イズァローン伝説 (1) アッハ・イシュカの庭
竹宮惠子(著)
/まる得希少本
作品情報
これは人びとと自然とが、まだ分かたれないころの物語。樹海に覆われしイズァローン王国にはふたりの王の子がいた。現王の子アル・ティオキアと、亡き兄王の子ルキシュ――幼少期を両性体(プロトタイプ)で過ごすというこの国の子どもの特質により、王子でもなく王女でもないまま、きょうだいのように仲良く育っていったふたりであったが、時がたち、ひとり――ルキシュが王子となっても、もうひとり――ティオキアは両性体のままであったことにより、次期王位をめぐる周りの人々によってふたりの仲は切りはなされていった。その中、ティオキアはイズァローン王の命により人質として隣国へ送られることになる――!!
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商品情報
- シリーズ
- イズァローン伝説
- 著者
- 竹宮惠子
- 出版社
- eBookJapan Plus
- 掲載誌・レーベル
- まる得希少本
- Reader Store発売日
- 2015.10.13
- ファイルサイズ
- 73.8MB
- ページ数
- 188ページ
- シリーズ情報
- 全12巻
※この商品はタブレットなど大きなディスプレイを備えた機器で読むことに適しています。
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この作品のレビュー
平均 4.5 (4件のレビュー)
-
間違いなく、竹宮先生の最高傑作
古いマンガだと思って侮ってはいけません。
ファンタジーだけにとらわれない、人間関係、政治、人の心の闇やいいところ
伝わるものがたくさんあります。
ぜひ一度手に取ってみてください。待望のSony Sto…re登場です!!続きを読む投稿日:2015.10.19
-
<最終巻までのネタバレを含みます>
ベタ塗りの背景に銀河が輝き、宇宙や惑星の絵を前にモノローグのような語りが展開されつつ、何だか壮大な印象を与えたうえで未消化なままに物語が打ち切られる――読後感は、…そうした意味でむしろ『地球へ…』に近いものがあるかもしれない。全体に漂うややオカルトチックな雰囲気は、むしろ後の『天馬の血族』と多分に共通する点を持っているのだが。
そのためか、読む人を選ぶだろうなぁと感じる一品。名作であることは間違いないが、暗いし、恐いし、とにかく辛い。大まかな説明を試みるとすれば、これは結局「人の世にはびこる悪と人間はどう戦っていけば良いのか」、それに対する一つの答えを出そうとしたものになるのだろうけれど、とにかく読者に対して真摯な作者は、最後まで「大丈夫、悪は絶対に滅びるから!」などと言ってくれない。「いや、悪はこの先もなくならない。絶対に消え去ったりしない。だからこそ、未来永劫その脅威を真っ向から見据えて…」と、何とも現実的な、言ってしまえば夢のない立場を一貫して取るのだ。そうして、そのために必要な武器こそが「愛」で、逆に言えば「愛」ぐらいしか人間が魔に対抗し得るもののうちでその身にまとえるものはないのだろうというのが、個人的にこの作品が伝えたかった結論の一つではないかという気がする。作中では、ティオキアとルキシュ、ティオキアとカウス・レーゼン、ルキシュとフレイア、ユーディカとセイレンというように、手を変え品を変え繰り返し描かれ続ける中心的テーマである。だから、その意味でこの作品はある種ラブロマンスとして読めなくもない部分を持っているのだが、ただここで取り沙汰される「愛」というのは、いわば人類という種の生存に関わるもっと凄絶なレベルのものを指すので、表紙から「異国情緒あふれる宮廷ものかな?」なんて期待を抱いた読者は良くも悪くも予想を裏切られることになる。
ここで描かれている愛は、確かに人を救う。が、それは魔(作中では、人間の根源にある悪のエネルギー)を滅殺するまでには至らない。ただ、悪と立ち向かう勇気を人間に奮い起させるだけだ。ここで言われる愛は、恋のように幸福な幻想に耽溺することを決して人間に許さない。だから、ティオキアの最期のように、時には愛するものを残虐な火あぶりに処し、カウス・レーゼンのように主君を追って自らを手に掛けるという壮絶な結末をも引き起こすものともなり得てしまう。
