ぼんやりの時間
辰濃和男(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.8 (25件のレビュー)
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1.著者;辰濃氏は、大学卒業後、朝日新聞社に入社。ジャーナリストでエッセイスト。ニューヨーク特派員、編集委員、論説委員・・を歴任。1975~1988年まで「天声人語」担当。「文章の書き方」「文章のみが…き方」「四国遍路」等、著書多数。名言は、「雨が降れば雨と共に歩く、病気になれば病気と共に歩く、風が吹けば風と共に歩く」。
2.本書;先人の言葉を傾聴し、自身の体験を交えながら、豊かさを模索したエッセイ。都市化は暮らしを便利にした反面、地球環境を破壊。時間と効率を常に追い求める生き方が現代人の心を荒廃。こうした認識で、辰濃氏は、“ぼんやりと暮らす事の価値を再認識した方が良い”と説く。三章構成(第一章;ぼんやり礼賛→常識に逆らった人、第二章;ぼんやりと過ごす為に→その時間と空間、第三章;ぼんやりと響き合う一文字)。
3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想を記述);
(1)第一章の中の『6.ぼおーっとして生きる』より、「深沢(七郎)が多くのエッセイで説いているのは、「終日ごろごろ寝転がって暮らせ」という事ではなく、「何もせずにひたすら森にこもれ」と説いている訳でもない。繰り返し言っているのは「楽しい時間を作れ」という事。「・・嫌な事は忘れて、楽しい瞬間をなるべく多く作る事だ。・・稼ぐのは面倒くさい事だが、楽しい瞬間を作る為にはそんな支度が必要なのだ。・・」
●感想(1)⇒「楢山節考」等の著作で知られる、深沢七郎氏の生き方です。氏の思想は、人間滅亡教(自分の食べる分だけ働いて、後はぼおーっとして暮らせばいい)と言われます。その生き方は、羨ましい反面、社会的にはやや問題です。人としての義務(仕事への貢献・子育て・・)を果たすという社会貢献が人間の責務だと思うからです。ただ、「稼ぐのは面倒くさい事だが、楽しい瞬間を作る為にはそんな支度が必要」と言っているように、“ぼおーっとして生きる”前提としての労働観に一安心。
「楽しい刹那の集積が人の一生」と言う深沢氏。しかし、この世は、楽しい事よりも、嫌な事・苦しい事の方が多いのでないでしょうか。苦しみを重ねる程、楽しさが倍加するのも事実ですが。
(2)第二章の中の『2.心安らぐ居場所で』より、「休むことが仕事に励む力を生む。・・いい静があるからこそ、いい動が生まれるのではないか。いい休みがあるからこそ、いい働きが出てくるという面もあるのではないか。暮らしの中心にあるのは、むしろ静であり、休みである。楽しい休みや、幸せな静があるからこそ、創造的な動や働が生まれるのだ。そう思えてならない」
●感想(2)⇒静の前提としての仕事について。高度成長を演出した企業には、家庭よりも仕事に力を入れる社員が多くいた、と聞きます。仕事の持帰りが当り前で、静の時を味わう事が難しかった時代です。今でこそ、働き方改革が叫ばれ、ゆとりある労働が奨励されます。評論家の中には過去の労働形態を悪のように言う人がいます。それは違います。ゆとり論議が出来るのも、先人の努力により、生活水準が向上したからです。問題はあったものの先人に感謝すべきです。私は、実務経験がなく、批判するだけの人達を信用しません。現場の苦労を身を以て理解できないのです。さて、著者が言うように「楽しい休みや、幸せな静があるからこそ、創造的な動や働が生まれる」に賛成です。“静”は難しく考えず、自分流で良いのです。私の静の一つは、連続休暇の時の家族旅行で英気を養う事でした。
(3)第三章の中の『「ぼんやり」響き合う一文字』より、「どんなに貧しい暮らしをしていても、心がたくさんの喜び、たくさんの満足、たくさんの感謝、たくさんの情け心に満ちていれば、その人は心の豊かな人、つまり“心の富める人”と言えるだろう。・・立居振舞いがいかにも閑居で、ゆったりしていて、落ち着いていて、急がず、いらだたず、こせこせせず、その一瞬を大切にする余裕のある人は“貴い人”と言っていい」
●感想(3)⇒著者が白居易の詩を自分流に解釈したものです。“心の豊かな人(富める人)”では、「たくさんの感謝、たくさんの情け心」が重要と思います。私は、幼い頃に母から、「他人様を優先しなさい、自分は後回しでよい」と言われました。それを思い出すた度に、母の“人への感謝心”を尊敬します。“謙譲の精神”は人間関係の潤滑油の一つという事でしょうか。次の“貴い人”になるのは大変難しい事です。苛立ったり・怒ったり・・は、人間の性です。「小人閑居して不善をなす」と言います。そうならないように、事ある毎に日々反省し、度量ある生活を心掛けたいものです。
4.まとめ;著者は本書の主題を、「ぼんやりする事、休む事、懶惰である事、閑な事、それらを楽しむ事の素晴しさを考える」と言っています。そして、「生を大事にする要諦は、今日という日の、今という時間を、ゆったりと、のどやかに過ごし、ぼんやりを楽しみながら生きる事だろう」と締めています。“ぼんやり時間”は生活にメリハリをつける為にも、老若男女を問わず、万人に必要と考えます。本書は12年前に出版。社会環境は大きく変化しましたが、人間の本質は変わらず、息抜きは必要です。私は、“ぼんやり時間”をリラックスタイムと解釈。現在は、「早起きし、一杯のコーヒーに舌鼓を打ちながらの読書」が至福の時です。蛇足です。愛犬を亡くし、新たな癒しを模索中。(以上)続きを読む投稿日:2022.04.09
「ぼんやり」の時間をもっと大切にしよう、というのが本書の主旨。
ぼんやりと過ごせば、心に余白が生まれ、感受性が研ぎ澄まされる。自然との一体感を味わい、心を解き放つことができる。それは人間の創造性の源…となる。
筆者は、飛躍した言い方になるのは承知の上で、「ぼんやりしてみようよ」と主張することは「近代」を問い詰めることになるとも述べる。近代化は街を賑やかにする一方で森や闇、静謐、風土生命体などを奪ってきた。それは即ちぼんやりする場所や時間を奪うことでもあり、そのことが心の破壊とも繋がっているのではないかと。
このような主張でも文章が押し付けがましくないのは、筆者自身が自然の中で懶惰に、ぼんやりとしながら執筆を進めたからだろうか。
いわゆる「タイパ主義」という考え方が轟きはじめている現代にも響く内容だと感じた。
1930年に生まれ、大戦も含めあらゆる時代・世代を眺めてきた筆者だからこそ書けた文章なのではないか。絶版が残念だ。
らん‐だ【懶惰・嬾惰】
〘名〙 (形動) なまけ怠ること。また、そのさま。(精選版 日本国語大辞典)
関連本
串田孫一『山のパンセ』
谷崎潤一郎『懶惰の説』
ミヒャエル・エンデ『モモ』
【メモ】
図書館でたまたま手に取った。続きを読む投稿日:2023.01.11
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