晴れたらいいね
藤岡陽子(著)
/光文社文庫
作品情報
夜勤中に地震に見舞われ意識を失った看護師の紗穂。気がつくとそこは1944年のマニラで、さっきまで病室にいた老女の若き日の姿になっていた! 困惑を抱えたまま、従軍看護婦として戦争に巻き込まれる紗穗。それでも、持ち前の明るさで数々の理不尽に抗いながら、過酷な日々を駆け抜けていく。反戦の意志と、命を背負った女たちのかけがえのない青春が紡ぐ圧倒的感動作。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 晴れたらいいね
- 著者
- 藤岡陽子
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社文庫
- 書籍発売日
- 2017.08.01
- Reader Store発売日
- 2017.10.27
- ファイルサイズ
- 0.3MB
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (26件のレビュー)
-
日本赤十字社から戦地に派遣された従軍看護婦も、戦争末期のフィリピンの惨状も知らなかった私だったが、本書を読むに当たって、あまり影響がないと思われたのは(勿論、これを読んで興味を持つことはあると思うが…)、本書で教えてくれる大切なことは、また別のところにあったからだと感じられたからである。
平成生まれの看護師、「高橋紗穂」が夜勤中に見舞われた地震によって意識が遠退き、気が付いたら、1944年のマニラの地で倒れており、彼女の意識は紗穂のままであったが、その身体は、つい先程まで看護していた「雪野サエ」のものであり、当初紗穂は、何故こんなことになってしまったのかと悲嘆し、早く元の世界に還りたいことばかりを願っていたが、その心境は戦地に於ける青春時代を約一年間共にした、日赤救護班の仲間たちと生きることによって、少しずつ変わっていった、それは当たり前のことができることの幸せであった。
『そばにいる人が生きていて、ご飯を食べて話をして歩いて笑って。そんな当たり前のことがこんなに嬉しいということを、私は教えてもらった』
そして、そんな幸せを現代人の彼女が噛み締めることで、如何に戦争が愚かで悲しいものなのかを、より実感させられた、それは命も心も粗末にすることなんだと思う。
『自分は命が産まれる手伝いをする看護婦だ。だから、命を簡単に懸ける戦争を決して許さない』
日赤救護班看護婦は、目の前にいるすべての傷病者を救護するよう教えられており、そこには性別も年齢も国籍も関係ない、そんな彼女たちだからこそ実感できることもあり、時には『看病した兵隊が敵を殺せば、あなたたちが殺したのと同じ(一部、言葉づかいを変えています)』や、『看護婦っていっても戦争の加担者』などと、理不尽な事を言われることもあったが、それでも当時の、『私たちは求められてここにいる』ことを誇りに、できることをやりながらも、心のどこかでは誰が起こしたのか分からないものに、召集令状の紙切れ一枚で派遣されて、巻き込まれることへの虚しさも抱いていた。
しかし、そうした思いは決して口には出さずに、心の内に留めたままにしていたのは、周りの仲間たちのみならず、当時の風潮でもあった『国のために尽くすつもり』で、命は二の次であることを、まるで美徳のように捉えていた時代的背景が確固として立ちはだかっているからであったのだが、そうした、『弟のために死のうと考えていた』から、やがては『弟のために生きて帰りたい』という心境へと奇跡的に変化していくことで、戦争の虚しさと命のありがたみを教えてくれた、そうした当時の時勢からはまずあり得ないような、ある意味、痛快で爽やかな思いを引き出させてくれたのは、平成の時代からタイムスリップしてきた、紗穂のおかげなのである。
『いまの自分の唯一の武器は、この戦争の終わりを知っていること』
本書に感じられた、戦争を描いた小説としての独特さは、まずここにあり、過去にタイムスリップした人間が歴史を変えるような大活躍をするというのは、割とあると思うが、ここでの紗穂は、平成生まれならではの常識や価値観を身に付けているので、当時の人達からすれば、『あなたの常識は、私たちが持っているものとは違う』といった不思議な人となり、それが却って、物語を面白くも痛快なものにしている一方で、そんな彼女の当時とは違った常識に、皆が憧れを抱いていく展開に考えさせられるものもあったが、かといって、歴史は大きく変わるわけではない、寧ろ、とてもささやかな一人一人の命を繫ぎ止めるような役割ではあるが、実はそれこそがとても大切なのだという、至極、現実的な視点で描いていることに、私は女性ならではの慈しみを感じられ、それは、一気に形勢逆転して勝利を収めるようなすっきりする話でもなく、とことんリアルで凄惨な描写をしかと見ろ的な話でも無いということである。
『命を生み出し、そして育むのに、女たちがどれほどの時間と力を費やすのかを、男は知らない』
そして、そんな眼差しは上記の言葉からも感じられるように、女性側から見た男が引き起こした戦争といった一面を持ちながらも、そこにくどさを感じさせないのは、300ページ以上ある本書を書き上げた藤岡陽子さんの、丹念に紡ぎ上げながらも、どこか軽やかで爽やかな雰囲気を持つ文章力にあるのだと感じながら、別に男性蔑視の視点ではない、寧ろ、それぞれを平等に眺めている姿に好感を持ちつつ、目を覆いたくなる場面もありながら、上空を飛ぶ敵機よりも体を這う虫の恐怖に気をとられていた描写が表れるのには、やはり女性でないと書けない奥ゆかしさがあるようで、そこに戦争を描いた小説として、もう一つの独特さがあったことに、もしかしたら、これが藤岡陽子さんの作品の魅力なのかもしれないと感じられた、どんなに苦難を伴う時代に於いても、それは紛れもなく彼女たちにとって、かけがえのない青春の日々であったのだ。
そうした魅力は、平成からやって来た紗穂も、当時のサエの仲間たちも、お互いに教えられることがあったことに、それぞれの時代性を考えさせるものがありながら、もう一つ、女性的な眼差しの素晴らしさを取り上げなければならないのが、斎藤美奈子さんの解説にもあった、タイトルについてである。
このタイトルを見た瞬間、私はすぐにある曲を頭に思い浮かべたのだが(世代なので)、まさか本当にそれだとは思わなかった上に、歌詞についても新たな発見があったのが今更のように嬉しくて、この曲が恋人に向けたそれじゃ無かったことを、本書で初めて知った。
『昔みたいに 雨が降れば 川底に
沈む橋越えて』
特に上記の部分は、物語の展開とも相俟って心打たれるものがあり、また、これが1944年のマニラで歌われているというのが、なんとも不思議な感覚でありながら、なんて清々しい光景なんだろうと感じられて、特に皆で黙々と険しい山道を歩む中で、ふと誰かが歌い出した瞬間、堰を切ったように、次々とそれに続けとばかり、皆の声が重なり合って、やがては一つの大きな感情を伴った力に変わる、歌には、そんな皆の心をまとめ上げる叙情的高揚感がありながら、これを従軍看護婦たちがやっていることに、また違った感慨を抱かせるようで、当時の戦争の状況も正確に分からず、時折現れる敵機の影に怯えながら、食べ物もろくに無い中を、漠然とした目標に向かって歩まざるを得なかった彼女たちの心境を、まるで慮ったような温かみのある『if』の物語には、女性だからこそ書ける、そんな眼差しの必要性を証明するのに充分なのではないかと感じさせる程の、その軽やかさに、私は未来の可能性を見た思いがした。続きを読む投稿日:2024.05.18
不思議な感覚の小説でした。その中で
今では考えられない戦争中のことを思い、沢山の人がいろいろな意味で戦いぬいてきたんだと改めて平和の大切さ感じました。投稿日:2023.09.10
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。