この作品のレビュー
平均 3.3 (4件のレビュー)
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“「そうだな……」
蟻馬はしばし考えて、神妙に答えを待つ伊依を一刀両断した。
「馬鹿だな。お前は」
「馬鹿ですか」
厳しい評価だ。
蟻馬は頷き、溜息をひとつ零した。
「何でもかんでも抱えこむし、思いこ…んだら止まらないし、すぐ視野狭窄になって失敗して落ちこんで――。俺から見たら、かってに自分に試練を課してかってに挫折して、それを繰りかえして、出口のない迷路をぐるぐる廻っている馬鹿にしか見えんね」
「…………」
びみょうに言いかえせないのが哀しい。
けれど不思議と嫌な気持ちにはならない。べつに蟻馬も伊依を罵倒したいわけじゃなく、ほんとうにすなおな感想を聞かせてくれているのだろう――悪意は感じなかった。
蟻馬は静かに、前からずっと言いたかったのだというように、台詞を吐きだしてくる。
「いいか、空井伊依。やたらおまえを褒めてちやほやする連中がいるがな、だからって調子に乗るんじゃねぇぞ。おまえは天才じゃない。よくいる頭悪い馬鹿だ。使命だなんだ背負ってても、親がどんだけ偉い怪造学教授でも、関係ない――ただの人間としてみたら、どこにでもいる十六歳の馬鹿な子供だ、いいか?弁えろよ?」
「………はい」
なぜか涙が溢れてきた。
でもそれは、嫌な涙じゃなかった。
肩の荷が下りたというか、胸がすいたというか、ほっとした。”
井口文女 いぐちあやめ:怪造学会防衛部副部長
ヴェクサシオンと遊が救われてよかった。
最後はちょっと涙目。
ヴェクサシオンが可哀想すぎて、泣けてくる。
でも、伊依ちゃんが彼女を助けてくれて本当良かった。
“「――見せつけてくれちゃってね」
不意に……声がした。
軋むような、車椅子の音も。
「公衆の面前で、恥知らずに抱きあってさ。馬鹿みたいな台詞を言いあって、あんたら脳みそ膿んでんじゃないの?あぁ気持ち悪い。吐き気がするね。死んだほうがいいよ。目障りだね。どいてよ……通れないじゃない」
抱擁をしあっていた伊依と遊は、弾かれたように声の方向を見た。式場の建物――その傍、狭い道路の街路樹の下にいたふたりは、なるほど通行の邪魔ではあった。けれど、弔問客はおおむね揃ったようだし、遅れてきた誰かがいるとは思わなかったのだ。
でも。
そうか。
まさか――いろんな意味で、来ないだろうと思っていたけど。
彼女は、やってきたのだ。
(中略)
「いつか君が元気になったら、そのとき――ゆっくり喋ろう。君と話したいことがたくさんあるんだ。言いたいこと、聞きたいこと、たくさんあるんだ。嫌だとは言わせないよ、そのくらい……いいでしょ?」
そして彼は、目の前の少女を人間として、呼称したのだ。
「姉さん」
平凡な、遊の願い。
不器用な、その宣言。
その言葉が、感情が、どのように受けとられたかはわからない。呼びかけられた相手は、一瞬――呆然として、何かを言いかけて、口を何度か開閉して……けっきょく、言葉にならず、目元にみるみる涙を浮かべた。
「……うん」
しっかり頷き、寂憐院友樹は、その表情を隠すみたいに。
震える指で麦わら帽子を持ちあげると、深くかぶった。”続きを読む投稿日:2010.06.22
※表紙の水着パートは一瞬です
こんなに色恋沙汰イロコイザタ言ってたのに、本当に核心に迫ったのは伊依と遊くんの関係だけってのが・・・日日日すなあ・・・・・・投稿日:2020.08.19
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