ハティの最期の舞台
ミンディ メヒア(著)
,坂本 あおい(訳)
/ハヤカワ・ミステリ文庫
作品情報
演劇の才能に恵まれ、誰からも愛されていたはずの少女は、なぜ命を落としたのか。保安官が突き止めたあまりにも切ない真相とは?
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商品情報
- シリーズ
- ハティの最期の舞台
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ・ミステリ文庫
- 書籍発売日
- 2017.08.15
- Reader Store発売日
- 2017.08.15
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 464ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (9件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
ハティの魅力、それにつきると思う。
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この物語のハティ以外の語り手であるデル保安官と先生であるピーター、およびハティの両親や友人のポーシャ、その他町の人々、それに加えて読者がハティの魅力を感じることで、無残な死体になって発見された彼女を悼み、どうしてこんなことが起きたんだろう?と悔やむ。
それによって、物語は「悲劇」として、ある意味、美しく、ロマンチックに語られていく。
たぶん、これは“ミステリー”小説ではない。
だって、ハティを殺したのは誰か?というのは、この物語では小さな謎にすぎず。
それが明かされる件は、この話の中では小さなエピソードにすぎない。
それに対して、ハティはなぜ死んだのか?という、誰でも想像がつきそうな謎ともいえない謎がこの物語の核になっている。
舞台は、ミネソタの小さな町、パインヴァレー。
その町の保安官である、語り手の一人であるデルは町を以下のように語る。
「都会の狂気じみた犯罪は別世界の出来事」、「商店街はいつも閑散としている」、「農作物の価格が下落すると、人々はローンの支払いに困る」。
つまり、去年のアメリカ大統領選のニュースでよく出てきた、農業を営む白人中心の、いわゆる“繁栄から取り残された町”なのだろう。
ハティは、10代後半のあの生気に満ち溢れた、いいところもわるいところもあるという意味で普通の女の子。
愛し育ててくれる両親がいて、兄はアフガニスタン(だったか?)に兵として行っている。
父親は、語り手の一人であるデル保安官と長年の釣り友だち。
当然、デルもハティを子供の頃から知っていて、自分の子供の様に愛している。
そんなハティは、観ている人を注目させてしまうくらいの芝居の才能を持っていて、その才能に自分をかけて見たいと夢見ている。
この物語の語り手の一人であるハティは、物語の前半で、自分とその町をこんな風に語る。
「フットボールというのも、町のみんなとわたしを隔てるひとつの要因」、「ボールをあっちこっちに投げることのどこがそんなにすごいのか、わたしにはさっぱり理解できない」、「ここ以外の別の場所から来たという事実がどんなにすごいことかわかっていない」と。
確かに、自らの芝居の才能の可能性を試したい夢に取り付かれている若いハティからすれば、そんな白人のコミュニティの古い価値観が支配する町なんて、イモくさいだけでしかないだろう。
誰しも10代のあるタイミングで大人の世界を垣間見て。
今まで親たちに守られた生活の中では知らなかった世界に魅了され、今までの価値観が変わる時があると思うが、ハティはそれを自らの芝居の才能を通して知ったということなのだろう。
