ウォーク・イン・クローゼット
綿矢りさ(著)
/講談社文庫
作品情報
“対男用”のモテ服好みなOL早希と、豪華な衣裳部屋をもつ人気タレントのだりあは、幼稚園以来の幼なじみ。危うい秘密を抱えてマスコミに狙われるだりあを、早希は守れるのか? わちゃわちゃ掻き回されっ放しの、ままならなくも愛しい日々を描く恋と人生の物語。表題作他「いなか、の、すとーかー」収録。【解説入り】
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商品情報
- シリーズ
- ウォーク・イン・クローゼット
- 著者
- 綿矢りさ
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2017.10.13
- Reader Store発売日
- 2017.11.10
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (50件のレビュー)
-
『なにここ!クローゼットっていうより衣装部屋じゃない』
『海外ドラマで見て憧れてたんだ。ウォーク・イン・クローゼットがあるのを第一条件にして物件を選んだの』
新しい部屋に引っ越す時、あなたなら何を一…番重視するでしょうか?駅までの距離、日当たり、それとも間取りでしょうか?”人が中に入って物を出し入れできる広さのある収納スペース”、それが「ウォーク・イン・クローゼット」。『私のクローゼットが丸ごとすっぽり入るくらい広い』というその空間。部屋を選ぶ時にそれを何よりも重視した主人公の友人・だりあ。一方で『輸入雑貨店で買った』、『アンティークで一九三〇年代の品』という『古めかしく重厚感がある』クローゼットを大切にする主人公・早希。『今年買った服、去年買った服、ずっと着ている服』、それらを『世界観ごとにグループ分けする』早希。『どこに着ていくか、誰に会うための服か』、そんなことを考えていると『服が男に見えてくる』という早希。『どの服も夢見ている』と感じる瞬間。そんなクローゼットに並ぶ服たちを全て自分で洗濯し、『この充実感は他では得られない』と感じる早希。この作品は、そんな早希と友人・だりあのクローゼットの中の服がそれぞれに夢を見ていく物語です。
二編の中編からなるこの作品。〈いなか、の、すとーかー〉と〈ウォーク・イン・クローゼット〉と両者ともに少し長いタイトルのこの作品。片や全てひらがな、片や全てカタカナという対比を見せますが、内容的な繋がりはありません。〈いなか〉の方は”すとーかー”という言葉に一瞬緊張感が漂いますが、これをひらがなで表記している、その印象そのままの物語が展開します。一方の〈ウォーク〉の方は、こんなところに着目するんだ、さすが綿矢さん!という物語が展開していきます。
では、まずは〈いなか〉の冒頭をいつものさてさて流でご紹介します。
『願ってもない幸運は突然ふってくる。望んだ形でなくても、あまりに意外過ぎるluckでも、うろたえてはいけない、拒絶してはいけない』というようなことを考えてしまうその瞬間。『テープも回ってる、ただいま撮影中。生放送ではないが、本番だ。集中しないと』と緊張の中にいるのは主人公の石居透。『先生、音声入らないから、もっとリラックスした表情でしゃべりながら作業してもらってもいいですよ〜』と言われ、『ろくろを回すとき、しゃべったりしないので』と返す透は『は〜い、おっけーです』というカットの声がかかり、ようやくほっとします。『え、ほんとにおれを、「灼熱列島」がフィーチャーしてくれるんですか?』と『事務所に撮影の依頼が来たと師匠に伝えられたときは、なかなか信じられなかった』という透。『まあ、いい機会だから受けてみたらどうだ』と言われ『荷が重いけどやってみようかな』と返した透ですが、『実際はこの話を聞いた瞬間から、なにがなんでも受けると決めていた』というその取材。『作品を世に広めるのに、これほどいい機会はない』と考える透は『おれのことも作品のことも知ってもらえれば、何よりまずおれの陶器を買いたいという人が増えるだろう』とその先を見据えます。『おれの真摯な仕事への取り組み姿勢もちゃんと撮ってくれそうだし、この番組ならいいだろう』と受けたその取材。そして一カ月後、『テレビでおれの出演会が放送される十分前、茶の間のテレビの前でスタンバイしてい』た透。そこに『テレビさ、おまえといっしょに見た方が、冷やかせておもしろいなと思ってさ』と入ってきたのは『小学生からの友達。地元に帰ってきてからまた仲良くなったうちの一人だ』という すうすけ。そして『テレビから「灼熱列島」のオープニングテーマが鳴り響き、お、始まった』というその時、『こんばんは〜、果穂です、おじゃまします。あ、もう始まってる』と今度は『お互い実家が近く親同士も仲が良く、すうすけと同じく小学校のころからの付き合いだ』という四歳下の果穂が入ってきました。『全国放送で、こんなに長い時間取り上げてもらえるなんて、ありがたいねえ』と感慨深げな母。『お兄ちゃん、すごい!でも陶器をちゃんと作ることは、おろそかにしないでね』と言う果穂。『それは気を付ける。浮かれてちゃだめだな』と返す透。『最後まで画面のおれは冷やかされ続けた』ものの、『みんな集まってくれてテレビを見ていると、幸せな気分になった』と感じる透。『もう故郷には戻らないつもりだった』という透は『戻ってきて本当に良かった』と実感します。そんな透の仕事場である『工房』は実家から『徒歩でも自転車でも通える距離』にあります。ある日、『工房』へと向かった透。『鼻歌を歌いながら、デニムのポケットから鍵を取り出し、ドアの鍵穴に差し込』んで扉を開いた次の瞬間、『中へ入ると、見知らぬ女がろくろを回していた』という目の前のありえない光景を見て『血の気が引く』透。『だれだ⁉︎なんでおれの工房にいる⁉︎』という衝撃の事態に、幸せの真っ只中にいた透の人生が大きく揺さぶられていきます。
