太陽はひとりぼっち
鈴木るりか(著)
/小学館
作品情報
文学界注目の高校生作家、待望の新刊!
デビュー作として異例の大ヒット『さよなら、田中さん』の田中母娘が帰ってきました。単なる「続編」とはせず、ひとつの新しい文芸作品として意欲的に取り組んだ一作。前作で強い印象を残した登場人物達がさらに謎とドラマ、嵐を呼ぶ!!
『太陽はひとりぼっち』花実は中学生となった。ある日、家の前に見知らぬビジネスマンがやって来る。彼は一体何者?さらに別の日にはやせた老婆が家の前に座り込んでいて・・・・・・。次々登場する謎めいた人物が引き起こす大騒動。一つ一つの事件に込められた人々の思い、苦しみ、葛藤。生きることへの希望を説く「るりか節」が力強く心に響きます。
『神様ヘルプ』デビュー作『さよなら、田中さん』最終章で鮮烈な印象を残した三上信也。中学受験に全落ちし、毒親である母親から山梨県にある全寮制のカトリックスクールに送られた、彼の現在は?
『オー マイ ブラザー』花実に大きな影響を与え、数々の名言を誕生させた木戸先生の物語。オカルトに傾倒し、不思議な話ばかりしている木戸先生の人生における唯一の固執、謎が見事に解明されるラスト。全編を通してテーマとなっている太陽の光が物語に陰影を与える。
以上 全3編。(2019年10月発表作品)
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この作品のレビュー
平均 4.2 (47件のレビュー)
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あなたには、自分の『居場所』があるでしょうか?
生きるということは、さまざまな人たちと関わり、さまざまなコミュニティに関係していくことでもあると思います。義務教育を経て、高校、そして大学・専門学校…へと進み、社会へと歩み出していく私たち。社会に出たあとも、会社の中での人事異動や転勤、さらには転職…と人が同じ場所に同じ人たちと留まり続ける時間というものは極めて短いものです。それは、家族関係でも同じでしょう。かつて育ててもらった両親が年老いて今度は自らがその介護に当たる番となる、また全くの他人だった人と結婚し、子供が生まれ、かつて自身が育てられたことの逆を行くように子育てに邁進していく。人生とは常に変化と共にあるのだと思います。
そんな風に考えた時、それぞれの場面であなたの立ち位置というものも大きな変化を余儀なくされます。それは、あなたのその瞬間、その瞬間での『居場所』というものを否が応でも意識させる機会でもあります。場面によっては、
『この家に私の居場所はないの』
そんな辛い時間を過ごすことだってあるかもしれません。必ずしも
『やっぱりここが私の居場所だなあ』
と感じられる瞬間ばかりを人は送ることはできないと思います。人の世を生きるということもなかなかに大変なことだと改めて思います。
さて、ここにそんな『居場所』を一つのキーワードに書かれた作品があります。人知れぬ孤独を抱えて生きる中学生や全寮制の学校に強制的に入れられてしまった中学生のその後を描くこの作品。それは、高校一年生になった鈴木るりかさんが綴る「さよなら、田中さん」のその後を描く物語です。
『えっ、制服一式が七万円?体操着が二万?… 全部で約十二万って、これイートン校の申し込み用紙、間違えてもらってきたのかいな』と、『制服の注文書に目を剝』く母親を見るのは主人公で『この春中学に入学』した田中花実(たなか はなみ)。そんな花実に『一年中制服で暮らすか』と『無茶なことを言う』母親に『値段を聞いたアパートの大家のおばさん』が『この三月に中学を卒業した』家に頼んでお下がりをもらって来てくれました。『これなら十分着られるよ』と『身を乗り出す』母親に対して『校章に「四中」』とあるのを見て『私が行くのは三中なんだけど?』と言う花実に大家さんは『「やっぱ、ダメかね?」と、ぺろっと舌を出し』ました。そして、スタートした中学生活で『最初にできた友達は小原佐知子』でした。そんな佐知子に誘われて家へと赴くことになった花実に『こういう時のための「お取っとき」のクッキー』として『不祝儀の引き物』を持たせる母親は『賞味期限もまだまだある』と太鼓判を押します。そして訪れた佐知子の家は『ヨーロッパ風の鉄の門扉』のある『思っていたよりずっと大きな家』でした。『今、私ひとりだから』と上がらせてもらった部屋で、『ピアノ、弾けるの?』と問う花実に、それは妹のもので『超がつくほどのお嬢様学校』に通っていることを語る佐知子。そんなピアノの上に飾られた写真が『両親と妹だけ』なのに違和感を感じた花実に『祖父母用のなの』と語る佐知子。そんな佐知子は、母親が再婚し『私は連れ子っていうやつね』と自らの境遇を語りだしました。妹とは異父姉妹であること、今日も三人で祖父母の家に行っているが『私だけ異分子』なので『家にひとりでいるほうがよっぽどいい』と思っていることを語ります。