でも、そんなハティは、その町を覆う古い白人のコミュニティ独特の価値観を信じる人に愛されていた。
愛されていたからこそ、伸び伸びと育って、芝居の才能を育むことも出来た。
そんなハティを愛する町の人たちの思いは、デル(保安官)のパートで語られるわけだが、そのデル(町の人)の思いと、ハティの意識や夢が食い違っているところが、この話の一つのフックなのだろう。
そのフックがあるがゆえに、デルとその友人であるハティの両親の悲しみや怒り、やりきれなさがひしひしと伝わってくる。
だからこそ哀切感が高まり、さらに一種の甘美さが漂ってくる。
物語では、最初のハティのパートの後、すぐにデルのパートで想像もしたくないほど無惨な死体として発見される。
それは常に頭にあるのに、読んでいるストーリには魅了されるロマンチックさがある。
でも、そのロマンチックさには、ハティの死というのは絶対必要な要素なのだろう。
ハティは、その死の直前に「マクベス」の女王の役を演じて、観客から絶賛されるのだが、もしかしたらこの物語は、悲劇として有名な「マクベス」とどこか重なるところがあるのかもしれない。
3人目の語り手は、ハティの学校の新任の先生であり、芝居の指導もしているピーター。
26才、都会(ミネアポリス)育ち。ベジタリアンでランニングが趣味。
妻のメアリミネアポリスで働いている時、ピーターと出逢った。メアリの母の健康がすぐれないことで、パインヴァレーで暮らし始める。
メアリはその町に戻ってきた時、ピーターに「都会にいると木は見えない」、「この土地にいると木の本来の姿がわかるの。引っ越してここに戻ってきた時、そのことに初めて気がついて、久しぶりに息が出来た気がした」と言うくらい、そのパインヴァレーの地に馴染んでいる。
都会暮らしの価値観に染まっているピーターは、そんなパインヴァレーでの暮らしが自分には合わないことにすぐに気づく。
つまり、ピーターは、ハティからみると「ここではないどこから来たことがどんなにすばらしいことか」な人であり。その町そのものであるデルにとっては、都会から来た異分子なのだ。
最初、ピーターはハティとSNSでのやり取りでつながっている。
二人は、お互い相手が誰なのかはわかっていない。
ハティはそのSNSのやり取りの中で、その町の人間にない洒落た会話から相手に魅かれていく。
10代の半ばくらいから、人によっては20代くらいまで。恐らく誰しもがその頃に、今までの自分が知らなかった新たな世界を知って。そのきらびやかさゆえに、それに強く憧れ、それまで自分が好きだったものやこと、あるいは人間関係までガラリと変わってしまうことがあると思うが、ハティのそれもまさにそう。
そういうタイミングというのは誰しもあるわけで、それを悲劇の種とするところは(ある意味定番の展開とはいえw)上手いと思う。
そんなハティは、さらにSNSの相手に恋心を抱くようになっていく。
ある時、ハティはその相手が自分の学校の先生のピーターであることに気づく。
自分の恋心を抑えられなくなったハティは、そのSNS上の相手に自分が出る芝居を、自分が出演するとは書かず、その時の衣装だけ教えたメッセージを送る。
ピーターが、それが自分の教え子であるハティと気づいたことで、ついに悲劇の歯車が回り出す。
SNSの関係から現実の関係になったことで、ピーターはハティを拒む。
それはそうだろう。だって、ピーターはハティの学校の先生だし、結婚もしている。
でも、ハティは執拗にピーターの愛を求める。
…のだが、実は、そのハティの執着はよくわからなかった。
確かに、愛は盲目なわけだし。また、“ここではないどこかへ”というハティの憧れと背伸びが、ピーターを愛する気持ちにいつの間にかすり替わってしまったということはある気がする。
でも、本当にそれなのか?