…という中編。”ストーカー”を扱った作品というと柚木麻子さんの「ナイルパーチの女子会」がその恐怖を存分に味わわせてくれます。この作品でも『いったいこいつはだれなんだ?おれとはまったく他人のはずだろう?なのになぜ、おれの目の前から消えてくれない?』というストーカー行為に苛まれる透の姿が描かれていきます。一方でマスコミに登場する機会が増えていく透。人生の光と影が対になって展開する透の人生。そして、ストーカー行為は『もとの生活が取り戻せなくなるほど』破壊力があると気づいた透、『これは、された人にしか分からないだろう』と実感する不安な日々が続きます。しかし、それが後味の悪い読後感に繋がらないのは後半にまさかのどんでん返しが待っているからです。巧みな伏線の上に用意されたそのどんでん返しは、この作品の印象を一気に変えてしまいます。そして、そのことは、透の人生の価値観にまで影響を及ぼしていきます。それは『大きなできごとから日常の些細なことまで、遠いものから近いものまで、数えきれないいろんな力が働いて、おれはここにいる』というなんだか人生を達観するかのような心境。そんな高みへと上昇していく結末を見る物語は、えっ?ストーカーの怖さを描いた物語だったんだよね?とそのことを忘れさせるくらいに清々しいスッキリ感を読者にもたらしてくれます。この辺りの綿矢さんの構成の上手さには本当に感服するしかないと思いました。
そして、二編目の〈ウォーク〉です。〈いなか〉もいいですが、〈ウォーク〉は、より、綿矢さんの世界を堪能できる作品です。綿矢さんと言うと作品冒頭の出だしの一句にどうしても期待してしまいますが、この作品はこんな言葉から始まります。『時間は有限だ』というその言葉。大胆とも言えるその言葉。それは主人公だけではなく我々誰しもが課された生きていくための基本条件でもあります。その言葉のあとを『でも素敵な服は無限にある』と続ける綿矢さん。人によって感じ方に違いはあると思いますが、特に男性は”えっ?”という思いを直後に抱くのではないでしょうか。そんなこの物語は、『服』というものに、違う視点から拘りを見せる二人の女性の物語でもあります。『純粋に〝好き〟を一番にして選んでいたころと違い、現在の私のワードローブは〝対男用〟の洋服しか並んでない』という主人公の早希。友人で芸能人でもある だりあから『私にとっては、きれいな服は戦闘服なのかも』という話を聞いて『なら、私の服と一緒だ。私たちは服で武装して、欲しいものを摑みとろうとしている』と感じます。そんな早希は一方で『いま、私は、どんな時代にいるんだろう』とも考えます。『すべてが中途半端で、両方向から力を加えてむりやり伸ばしたセロハンみたいに間延びして、描かれた絵柄が歪んでどんなものかよく見えない』と綿矢さんらしい比喩の表現がその感情を上手く説明していきます。そんな早希が友人 だりあのために奔走していくこの作品。解説の尾形真理子さんは『わたしたちは、なんのために服を着るのか。それはもはやなんのために生きるのかと同じくらい難しい問いになっています』と語ります。服を着るということは、その服を選ぶ、そして着るというその先に、その服を着て会う人との関係を考えていく行為でもある、そのことに改めて気づかされます。上記したように、それを『戦闘服』という言葉で表す早希。そんな彼女が、『戦闘服』をどう捉え、どう扱っていくのか、そんなところから主人公・早希の生き様がふっと浮かび上がってくるこの作品。こんなところから人というもののあり様を描いていく綿矢さん。流石の目の付け所だととても感じさせられた作品でした。
これら二つの物語は、綿矢さんの作品としては、起承転結もはっきりしていて、良い意味で、とても読みやすく、とてもわかりやすい作品だったと思います。その分、他の作品に比べて、ハッとするような言葉が登場する割合こそ低くなってしまっていますが、目の付け所の面白さ、構成の巧みさ含め、読後に清々しい満足感が残る、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2020.11.12
このレビューはネタバレを含みます
憧れてた物が手に入ったとして、自分には不相応なことってあるよな。
レビューの続きを読む
1つ目は芸能人になった友達が妊娠してパパラッチに追われて狭い部屋に引っ越して、そこもバレて逃げてる途中にホテルのトイレで産まれそうにな…る話。
無事病院で産まれて、お礼として友達のウォークインクローゼットにあった物をもらう。似合わないけど、いつか着こなしてみせる!という前向きなラスト。
”おれが変わったら、あなたのことを好きになるよ、って言われたのが、引っかかってる。変わること前提で愛してもらうなんて、おかしくないか?”というセリフが心に残った。
2つ目はファンストーカーと幼馴染ストーカーの話。愛情とストーカーは紙一重。
表現者として発信していること、その意図がどうであれ、受け取り方は受け手次第。
露出しといて「お前には見せてない」っていうのと似てるな。実際好意のある相手には見せにいってても、キモいオヤジに見られたら嫌、という身も蓋もない現象。でもそういう服を着ている以上、注目を集めるのは仕方ないし、自分が好きで着ているだけでも、見せるために着ていると思うかどうかは見る側次第で、見る側の意識が変わらないと状況は変わらないんだろうな。
2篇のタイトルがパズルみたいで面白かった。
ウォーク・イン・クローゼット
いなか、の、すとーかー続きを読む投稿日:2024.03.27
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