話を元に戻そう。SF、ファンタジー、神話、民間伝承、聖典、ラブロマンス……タイトルに「伝説」と銘打ってこそいるものの、あらゆる要素がエンターテインメントの名のもとに一つの次元に引き結ばれた構成が素晴らしい。相変わらず、多数の陣営がそれぞれの思惑で以て無作為に入り混じる政治的展開を、きっちりと順を追って理知的に描き分けている様は見事だ。ただ、そこは竹宮作品らしく、最初は「インディ・ジョーンズの大冒険」のような分かりやすいドキワク感で釣っておきながら、後半では怒涛の勢いで「善と悪との全面対決」やら「人間という種を生きながらえさせる原動力=愛」のような哲学的とも言える重いテーマを次々打ち出してくるところはさすがという感じではある。そのせいか、個人的には途中から自分は楽しい異世界冒険ものを読んでいるのか、それともイエス=キリスト伝のパロディを読んでいるのか、訳が分からなくなってしまうような部分もあった。ただ、「救世主」としてのティオキアの運命然り、天啓に目覚めてゴルゴタの丘で引き立てられる彼の人生が何らかの下敷きになっていることは間違いない。「強すぎる魔を払われると、残された人間は塩の柱になってしまう」という設定も、旧約聖書のソドムとゴモラのエピソードを彷彿とさせる。
そうして、個人的にこの作品について何より恐ろしかったのは、まるでカルトの教祖のようなティオキアの振舞いを、私たち読者が考える以上に作者が冷静に扱っていたという点である。普通、今の社会で「まともな」神経を培った人間なら、新興宗教の類に生理的嫌悪感を覚えることは当然で、本人がそれと意識していなくとも、そうしたものを描く際には少なからず「うさんくさいもの」としての忌避感が含み込まれているものだ。だが、この『イズァローン伝説』において、竹宮惠子ははっきりカルトを否定しようとはしない。無論、だからと言ってそれを肯定している訳でもない。ただ、非常にニュートラルな超越者とも言うべき視点から、「何の法的罪悪を犯している訳でもないのに、国家体制に脅威を与えるものとしての宗教」の恐ろしさを冷徹に描いているのだ。正直、下手な歴史書を読むよりも、この作品を読んだ方が、いかに宗教という現象が当時の支配者層にとって脅威であったか、その逼迫した恐怖感をより生々しく身に沁みて感じられる。何ら悪いことをしている訳でもなく、時には独自の道徳を説いて若者たちの品行方正に役立つことさえあるのに、それでも「あれに飲み込まれたら駄目だ」という強い危機感だけが揺らぐ理性に警鐘を鳴らす。結局のところ、考えてみれば自分もまた社会道徳という名の宗教の信者である訳だけれども、それがこの作品内の宗教像とぶつかり合うことで生まれる根源的恐怖の深さを思いやるにつけても、やはり宗教というものが人間の存在の根深い部分を規定しているものであることに間違いはないということを思い知らされる。
キャラクターも皆どこかひとくせある者たちばかりだったが、中でもティオキアという人物には竹宮作品ならではの複雑極まりない多元的なキャラ造形が光った。男でもなく女でもなく、善でもなく悪でもなく、人の世の救世主であり、魔の国の帝王でもあるという究極の両義性。考え得る限りの全ての矛盾をその身に抱き、突如として娼婦のような振舞いを犯すかと思えば、次の瞬間には無垢な生娘のように泣いて周囲に憐れみを乞う。一体どれが本当にティオキアなのか、そのことが当の本人にさえ分からない寄る辺なさには、読んでいるこちらとしてもずいぶんと翻弄された。ティオキアもどんなにか辛かったことだろう。そうして、そんな彼を最期までヒトとして愛し続けたルキシュやカウス・レーゼン。カウスも最初の辺りではユーディカ辺りとくっつくのかと思いきや、彼があそこまでの壮絶な献身をティオキアに捧げているとは思いもしなかった。そのあまりの清冽さに、どこか人間離れした印象を持たせる主従だが、その愛の眩しいまでの輝きは、それだけに美しく深い情趣によって読者の胸に刻まれる。自らを魔王と共に封じたティオキアが、次にいつ目覚めるのか、そもそもティオキアがティオキアとして再び目覚めることなどありはするのか、それさえも分からない混迷の中、それでも終には手に手を取って、二人がヒトとしての喜びを享受できる未来を願ってやまない。続きを読む投稿日:2010.07.26
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