『お父さんの実家、結構な資産家』で、全て妹に相続するというようなことを祖父母が話しているとも続ける佐知子。『この家に私の居場所はないの』、『この家には私はいらない子なの』と言う佐知子に、『うちもお父さんいないから』と花実が自分の境遇を告げると『知ってる。だからってわけじゃないけど… この子なら仲良くなれる…声かけたんだ』と佐知子は友だちになったきっかけについて話すのでした。『花ちゃんには私と同じ匂いを感じ』るという佐知子は、『私は起業したいの』、『ここの家からは一円ももらいたくない』と自分の家を出たい意向を花実に説明します。一方で、数日後学校から帰ってきた花実は、『アパートの前で地べたに腰をおろしてタバコを吸っているおばあさん』を見かけます。『あんた、花実かい?』と声をかけてきたおばあさんは『いんの?』と続けます。『今はまだ帰ってきてませんけど』と返すと『ま、いいや。また来るワ』と『火のついたタバコをそのまま放り捨て』行ってしまったおばあさん。中学校に入学した花実の日常と、謎のおばあさんのまさかの正体が明らかになる物語が描かれていきます…という最初の短編〈太陽はひとりぼっち〉。「さよなら、田中さん」の世界観に一気に連れていってくれる好編でした。
“デビュー作として異例の10万部を超える大ヒット「さよなら、田中さん」の田中母娘が帰ってきました”と宣伝文句にうたわれるこの作品。中学生作家として早くも二作を刊行されてきた鈴木るりかさんの三作目となるのがこの作品です。そんな鈴木さんも高校一年生となり、ますますその腕に磨きがかかって読み味たっぷりの作品を提供してくださいます。そんな今作は宣伝文句の通り、デビュー作の続編という位置付けで、三つの短編から構成されています。大基本は、田中母娘の物語ということになりますが、三つの短編とも視点の主が異なっており、また世界観は同じとはいえ連続した連作短編という感じでもないので、どんな順で読んでも楽しめる作りになっています。では、そんな三つの短編の内容を視点の主と共に簡単にご紹介しましょう。
・〈太陽はひとりぼっち〉: 高校一年となった田中花実が視点の主。小原佐知子という友達もできた花実の前に『あたしは、田中タツヨ。あんたのおばあちゃんだよ』と、母親・真千子の母親が登場します。『久しぶりの再会だろうにお互い目も合わさず言葉も交わさない』という二人。そして、そんな祖母が田中母娘の家にまさかの居候をする日々が始まりました。
・〈神様ヘルプ〉: 『全寮制の学校』へと進学した三上信也が視点の主。『十二歳の春、僕はすべてを神に捧げる人生を送ると決めた』という信也は『神父になるのだ』と『神と共に生きる』日々を送っています。母親から連絡があっても帰らず寮生活を続ける信也。そして、夏休みに入ったある日、神父から『お父様が急病だそうです。すぐにお家にお帰りなさい』と告げられます。
・〈オーマイブラザー〉: 『大学卒業後、僕は都内の小学校の教師になった』という、花実の小学校時代の担任・木戸光雄が主人公。『僕とお兄ちゃんはひと回り歳が離れている』という兄が『本当に煙のように消えたのだ。ひとりの人間が。噓のように』といなくなってしまいます。『神隠しに遭ったのかも』というその出来事。そんな木戸はやがて教師になり田中花実と出会います。
三つの短編から構成されてはいますが、分量ということでは、〈太陽はひとりぼっち〉が全体の三分の二を占め、また、読んだ印象としても圧倒的にこの短編の内容が心に刻まれます。そういう意味では、この短編が正当な続編、他の二編は”おまけ”的なイメージにも感じます。ただ、そんな”おまけ”を許容できるくらいに「さよなら、田中さん」の世界観というものはきちんと確立されていて、登場人物たちの存在感も十分と言えます。これだけの読み味を感じさせる物語の舞台を中学二年生までに構築してしまった鈴木さんの力量には改めて驚くばかりです。
そんな物語で一つのキーワードとなってくるのが『居場所』です。上記で冒頭をご紹介した〈太陽はひとりぼっち〉の中で花実の友だちとなった佐知子は自分の存在を『私はいらないピースなの。家族のパズルにはまらない、余計なピースなの。この家に私の居場所はないの』と語ります。母親の連れ子として辛い感情を内に秘める佐知子のことを思いやる花実。そんな花実の前に突如現れた祖母のタツヨ。物語の中では実の娘に対して強烈な存在感を見せますが、一方でそんな祖母の姿を見れば見るほどに花実の中に一つの思いが募っていきます。それが、思わず問いかけの言葉として花実から出た『い、居場所はあるんですか?どこかに』というものでした。この作品の中心となる〈太陽はひとりぼっち〉で、そんな二人の姿を通して『居場所』というキーワードを読者に突きつける鈴木さん。一方で他の二編では苦難の末に『居場所』を確保した存在が描かれます。二編目の〈神様ヘルプ〉では、前作「さよなら、田中さん」で『途中下車できない中学受験』に失敗し、家族から見放された信也が全寮制の学校で『神父になるのだ』と自身の道を見つけ、言葉こそ登場しませんが、『居場所』を確保した姿が描かれます。