メコン・黄金水道をゆく
椎名誠(著)
/集英社文庫
作品情報
「メコンの旅は贅沢だった。自然と人間のからんだ地球規模的な歴史の絵巻物をかいま見たようなときめきがふんだんにあった」(あとがきより)。インドシナ半島を縦断するアジア第三番目の大河、メコン。45日間、4500キロ。ラオスでの濃厚ビールを皮切りに、カンボジア、ベトナム、そして南シナ海へ。たくましく力強く大河に生きる人々を追いかけてずんずんくだった、シーナ待望の写真紀行。ラオス、カンボジア、ベトナム──。豊饒の大河とともに生きるいのちを追って濁流4500キロ!
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商品情報
- シリーズ
- メコン・黄金水道をゆく
- 著者
- 椎名誠
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2008.02.01
- Reader Store発売日
- 2015.01.09
- ファイルサイズ
- 11.4MB
- ページ数
- 264ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (9件のレビュー)
-
2019年6月13日読了。
●P191
カエルの皮剥き。ニワトリの肛門から空気入れで空気を
入れ、パンパンにして肉付き良さそうな感じに。
●P202、206
メコンデルタの蛇料理。…
毒へビ売りの親父の手際の良さ。
毒へビ「ミドリヘビ」は、「ザンロ」と呼ばれていて
漢方の薬として重宝されている。
●P229
「ドンダイ漁」
河口に簡易に建てられた小屋に2週間いて
陸に2日帰って、また2週間海の上だ。
「夜になると眠くなる。朝は起きたらすぐに仕事だ。
何もあまり考えない」
続きを読む投稿日:2019.06.13
メコン川を下る紀行文。
昔からこうしているからこう暮らしている、という人々がいたり、政策で集団移転してきた人がいたりというその国々ならでは事情に接した時間も多かったようだが(例えばp.42)、一方で…、日本企業が関与するプロジェクトで森林破壊の事例に接することも多かったといい、ラオスでの保水力現象により洪水リスクが高まっているとの指摘には寂しい思いをした(p.62)
コーンパペンの滝をラオスの人々は「メコンが折れるところ」と呼んでいるようだが、森林の先で突然出現するその滝の濁流の描写には臨場感があった(p.87)。そしてまたその滝を迂回するためフランスの時代に敷設されたというメコン軽便鉄道の機関車が放置されて残されているというのも興味深かった(最後は日本軍が破壊したものとのこと)(p.103)。
「何もないコン島の豊かな日々」という章もまた魅力的で、「何十年も動かない同じ漁をしていて、網を持っている」という父親の網漁(p.111)は、メコン地域の暮らし方の象徴であるようにも思った。プロレスのテレビ放送に集まる人々を目にして、かつて昭和の日本でも同様だったという風に著者も重ね合わせているが、「日本人の時間とラオスの人々の時間がはっきり別のサイクルで流れているのを知る」(p.127)というのも的を得た表現だし、ともするとあと20,30年もすると今の日本のようになってしまうのかなと思うとまた少し寂しさを覚えたものである。
巨大なトンレサップ湖にはいつか旅してみたいと思うが、水上生活は「最低」と医師が言うのには心が刺さった。水上の監獄みたいなものだとも。陸の方で働き口があったらすぐにでも辞めたいとも。精神的な閉塞ストレスが極限まできているとも。そして水の衛生の観点からも、便所から3mを離れていないところから組んでいる赤黒い水でその夜のスープを作っているというのも、ある種のこの地域の人々の身体の強さを感じる。(p.152-153)
さてベトナムのメコンデルタに下ってきて養魚場経営を一帯でみるようになったようだが、トンレサップでもみたこと密接な関係があるということも興味深い。養魚場経営は、フランスからの独立直後、自由主義社会だった南ベトナムでは早くから行われていたがベトナム戦争が始まってできなくなったため、戦火を逃れてカンボジアのメコン川やトンレサップにいきそこで経営するようになった、けれど1975年のポルポト政権下、ベトナム人は迫害を受けて戦争終結後にまたメコンデルタに帰ってきたということらしい。ただ社会主義国になっていたベトナムでは大規模な個人経営は認められず、そのころのチャウドック周辺では百軒ぐらいが小規模に仕事を許されていた程度だった。その後1986年のドイモイ政策で開放経済に移行、国が個人経営の資金を安い金利で貸してくれるようになったために急速に養魚場経営者がふえて現在チャウドック周辺には約2000軒養魚場があるとのことで、完全な過当競争で生き残り競争に入っている、と。戦争によってベトナムとカンボジアを行き来したわけだが、両地域の繋がり(特に養魚場経営者)がわかる説明だった。(p.199-200)
なおメコンデルタでは、蛇はめでたい生き物とされており結婚式などではごく普通に食べられているとのこと(p.202)。
それ以外でも、「豊かな川」と感じさせる多くのエピソードに満ちていて読みごたえが意外にあったし、漁の多くが「待つ」漁であるということも不思議な魅力であると感じたようだ。それゆえの、自然体のさりげなさい逞しさというのは良い表現だ。逆に言えば、狩猟民族のように常に移動していなくても、じっと待っているだけでめざすものを入手できるということであり、肥沃な大河らしい話である。(p.246)
***
最後に、解説を石川直樹さんが書いている。椎名さんの著作を多く読み、影響を受けていたというのもまた面白い話である。続きを読む投稿日:2023.04.01
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