この作品のレビュー
平均 4.0 (8件のレビュー)
-
抜群の雰囲気作り! そしてスムーズに話を進めていく文章力!
遠藤周作のイメージは『海と毒薬』『沈黙』のあらすじであったり、本人がキリスト教徒であったり、などがあって、固い・説教くさい、という印象を…勝手に作っていたのだけど、初めて読んだ遠藤周作の短編集『怪奇小説集』は、それを完全に覆されました。
冒頭二編「三つの幽霊」と「蜘蛛」から、一気に心つかまれる。「三つの幽霊」は著者が実際に体験したとする奇妙な心霊体験らしきものが語られる話。
外国での体験談だったり、ベタに民宿での体験だったり場所は色々あるのですが、どの話でも得体の知れない気持ち悪さ、日本の怪談らしいジメッとした不快感、何かがまとわりつくような感覚がたまらない。
怪談話なのでスッキリとしたオチがないのですが、それが実体験感をあおり、また肌寒い感覚をまとわせる。
あくまで個人的な意見ですが、怪奇小説には明確なオチも、読後の感動や教訓もいらないと思っています。
とにかく不気味な雰囲気を演出する文章力。イヤーな感覚を五感で訴える描写力。話を前へ進めつつも、怖さや不気味さに浸るテンポも忘れない筆運び。
この三点があれば、キレイな解決も、読後の感動や教訓も二の次なのです(と書きつつも、この三点もそれ以上にハードルが高い気がするけれども……)
「蜘蛛」は、その三点が全てそろった作品だったと個人的に思います。
叔父の怪談を語る会に招かれた私は、その帰り道、同じく会に参加していた男とタクシーを同伴することに。タクシーの道中、男が語ったこととは……。
これも描写が光る。男の気持ち悪さや、臭いの描写。雨がしとしとと降る中、進むタクシー。視覚、聴覚、嗅覚など文章から様々な感覚の刺激を受けるよう。
そして嫌が応にも想像力をかきたてられてしまう男の不気味な話に、ラストの得体の知れない空気感が残る幕引きと、怪奇小説に欲しいと思っているもの全てが、この一編に詰まっていました。
描写力では「ジプシーの呪」もスゴかった。
かつて船乗りとして、世界を周り各国で女性とそのときの限りの逢瀬を楽しんでいた男。あるとき、一人の女性と関係を持った船乗りは、軽い気持ちで彼女と結婚の約束を交わすが……
視覚的な気持ち悪さはもちろん、音の描写もたまらなく不快で本当に気持ち悪くて、最高の作品でした。「蜘蛛」もそうですが生理的な嫌悪感を、ここまで感じた作品は久しぶりです。
そうした気持ち悪い描写も良いのですが、心理描写で読ませる作品もあって、それもさすが文豪の作品だと感じます。
「霧の中の声」は夫との単調な結婚生活を過ごす主婦が語り手。彼女はあるときから、予知夢のような夢を見始めて……
近所に越してきた青年への憧れ。ケチで小言の多い夫への不快感。結婚生活への飽きと、刺激を求める心理。一方で平穏が一番と想う心もせめぎ合い……
女性の心理や日常の退屈を感じる描写と、隣の青年へのときめきと期待、そして予知夢という不思議な出来事が絡み合う。オチ自体は読みやすいけど、こちらも文章の運びと心理描写の丁寧さで話を引っ張っていきます。
「時計は十二時にとまる」は脱力感、そしてなぜか切なさを残す不思議な短編。三人の週刊誌の社員たちが、怪談話を確かめるために廃旅館に向かい、その案内役に歓迎されるのですが……
コントを見ているような展開もあり、そして十二時にとまる時計の真偽を確かめた後に起こる、語り手の心中だったり、一概に怪談とは言い切れない。でもある意味、怪談にまつわる矛盾と、寂しさを感じさせる話になっています。
バラエティー豊かだなと思うのが、こうした恐怖小説の皮を被っているのに、思わず脱力してしまうようなオチが待っている短編もあるということ。
「なんじゃそりゃ」と思わず苦笑いを浮かべてしまうような短編もあり、思いっきり作者の手の上で転がされたような感覚に陥る。それもまた面白い。
そしてどこまでが本当で、どこまでが冗談なのかちょっと考えてしまう。でもそれすらも、作者の手の平の上で転がされているのかもしれない。
先に書きましたが、基本的には教訓も感動もないし、怖い話は明確なオチもありません。それでもイヤーな雰囲気に酔うような感覚は絶品の一言!
そして、恐怖に構えていたら、突然すっ転ばされる、お茶目な側面もある短編集です。
文豪は何書いても上手いんだなあ、と心底思いました。遠藤周作の有名どころの『海と毒薬』『沈黙』あたりも読んでみたい。一体どれだけ、この『怪奇小説集』との温度差を感じるのかしら……続きを読む投稿日:2020.10.10
このレビューはネタバレを含みます
バラエティに富んだ15編の恐怖譚。
レビューの続きを読む
熱海の旅館での実話が怖い。状況が頭の中で再生されてしまって、考えれば考えるほど怖い。
文学賞を取る作家の話と、不気味な夢をテーマにした話は読み終わるのが惜しかった。…
幽霊というよりも、この世に残り続ける執念というのはあるのかもしれない。怪談だけではなく遊び心が感じられるものも多数で、最後は少し笑った。読後に怖さを残さない短編集だった。続きを読む投稿日:2021.07.21
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。