また、最後の短編〈オーマイブラザー〉では、兄が突如いなくなった家族の中、不安定な日々を送るも『秀才にありがちな変人』という立ち位置を獲得できたことで学校の中で『居場所』を見つけ、やがて教師の道へと進んでいく木戸の姿が描かれていました。”三つの小説に共通しているテーマは家族と居場所”とこの作品についてはっきりと語る鈴木るりかさん。そんな鈴木さんは”立派な家もあり家族もいるのに、自分の居場所がない人もいれば、家族から離れ、自分の居場所を見つけた人もいる。また「居場所なんか最初からなかった。この世のどこにも。生まれた時から」と言う人も”いると続けられます。『居場所』という言葉から感じられるイメージは人それぞれだと思います。人間が集団生活を営む生き物である以上、人は人との関わりなくしてこの世で生きていくことはできません。このレビューを読んでくださっているみなさんも、それぞれに自分にとってイメージする『居場所』というものがあると思います。しかし一方で、この瞬間も自分の『居場所』を持てないという方もいらっしゃるかもしれません。学校で、職場で、そして家族で、人が属するさまざまなコミュニティの中で自分の立ち位置が見つけられず、また自分の立ち位置に戸惑うという時間は多かれ少なかれ誰でも経験されたことがあるのではないでしょうか。そういう私だって、過去を振り返ると幾度かの辛い時間が思い浮かびます。『居場所』とは、決して物理的なものではありません。物理的な『居場所』があるにも関わらず、精神的な『居場所』と合致しない、これほど辛い時間はありません。そんな中で、自分の『居場所』を見つけていくこと、人が人として生きる中では、そんな試練を幾度も経験せざるを得ないのだとも思います。この作品では、そんな『居場所』が見つけられないで苦悩する立場、『居場所』を見つけた先に、苦悩していた時間を振り返る立場など、さまざまな立ち位置の登場人物達の姿が描かれることで『居場所』という言葉を読者が改めて考える一つの契機を与えてくれたように感じました。”そんな人たちが、どのようにしてこれまでを生きてきたのか、今を生きているのかは、本書を読んでいただけたら”とおっしゃる鈴木さん。「さよなら、田中さん」という作品が持つ世界観はとても大きなものです。この作品ではそんな作品から掘っていける『居場所』という言葉の先にある人の生き方を巧みに見せていただきました。高校一年生でこの世界観!と思う一方で、高校一年生だからこそ素直なその目で見える世界がある、それを写し取ったのがこの作品なんだ、そんな風にも思いました。
『あのつらい経験、過去があったから今の自分がいるんだと、堂々と胸を張って言える人は、現在が幸せな人です。そうじゃない人は、過去のあのことがあったから、今の自分がこうなった。あのことさえなければ、と悔やむんです』という木戸教諭の語りに見られる言葉など、印象的な言葉が数多く登場するこの作品。”続編もの”というものはどうしても前作の後づけのようなイメージになりがちですが、小学生から中学生、そして高校生へと成長する鈴木さんからすると、続編はそんな彼女の成長の先にある存在ともいえ、この作品では、前作の世界観の上に、作品を『居場所』というキーワードで深掘りしていく先に、オリジナルの世界観をさらに深める読み応えのある物語が描かれていたように思います。
“小さい頃から耳にしていた、母の口癖から取ったのだ。私が「ひとりで行くの嫌だなあ」とか「もし私ひとりだったらどうしよう」などと言うと、お決まりのように母から返ってくる言葉が「太陽は、いつもひとりぼっちだ」だった”
そんな風にこの書名の由来を語る鈴木さん。そんな由来もさらりと本文中に匂わせながら、ある時はコミカルに、ある時はちょっぴり読者にイヤミスを、そしてある時はじわっとした感動を与えてくれるなど、読者の心の振り幅を意識しているのを感じさせる巧みな構成と、”続編もの”だからこそ感じる鈴木さんの作家としての確かな成長を感じたこの作品。鈴木るりかさんという小説家に、今後ますます目が離せなくなった、そう強く感じた作品でした。続きを読む投稿日:2022.06.15
花ちゃん母娘を描いた「さよなら、田中さん」の続編。
とても面白い。
1番印象に残ったのは「神様ヘルプ」に描かれる三上君のその後。
三上君は全ての中学校受験を落ち、母親から疎まれ山梨の寄宿舎付きのミッ…ション系の学校に入れられてしまう。
三上君自身、母親から疎まれているかも知れないと気がついていることを心の奥に隠す。
ここには自分の意志で来ていて、やり甲斐も見つけた。家族と離れても寂しくなんかないんだ。母親から遠ざけられたのではなく自分が選んだんだ、と自分を納得させている。
そんな腹をくくっている三上君なのに花実にあったとたん気持ちがぐらつく。三上くんがいじらしく思えてきた。
すっかり鈴木ルリカさんのファンになってしまった。
続きを読む投稿日:2024.03.07
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