この作品のレビュー
平均 3.8 (5件のレビュー)
-
高野山、上田などを訪れるご縁があったので、購読。
1971年から1996年まで長期連載された、司馬遼太郎さんの紀行エッセイ。その第9巻。
司馬さんだから、歴史のオハナシが当然多いです。
そうなんです…が、今回読んでみて、思ったことは、2重の意味で歴史のオハナシである、ということ。
というのは、例えばこの巻で言うと、発表が1976年1月なんですね。
執筆は1975年でしょう。
2015年から考えると、40年前のことです。
だから、歴史の話題が多い紀行エッセイなんだけど、同時に、「1970年代の日本の地方についての、貴重な見聞録」でもある訳です。
内容は、
①新潟県に、水田稲作の姿を見て、農業中心の共同体を訪問。
②兵庫県の揖保川沿い。龍野など。
③高野山を訪問。
④長野県佐久平、上田など
という旅です。
当然、エッセイですから、基本は「とりとめもないオハナシ」なんですが、当然、司馬さんの感じ方が好きなヒトなら、それなりに面白いです。
ある種の文明批評であり、思想であるところ。
備忘録に何点かだけ記します。
①新潟の農村の、60年代を経た風景から、「日本の、土地の価格への執着、土地の利益使用への公的な制限の無さというのは、世界的に見て非常に珍しいこと」という話。
それが1975年時点での観察であるところも面白い。
対比的に、中国のことなどがちょっと出てきます。
すごいなあ、と思うのは。
1975年であれば、ある種の非自民党的な知識人の中では「共産党中国はスバラシイ」というのが、ある種常識、モードだったはずなんですね。
紐解けば、「2015年現在で考えると、非常に恥ずかしいというかミットモナイ」と思われるような、共産党中国礼賛の文章を、「え!この人が?!」という人が書いていたりします。
(まあ、情報が今に比べるとあまりに少なかったということと、公害やベトナムをはじめ、60年代のアメリカ資本主義的なぶん回しの横暴さが、21世紀の常識を超えていた、ということを踏まえて考える必要がありますが)
ところが、中国に造詣が深いはずの司馬さんの文章は、そこンとこ、やっぱり理性的だなあ、と思いました。
②日本の風景が変わったのは、応仁の乱前後(農業技術の改革)と、高度成長期だ、という話を思い出しました。
③ところが後年になると、変化を嘆いていた70年代は、まだまだ高度成長以前の風景が地方に行くと潤沢に残っていた。実は暮らし方考え方含めて、大変化が起こったのは80年代だ、という話もありますね。
④歴史話で、徳川家康が若い頃に三河の一向一揆で大いに苦労した、と言う話は実はあまり知らなかった。へーっと、思いました。やっぱり苦労してるんだなあ、家康さん。
⑤平安時代までの律令制度を「地方の農作物を京都の貴族が搾取するシステム」と。なるほど。バッサリ。
⑥兵庫県、播州龍野。童謡「赤とんぼ」。詩人、三木露風。なんだか童謡の風景が浮かぶような素敵な文章でした。男はつらいよシリーズでも、恐らく筆頭の名作「男はつらいよ・寅次郎夕焼け小焼け」も、播州龍野が舞台だったなあ、と。2015年現在、どういう風景なんだろうなあ、と思いました。
⑦浄土宗と浄土真宗、法然のオハナシ。
⑧九度山は高野山の避寒地だった。
⑨高野聖という、スピンオフ的な庶民向けの宗教家。念仏聖へと変化。そもそも真言宗自体が仏教なのか?というオハナシ。
⑩性交を崇める、「立川流」という流派。後醍醐天皇などが熱中。一時大流行。
⑪長野で真田家話。「みんな源氏か平氏に系図を書き換え」という話が面白かった。渡来系がいなくなる。
⑫商業主義は良いのだけど、モラルが必要、と。マーロウみたいな司馬さん(笑)。続きを読む投稿日:2015.02.09
以下抜粋
・大和政権というのは要するに水稲農業を奨励し普及し、それによって権力と富を得、秩序と安定を得ようとする政権ということがいえるであろう。
極端にいえば、徳に化していることは定着して稲作をしてい…ることであり、徳に化していない(化外)ということは、稲作をせずにけものを追ったり、魚介を獲ったりしているということであったにちがいない。
・この「公民」をきらった者が、逃散して浮浪者になり、関東などに流れて原野をひらき、農場主になった。ただ律令体制ではそういう場合の土地所有の権利が不安だったため、かれらは流人の頼朝を押して立て、京の「公家」に対抗し、ついに鎌倉幕府を頼朝にひらかせることによって、自分たちの土地所有の権利を安定させた。
私はそういう意味で、鎌倉幕府の成立というのは明治以前における最大の革命だったと思うのだが、ただ「公家」を潰さずにその権威や制度、あるいは官名といったものを政治的習俗として残したというところに可笑し味がある。
・周知のように、日本の古い神道信仰にはもともと社殿がなく、山一つを神体としたり、磐を神体としたりして、拝殿さえなかった。神社が社殿をもつのは仏教が荘厳な中国式建築とともに渡来したことの影響が主たるものかと思われる。
・平清盛は、経世家としては、頼朝以上だったであろう。かれは海運をさかんにし、対宋貿易をもって立国しようとしたという点で、日本最初の重商主義の政治家だったといっていい。
・七世紀後半に百済が新羅のためにほろぼされ、その遺臣や遺民が大量に日本にきて、日本の上代文化に重大な影響をあたえた。
日本の外洋船の建造技術にも、大きな影響をあたえた。遣唐使船というのはほぼ百済技術による大船だったわけで、百済式船舶といっていいであろう。続きを読む投稿日:2023.09.17
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。