その辺を、ちゃんと描かれずに説明になってしまっているのはちょっと残念なところ。
ついでを書けば、訳者があとがきで「ハティの場合は仮面の数が多すぎた」と書く、ハティの仮面の使い分けの上手さも、説明ではなくストーリーとして描いてほしかったかなぁー。
確かに、両親やデル等町の人に見せるハティ、ポーシャ等友だちに見せるハティ、ピーターに見せるハティはそれぞれ違う。
でも、そのくらいの違いなら、そのくらいの年頃だったら誰だってやっている。
ハティはピーターとの関係のカモフラージュとして、フットボールのスターであるトミーとつき合うようになって。カモフラージュだけに、ハティは自らの都合のいいようにトミーを使うが、それだって男女の間でよくあることだ。
それで「ハティの場合は仮面の数が多すぎた」とするにはちょっと弱いように思う。
ハティとピーターの関係は紆余曲折あるものの、ピーターがハティの18歳の誕生日にミネアポリスに連れて行くことで結実する。
去年読んだ『誰かが嘘をついている』もそうだったけど、最近の女性作家が描く男女の交歓のシーン(エッチのシーンじゃなくねw)にはハッとさせられる。
こんな風に描くんだなーというか、こんな風に感じるんだなーというかw
この著者が描く、ハティとピーターが過ごすミネアポリスの夜もロマンチックなのにリアルでちょっとドキッとした。
そんな夢のような時間も、ハティが自らの夢のためにピーターとNYに行く計画を進めようとすることで、いよいよ悲劇の終点が見えてくる。
ピーターには奥さんとの生活があり、ハティにはカモフラージュのトミーとの関係があり、それが二人の感情を錯綜させる。
それによって、ハティはピーターとNYに行ってお芝居の夢を実現させることの執着が増していき、一方のピーターはこの田舎町には自分の居場所はないこと、ハティに魅かれる気持ちをを持ちつつ、教師として、夫として、大人として、それは出来ないと苦しむ。
悲劇は、二人の相反する状況が頂点に達した時に起こる。
でも、その悲劇の裏にあるものはハティの魅力や夢に反して、ものすごく陳腐だ。
でも、陳腐だからこそこの話の哀切さが増して、静謐なロマンチックさがあるのだ。
もしかしたら、そういう虚無に浸っちゃうのって、中二病っぽくてダサくない?という人もいるのかもしれない(爆)
というか、この本のレビューの少なさを考えると、そういう人の方が多いんだろう。
とはいえ、虚無に浸っちゃっう、中二病のダサい自分からするとw、悲劇の終点に向かいながらも自らの夢を信じるハティの最後のパートと、それに続くデルのパートで、彼が「ハティは10代だった。そういう年頃は、これを愛だと勘違いして、いろいろ愚かなことをしでかすものだ。だが、いつかはその段階を抜け出す。ハティもそうだったはずだ」とハティの父親に言うところ。
さらに、ラストのピーターのパートで、デルが「…思うに、悪いのはハティだ」と言った後、続けて「わたしはあの子が大好きだった。こましゃくれて生意気なところまで全てが好きだった」と言う後悔?、ま、その悲劇の原因がデルにあるわけではないので後悔とは微妙に違うのだろうが、なんでこんなことになってしまったんだろう?、あるいは、どうにかならなかったもんだろうか?みたいな、偶然の重なりを悔やむやるせなさが切々と伝わってきて。それこそ、自分がしてきたいろんな間違いや失敗を思い起こさせて、その後悔でじーんとしてしまうのだ(^^ゞ
デルは保安官として、ある意味「この町は俺の町だ」みたいな面があって(アメリカではそれが普通なのかしれないが)。
去年のアメリカ大統領選での白人中産階級の伝統的価値観の横暴さに辟易(反面、気持ちはとってもわかるのだが)させられた日本人の自分からすると、ちょっと鼻につく存在なのだが。
でも、最後、デルはピーターに気持ちのよい「突き放し」をする。
ああいう、気持ちのよい突き放しは、逆に今の日本はないんだよなぁーなんて思った。
ちなみに、この本。
このブクログで、この本とは全然関係ないミステリー小説を検索したら、そのミステリー小説とともに表示されて。
なんとなく興味を引いてみなさんのレビューを見てみたら、あー!これ、絶対好みのタイプだ!とw
かねがね、このブクログの面白いところは、不思議なくらい読みたい本が見つかることだと思っているのだが。
その後、その全然関係ないミステリー小説を検索しても、この『ハティの最期の舞台』は出てこないのが、また面白い(ま、ありがちなITサービスの気まぐれなんだろーけどw)。投稿日:2021.03.09
やっぱ10代というか高校生というのは、自分の器の狭さに気がつかないんだよな。それゆえに怖いものなしで魅力的とも言える。SNSで知り合った他人同士が同じ学校の生徒と教師であった。教師全力で引く。女子運命…だわ。→死亡。「好きだ」という気持ちの単位が7とする。器8の女子にはそれ以外目に入らんだろうが、器21のおっさんには人生捨ててまで付き合ってやろうと思わない。結構軽薄な題材を丁寧に書きまとめていて、好感もてる著者だった。続きを読む
投稿日:2023.07.21
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