に生まれ、その教祖が創った学校に通い、母親からは身体的、父親からは性的虐待を受けて育った主人公・愛子。
完結巻となる今巻では、中学生の時から20年の歳月を経て、アラフォーになった…彼女のままならない日常が語られる。
同世代のせいか、今巻の愛子にいちばんシンパシーを感じた。
特に「だんだん好きなものが増えていった」「自分の面倒だけ見てればいいのはすごく楽だ」のモノローグのくだりは凄くリアル。
サバイバーでありながら、フラッシュバックや劣等感から酒やセックスに逃避する愛子。
元彼氏に「自分を大事にしろ」と諭されたが、彼女には大事にしたい自分がいない。
彼女が大事にしたかった汚れてない自分は、父親の手でとっくに壊されてしまっている。
彼女自身には何の非もないのに、彼女が物心付く前に。
一番しんどいのは生き延びたその後。
当たり前だが、大人になってからも人生は続くのだ。淡々と。
好きな人が簡単に口にする「ずっと」を信じられない、それがどんなに軽薄な楽観に依存してるか経験済みだから。
二巻で村田さんが言った、「特別でありたいから不幸にすがってる」というのは的を射ている。
普通の子の中にまぎれたら愛子の不幸は悲惨だが、不幸な子の中に紛れたら決して特別じゃないし、誰も彼女一人に同情してはくれない。
「その他大勢の不幸なサバイバーのケース」に分類されてしまうのだ。
冒頭のひきこもりの描写、精神状態と筆跡の乱れがシンクロする描写は実に生々しくも痛々しく、切実に胸に迫る。
愛子が憎悪してる、もしくは嫌悪してる人物の顔をぐちゃぐちゃに塗り潰すのも面白い。
顕著なのが父親だが、娘に虐待している時は絶対顔が見えないのに、それ以外の団欒のシーンでは普通に描かれている。
被害者の会のメンバーが透明だったのは、人格を備えた個人としてではなく、自分とおなじ被害者として愛子が捉えていたからだろうか?
父親から、または母親からの虐待という家庭環境こそ特異だが、学生時代のいじめに挫折に家族の不和、思春期の疎外感や孤独感など、多かれ少なかれ体験している読者は多い。
私を含む三十代の彼らや彼女らに、愛子のモノローグがどれほど重たく響くことか。
結婚しなくていい。子どもを産まなくていい。育てなくていい。無理してしあわせにならなくていい。
しあわせになることと救われることはイコールじゃない。
無理してしあわせにならなくていいと理解することで、救われる人間もいる。
圧倒的に美しく正しい、「正解」のあちら側の世界で、だが汚れてしまった愛子は生きられない。
もし三十代で結婚して家庭を作り子どもを産み育てるのが、世間や猪木先生が定義する「ちゃんとした人間」なら愛子はどうしたらいいのか。
諦めることは許すことに似ている。
父親にされていることを見て見ぬふりした母。笑い話にされた屈辱。
その全てを忘れられなくても、「もう助けてほしいとは思わない」「抱き締めてほしいとも思ってない」と諦めた愛子は、そうすることで少し楽になれたはずだ。
ひとを憎むのはものすごく疲れる。
うまくいかない人生を誰かのせいにして生きることも。
たとえそれが事実でも、誰かのせいにしてるあいだは自分の人生を生きてない。
そして大抵の場合、憎まれてる側はそのことに気付かないか気付いてもどうでもいいと流し、憎しみで人生を磨り潰される被害者だけが割を食い続ける。
愛子の人生を狂わせた最大の元凶である父親は、娘に撲殺されかけたことも寝過ごして知らず、彼女にしたことを悪いとさえ思ってない節がある。
残酷な話、愛子が本当の意味で救われることはけっしてない。本当に助けてほしかったあの頃はもう終わってしまったのだから。彼女はこれからも薬を手放せず、悪い夢にうなされ、父親の影に怯え続ける。普通じゃない、普通になりたくてもなれない自己嫌悪に苛まれ続ける。
朝起きて、朝ごはんを食べて、仕事をして、帰ってから寝るまで家でダラダラする。
そんな毎日同じ無為な日々を叫びだしたい位に厭い、オンリーワンの特別な存在になりたがる人間もいるが、それは愛子のような人間が死ぬほど手に入れたくて手に入れられない「普通」なのだ。
誰かが死ぬほど焦がれるものなのだ。
雑に生きていいはずがない。
この作品はスッキリする答えをださない。
何故なら愛子の人生はこれからも続くから。
母との和解(?)も通過点にすぎないし、愛子が中高年になれば、両親の介護などの問題も持ち上がるかもしれない。
それでも愛子は生きていける。しんどくて苦しくて、やっぱり無理でだめそうで、それでもなんとか持ち直して生きていくし、そうあってほしいとこの物語を見守ってきた読者は祈る。
難点を挙げるなら母親の心情や関係性は掘り下げられているが、父や祖母のタブーに踏み込んでないこと。
父親に関しては「コレはもうどうしようもない」と、理解も和解もできない異物として切り捨ててるのかもしれないが、中年の息子が孫の服を脱がせて胸を吸ってるのを見て見ぬふりするのは、どう考えても異常では?
母の罪と罰にはフォーカスしても、高齢の祖母には一切その件を追及せず、ただただ庇護すべき弱者として描いてるのが違和感だった。
ふみふみこの半自伝的作品とのことだが、これを書かずにいられなかった作者の心中を想像すると重たい。
「ぼくらのへんたい」「qtμt」など、人間関係の歪みやジェンダーやセクシュアリティへの固執を扱った作品を読めば、作者がなんらかの性的トラウマを抱えているのは察しが付く。
彼女に漫画があってよかったと心から思う。続きを読む投稿日:2019.11.14
作者の反自伝的作品というのがまたなんとも。
幼い頃から父親からの性的虐待、
それを黙認どころか、戯れの一環とでも言うように、
見て見ぬふりや笑って見過ごす母、そして兄。
宗教にのめり込む祖母。学校。ク…ラスメイト。
阪神淡路大震災、オウム真理教、酒鬼薔薇聖斗事件、
援助交際、引きこもり、摂食障害、東日本大震災、
こんなにいろいろあったっけ!?て思い返して吐き気。
援交相手の田中に救いを求めるも軽くあしらわれる。
そこがめちゃくちゃリアルだったな。そんなもんだ。
母親の謝罪も消えない過去もとにかく苦しくて、
ずっとずっと死にたくて死ねない主人公が哀れ。
最後の最後まで苦しいけど、読んで欲しいとも思う。
てゆか、ふみふみこ作品はどれも秀逸。続きを読む投稿日:2023.07.26
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