流血女神伝 暗き神の鎖(前編)
須賀しのぶ(著)
,船戸明里(イラストレーター)
/集英社コバルト文庫
作品情報
カリエがバルアンの正妃(マヤラータ)となって1年が過ぎようとしていた。いまだ懐妊の気配はないというところへ、バルアンの妃妾(シャーミア)でもある親友のナイヤが身ごもったとの報せを聞く。ナイヤを祝福しながらも、複雑な思いにとらわれるカリエ。そんな時、彼女はバルアンから聖なる山オラエン・ヤムに一緒に登ろうと誘われる。頂上めざしてふたりで旅する中、バルアンは意外な思惑をカリエに告げるのであった・・・・・・。
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商品情報
- シリーズ
- 流血女神伝
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社コバルト文庫
- 書籍発売日
- 2004.06.08
- Reader Store発売日
- 2017.07.28
- ファイルサイズ
- 2.8MB
- ページ数
- 256ページ
- シリーズ情報
- 全25巻
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この作品のレビュー
平均 3.7 (9件のレビュー)
-
<後編までのネタバレを含みます>
とにかく陰惨な話。途中細かなギャグシーンがないではないが、物語全体を覆うおどろおどろしさのようなものはシリーズ中でも断トツ。流血女神を奉じる秘境の集落ザカールを中心…に話が展開するためか。何と言うか、巻数が進むにつれてどんどん救いがなくなっていくような気がする。特に後編最後の一文などは本当に心が折れる。今まで散々辛い出来事が起きて、戦いがあって、殺戮があって、それでもようやく話は終息に向かっている、これで安心できると思っていたら「あれ」だもの。思わず「嗚呼…」と、ため息とも悲嘆ともいえる声が漏れてしまった。前編表紙の幸せそうなカリエとバルアンの笑顔を見るにつけても、かえってやりきれなさは増してしまう。本当に、あの苛烈で揺るぎない「赤き死の王」が、まさかカリエ一人を失ったことで「落ちて」しまうとは――。よもやあれだけのお膳立てをして、カリエが絶対自分のもとに帰ってくると信じていた訳ではないだろうが、ということは彼の怒りは本質的なもので、決して嫉妬や怨恨といった浅はかな理由によるものではないのだろうが、それにしてもカリエやバルアン本人が思っていた以上に、二人の関係はお互いにとって大きなものだったのだなぁ。今作ではカリエも今まで以上に悲惨かつ屈辱的な目にあわされたし(実際、女神というか作者はカリエにどSすぎると思う)、バルアンもバルアンでかなり大変だったので、どちらが悪いとも言えないが、やはりこの二人は間に人が入り過ぎというか、お互いをよりよく理解し合うための言葉が致命的に足りていなかったのだろうと思う。カリエが賢かったから何とかなっていたものの、バルアンの本質的な破壊への衝動、そうした破滅的な性質をも一つ越えたところにあるカリエへの深い愛(というか、執着?)そのものは、あまり彼女にも伝わっていなかったのではという気がしてしまった。もちろん、「赤き死の王」、冷酷な策略家としての部分と、女性不信を心の奥底に秘めた、感傷的で情愛深い部分とが同時に混在しているのがバルアンの難しさなのだろうが……。同時に、カリエを取り巻く壮大なる女神の運命を理解できなかったという点でも、いずれ二人は袂を分かつ結果となったのだろう。なったのだろうが、しかしこれは予測し得えた中での最悪の結末の一つとしか言えないのかもしれない。少なくとも、カリエを失い、自身の闇を制御していた箍が外れて、今後際限なき破壊と殺戮の渦にその身を投じ行くバルアンにとっては。
