江戸の本屋さん
今田洋三(著)
/平凡社ライブラリー
作品情報
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。江戸時代のはじめ京都で、出版業は始まった。次いで大坂で、やがて江戸でも、本の商売が興隆する。読者層が拡がる。書目が変わる。統制の制度がつくられ、須原屋とか蔦屋とか、本屋たちの新しい経営戦略が展開される-出版を軸にして近世という時代とその文化を見直すとき、既存の歴史観の殻がやぶける。新しい近世研究を促した名著、待望の再刊。
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商品情報
- シリーズ
- 江戸の本屋さん
- 著者
- 今田洋三
- 出版社
- 平凡社
- 掲載誌・レーベル
- 平凡社ライブラリー
- 書籍発売日
- 2009.11.10
- Reader Store発売日
- 2017.12.09
- ファイルサイズ
- 2.8MB
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この作品のレビュー
平均 3.5 (5件のレビュー)
-
当初の興味は、今ではほとんど忘れ去られてしまった、江戸時代に興隆した出版文化、特に大量の書籍印刷が、彫り師による手彫りの木板(版ではない)によって支えられていたという、驚異的な事実への好奇心である。
…
パソコンでチャチャッと文書を作ってしまえる(まさにこの評価もその一つ)今に比べると、思想を文字にして普及させるための手間暇は、実に驚くべきものだ。特にこの想いが強くなったのは、江戸期に生きた盲目の国学者、そしてヘレンケラーがその生き様に励まされ、日本に訪れた時に真っ先に希望したという、塙保己一先生の『群書類従』の板木約一万八千枚を、渋谷近くにある「温故会館」で実際に見た時である。江戸時代に掘られたこれら大量の板木は、今も一枚も欠けることなく保管されている。そして何より、今もこの板木を使って摺ったものを購入できるのだ。実に驚異というほかない。全部すると666冊にのぼる群書類従の板木は温故会館の大きな倉庫いっぱいに、天井から床までを埋め尽くしている。
江戸期に発行されたこのような木板印刷の図書はゆうに千冊を超え、江戸期を通じて日本の津々浦々に普及していた書籍は一千万冊を超えるという。当時の人口が二〜三千万であったことを考えると、なんと日本人は知に対する貪欲な好奇心を持っていたのかと驚くばかりだ。しかしその出版文化は、現代には残っていない。この本づくりを支えたさまざまな職人も仕事も、やはり何一つ残っていない。群書類従の板木を手にしながら、果たしてこの板一枚掘るのに、一体どれくらいの時間を要し、そしてその対価はいかほどであったのか。。。
一ページを埋める文字数にもよるが、今の原稿用紙、四百字詰原稿用程度の板を掘るのに、約一日半。板を掘るのに、著者の原稿を「筆耕」と呼ばれる書道に覚えのある人に清書をお願いし、特殊で薄い和紙に書かれた美しい文字は、板に貼り付られ、それを掘るのである。
京都から起こった日本の出版文化は、大坂へ、そして江戸へと下る。当初江戸は京大阪の支店であったが、やがてその勢力は逆転する。特に江戸後期になると、寛政の改革による出版の検閲が、かえって京大阪に本店を持たない江戸発の新興の書手を増やし、また絵草紙など新たな庶民の関心に応える書籍が生まれる。
江戸後期に書籍への需要が爆発した理由は、多発した地震や飢饉に対する対策書、北のロシア、南からの欧米の圧力、そしてそれらに対する日本人のとめどもない「好奇心」が生み出した「知への渇望」にあった。江戸期の出版産業はそれに応え、そして明治に入ってもなお二十年までは木板印刷が残っていた。明治十年の西南戦争を伝えたのは木板ですでに当時普及していた新聞だった。
しかし、世の常であるように、江戸期の日本が生んだこの知の流れは、それが生み出したとめどもない日本人の好奇心の渦についに耐えきれずに巻き込まれて、それに応える形でようやく西洋の活版印刷が台頭する。学校ではグーテンベルク云々を教えられるが、日本ではその精神的素地を作った江戸期に普及したのは「手彫りの木板による出版文化」なのだ。つまり順番が逆である。しかしこの独自の出版文化は、須原屋市兵衛や蔦屋重三郎(TUTAYAの屋号のオリジンの一つ)のイノベーティブな姿勢を忘れて保身に入ったがために、ついに自ら滅ぶことになる。
これもある意味、日本人の気質を示している気がする。
ある意味、日本人が世界の動きに眼を覚ますのは、自らそういう滅びを招くことによってしか、期待できないのかもしれない。今の日本の産業は、まさにそういう自己満足と保身の塊であって、自ら滅びの道を歩んでいることに気がついていないように。
続きを読む投稿日:2018.11.12
江戸時代の出版事情と文化、読書層の変遷を綴る。
I 京都町衆と出版・・・京都に始まる出版販売。
II 元禄文化と出版・・・大坂での俳諧と浄瑠璃、浮世草子の流行。
III 田沼時代の出版革新・・・…江戸に花咲く出版文化。本は庶民へ。
IV 化政文化と出版・・・本は地方へ。貸本屋の成り立ち。
V 幕末の出版・・・寺子屋。地方書商、庶民の情報関心の増大。
いかに本が庶民まで届くようになったかの変遷が面白い。
幕府の出版統制や飢饉の救荒書についても、詳しいです。
また、蔦屋重三郎、須原屋についての記述は、
大いに参考になりました。
残念なのは、著者もあとがきで書いているとおり、
享保以後の京都・大坂の書商の動向が無いことですね。続きを読む投稿日:2018.06.21
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