芥川賞物語
川口則弘(著)
/文春文庫
作品情報
一冊で芥川賞まるわかり。芥川賞の全歴史とエピソードが一冊に。
市井の愛好家が、愛と外からの冷静な目で著した芥川賞“非公認”本を、文春文庫から堂々刊行。
賛辞も非難もすべて盛り上がりの血肉にしてきた恐るべき文学賞・芥川賞。
1935年の創設から八十余年、第1回から第155回まで、受賞者、選考委員、候補者、マスコミが繰り広げてきた壮大なドラマを、著者独自の愛と棘ある視点で描き、「日本一有名」なこの賞の秘密を解き明かす。
いちばん面白くて読みやすい芥川賞史。
事件上等!文運隆盛!の八十余年
・「新人賞」なのに世間では破格の扱い。
・派手な受賞は叩かれる。地味な受賞は嘆かれる。
・太宰治の怒り、車谷長吉の「五寸釘」!?
・そして「火花」の250万部突破――
「文藝春秋がなぜこの本を文庫にしようと思ったのか、いまだによくわからない。
もしかしたら、これが芥川賞の恐ろしさなのかもしれない」(著者)
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商品情報
- シリーズ
- 芥川賞物語
- 著者
- 川口則弘
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2017.01.06
- Reader Store発売日
- 2017.01.27
- ファイルサイズ
- 0.5MB
- ページ数
- 368ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (6件のレビュー)
-
読書の幅を拡げようと思ったときにはみなさんどうしているのでしょうか。本との出会いには書評や店頭のポップ、ブクログからのプッシュ通知wなど、色々なきっかけがあるのでしょうが、自分は一時、直木賞受賞作を全…部読んでみようと思っていた頃がありました。この方法は、間違いなくこれまで知らなかったたくさんの楽しく面白い本を手に取るきっかけとなりましたが、「全作品」読破はもちろんすぐに挫折しました。でも、その後も折に触れ直木賞について検索しているなかで出会ったのがこの本の著者が主催する「直木賞のすべて」というサイトでした。
全受賞作にとどまらず、候補作や選評、さらに全受賞作が掲載されている書籍を入手する方法までがまとめられているこの読み応えのあるサイトの充実ぶりに、出会ってすぐに貪るように読み尽くしてしまいました。
この本は、その「補助サイト」である「芥川賞のすべて・のようなもの」を下敷きに、1935年の第1回から最近2016年の第155回まで、各回次毎に選考委員、候補作を示した上で、選考にあたっての議論や世評をまとめた書物です。
こう書くと純文学史を紐解くお堅い本に思えますが、「物語」と冠しているとおり、文学史の本ではありません。
何故かいつの間にか権威を纏い、選考結果をもって純文学の近況が語られるほどではあるものの、選考基準の曖昧さ、新人や短編とされてはいてもすぐにコロコロ変わる候補作の基準、重要な作品へのあげ損ない、とんちんかんな選評、受賞作、候補作、落選作を書いた人の反応、マスコミや評論家など外野の喧騒など、この賞を取り巻くあれやこれやを面白がっている、そんな本で、通読するとなるほど「物語」だな、と思います。そう言えば、実質文藝春秋が主催している文学賞を面白がる本が文春文庫から刊行されるのも面白い物語の一幕なのかもしれませんね。
通読して思ったのは、まずはこの本(と、下敷きとなっている元サイト「芥川賞のすべて・のようなもの」)の資料的価値の大きさです。芥川賞の公式サイトと言うべき公益財団法人日本文学振興会のサイトを見ても、各回次の受賞者、受賞作、掲載誌がまとめられているだけです。
候補作、選考委員、選評の概要や世評などがすべての回次にわたってまとめられており、芥川賞という物差しで本を選ぼうと思いたった時の水先案内としてありがたい限りです。まんまと直木賞のみならず芥川賞作品にも手を出してみようかと思わされてしまいました。
なお、サイトにはすべての選評概要が掲載されている一方で、世評や選考委員、受賞者、落選者の反応などの「物語」の主要部分は掲載されておらず、一方で本には選評概要は一部のみの掲載となっている反面、「物語」部分に力が入れられており、サイトの熱心な読者である自分でも、改めて本として買い、お金を払う価値はあると感じました。
もう一点、さらに面白かったのは「あげ損ね」の多さです。
そもそも第1回から太宰治にあげ損ねて発足したこの賞は、その後も、選考委員が「かつて芥川賞は村上春樹、吉本ばなな、高橋源一郎、島田雅彦に賞を出せなかった」と選評に書くほどですが、賞をあげ損なって全く省みるところがありません。ここは一つ、村上春樹にノーベル文学賞を獲ってもらって、あげ損ねの歴史に新たなエピソードが加わるといいなと思っていたりしますw。
賞というものについて。
実質的に一出版社が主催しているだけで公的な褒章でも何でもないこの賞がいつの間に権威とされてしまったのか、石原慎太郎の「太陽の季節」のおかげなのか、他の文学賞が短命に終わることも多い中、継続したことがよかったのか、受賞作なしをおしてまで年2回開催を続けたことがよかったのか、いずれにせよ他の文学賞と大きく異なることはないのにいつの間にやら芥川賞・直木賞に限って大きく報道され、受賞作がその時代の文学を代表するように評価されるのは、考えてみれば不思議です。
まあ、とにかく。そんなあれやこれやを、一歩引いた立場で俯瞰し、媚びるでもなければ憤慨するでもなく、面白がっている姿勢を通しているのがこの本の最大の長所です。
最後に。
サイトも本も、筆者にとってはあくまでも直木賞が中心で、芥川賞は「直木賞研究のため」に調べているものであることが、あえて後書きに書いてあります。
「書き進める間、芥川賞を知ることは直木賞研究の一環だからと自らに言い聞かせ、消し難い罪悪感を紛らわしもした。」だそうで、これはこの本一冊を読んでいるだけでは感じないものの、「直木賞物語」や、サイト「直木賞のすべて」と見比べると如実に感じます。
でも、読んでいる自分も関心は芥川賞より直木賞に向いているので、何となく「直木賞のついでに芥川賞について読んでいる」自分にとっては申し訳なさが軽くなって助かったのでしたw。続きを読む投稿日:2020.01.14
今年の1月の16年下期芥川賞の時に新刊で出ていたので買って、しばらく積ん読になっていたところ、この7月の17年上期芥川賞発表のタイミングで読み終わるとか。
なんというか芥川賞ってドラマだなぁ。作品はそ…んなに読んでなくても、賞そのもののドラマが面白い。
とはいえ、この作者の作品紹介が素晴らしいので、紹介された受賞作や候補作はことごとく読んでみたくなるという…。続きを読む投稿日:2017.07.22
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