今作でも多くの人々がカリエのために奮闘し(もちろん、カリエ自身も頑張った。ものすごーく頑張っていた)多くの人が死に、少数の人が命からがら助かったが、個人的に特筆すべきはエディアルドの活躍だと思う。カリエ救出にかけるラクリゼの覚悟は壮絶だった。ラクリゼを追う形にはなったが、あのうさんくさい美形僧侶サルベーンの献身も目覚ましかった。イーダル王子の華やかさと強さはとりわけ落ち込んだ読者の心を救ってくれたし、トルハーン以下海の荒くれ者たちがカリエのために立ちあがってくれたことも嬉しかった。前作『女神の花嫁』からの流れで考えれば、ここはラクリゼとカリエの関係をメインに書くべきところだということも分かっている。けれども、今作においてやはり最も感動したのはエディアルドのカリエに対する山よりも高く海よりも深い愛情のほどだった。
思えば、登場人物紹介での扱いの割に出番の少ない彼ではあるが、エディアルドとカリエの関係には第一巻『帝国の娘』からずっと感動させられてきた気がする。目も眩むような眩しさと強さで自らの運命を切り開いていく娘と、常に彼女を守るように寄り添い、その身辺から一切の不安とためらいを蹴散らしていこうとする青年。恋人でもなく、兄妹でもなく、かと言って赤の他人でもない。言葉で説明できる分かりやすい繋がりなど何一つとしてないのに、カリエの心の最も奥深い部分におそらくエディアルドは常にいて、カリエの存在自体もまたエディアルドにとっては生きる動機そのものとなっている。一巻の感想でも書いたことだが、考えれば考えるほど不思議な結びつきを持った二人だと思う。少なくとも、普通の少女小説の類には見られない。可愛らしい主人公の少女がいて、端正な容姿の美青年がいれば、二人は必ず最後にくっつくというのがお決まりの展開である。けれども、カリエとエディアルドはそうはならない。そもそも、そうなりたいという意思もないし、読者にもその予感はない。ただ、恋人としても、また家族としても結ばれないからこその強い絆がこの二人の間には確かに存在している。「人は変わる」と繰り返し主張するカリエの言葉にも、一方でこの二人の結びつきは永遠だと確信できる揺るぎない何かがそこにはある。神殿が崩れ、砂岩の瓦礫が降り注ぐ中、自らの傷も省みずまずカリエとアフレイムを庇おうと走ったエディアルドの姿には心を打たれた。昔は、この人良い年して彼女の一人もいないのかなぁ、とか、こんなまじめ一徹仕事人間で友達いるのかなぁ、とか、そんなどうでも良いような些細なことを気にしていた自分が思わず恥ずかしくなった。エディアルドは、本当にただ真っ直ぐにカリエを愛しているのだ。彼女の魂が無駄な傷を負うことなくのびやかに成長し、彼女自身が望む幸せをつかむことだけを望んでいる。まるで、彼女の幸福が自分の幸福であるかのように生きている。そうして、そんなエディアルドの献身を理解しているからこそ、カリエもどんな辛い運命に苛まれようと、決して生を諦めない。彼の守護と愛情のもと、誠実に、そして真摯に自分の運命と向き合い、自らが正しいと思う未来に向かって一心不乱に駆けていく。カリエが女神の化身で、女神の半身たる神鳥リシクは裏主人公たるラクリゼが負う役割のようだが、「半身」という意味ではエディアルドも十分カリエの人生にとって不可欠な存在になりつつあると思う。
今作でも、『帝国の娘』の最後のように、結局エディアルドと二人国の追尾を逃れて姿をくらませることになってしまった。二人の失踪が招いた災厄の予感は既にバルアンの狂気によって示されてはいるが、未だカリエの胎内に守られつつある千人目のクナムの存在が新たな道を指し示してくれることに期待して、次巻を手にしたいと思う。続きを読む投稿日:2010.05.25
このレビューはネタバレを含みます
サラ怖いなぁ。グラーシカ頑張ってほしい。
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リウジールが現れて、とてもそわつく。
とりあえず、これからエドがぼちぼち出てきそうなので嬉しい。投稿日:2024.03.31
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